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孤高の異能力者

作者: 七志

ほんの数分の場面をミステリー調に書いてみました。

楽しんでいただけたら幸いです。

またこの時間がやってきてしまった。

午前8時台の電車には、通勤通学で利用する人達で溢れかえる。また、乗客の構成比は老若男女全てに分布されており、その中でも、自分と同世代または近しい年齢層の女性客は割と多い時間といえよう。

概ね、締める割合は35〜40%程度だろうか。

そして、この約4割という高めの割合が、私を悩ませる一番の問題なのだ。


私がこの特殊能力気づいたのは一年程前だった。

元々能力は発揮していたのだが、それが当たり前だっために、他とは違うという事が分からずにいた。

同僚との帰りの電車で、それが普通ではない事に気付き、それ以来対処方法を常に考えながら生活している。


また、この能力は一度女性と目を合わせてしまえば、ひとりでにその効果が発動されてしまう。

発動してしまえば、効果の打ち消しなどは当然できず、後戻りできないため、ただ手遅れとなる。


そのため、乗車位置、目線の位置、体を車内のどこへ置くか、万が一目線が合ってしまった時はどう誤魔化すかまで、ありとあらゆる予測演算をした上で、万全の状態で臨んでいかなければならない。

私からすれば、たかが乗車ではなく、されど乗車なのだ。


乗車時間を変えれば良いのでは、と思うだろう。

しかし、それでは私がただ早く出社するか、思い切り遅刻するかの二択になる訳だが、そもそも早起きは好きではない。

そんな私が突然1時間前から、会社へ行っていたとしたらかなり怪しまれるだろう。

そもそも、そういう人種は、健康に目を向けて早起きにチャレンジしている意識高い系男子か、余程仕事が好きなただの変態だけだ。


マイカーや自転車通勤ももちろん考えた。

まず、マイカーはない。そもそも選択肢にすらなり得ないものだった。

自転車通勤は、ただ単に面倒くさいと思った。

はっきり言って非常に普通の理由だ。


今まで、平凡な人生を歩んで来れたのだ。

できるだけ、これだけのためにルートを変えたり、新しい事をしたり、何より目立つことはしたくないのである。

そして、これからも普通のどこにでもいる年相応のサラリーマンでありたい。

普通、平凡、影薄。これが、私が最も大切にしている、三大テーマである。


そうこうしているうちに電車の到着まで15分を切ろうていた。決める事をしっかり抑えておかなければ事故に繋がる。

まず乗車位置だ。

最先端車両、前方から2,3合車は極めて混み合う位置になってしまう。

都心で降りる際。乗降口が近いために乗車客数が最も多い位置といえる。

逆に最後方車両はというと、女性専用車両のため対象外。そこに続く8,7号車も途中乗り換え時に、非常に効率良く乗り換えできるため、割と混み合っている。


そうすると、余る車両は4,5,6の3号車両となるが、どれでも良いかと言われれば、そういう訳ではないのだ。

またここで細かな予測が必要となってくる。

もし、選択を少しでも間違えてしまえば、結果的に苦しむのは自分だ。単純思考で動いてはならないのだ。


3号車と5号車は、どちらかの車両が、必ず止まる駅の階段前に位置している。

そのため、人の出入りが多く、動きが増えれば増えるだけ、目線が合うリスクが高くなる。

いくら自分が気をつけても、他人の動きまで支配できる訳がないのた。そこまでは予測しづらい。


そうなると、乗車位置は4号車で決まりだが、4号車両のどのドアから乗るかがまたポイントとなる。


優先席付近は、最近では年配の方や足の不十分な方が座る席、という認識よりも、そういった方がいた時に優先して座ってもらう席、という認識が標準化されつつある。

そうすると、席に座る若い女性の比率がやや高めになることがある。


もし乗車のタイミングで、目が合ってしまったらここまでの計画が全て水の泡になってしまう。

結局、乗る位置は真ん中のドア2箇所のどちらか一方。

電車が到着するタイミングで、どちらがより広いかを瞬時に判断し、速やかに乗車する運びで決定とした。


乗車位置がある程度絞られたとしても、問題はまだ山積みである。

次は、乗車した後、車内の何処に留まるか。

立つのか、座るのか、何処に目線を向けるのか、目を開けるか瞑るか。

解決すべき点はまだまだある。


一先ず、ある程度の目測ではあるが、乗車後は速やかに一番近い座席へ座り、即座に携帯画面以外見ない、という一般的なスタイルを展開した方が良いだろう。

ただし、もし座席が空いていなかった場合の選択肢は、入り口横・入り口前スペース・座席前の吊革の3箇所となる。

そうなった場合は厄介だ。

どの場所も必ず人の動きが発生する。

ただ、最も携帯画面から目を離さず、体もあまり動かないで良い位置は、やはり入り口横にもたれかかる形と言えるだろう。


そして、携帯画面から目を離さない方向にしたが、目を瞑るという選択肢もある。

しかし、実はこれが一番危険だったりするのだ。

勿論状況次第では安全策になり得るのだが、車内で立っている場合、人の動きに合わせた目を開けたと仮定しよう。

もしその時、偶然目を開けたタイミングに、こちらを見たのが女性だったらそこでゲームオーバーとなる。

つまり、目を開けるまで周りの状況が飲み込めないため、出たとこ勝負になってしまう訳だ。

これはあまりにもリスクが高い。

その反面、携帯画面をずっと見ていれさえすれば、視野ギリギリのラインで状況把握、危険察知ができる。

リスクヘッジとしては、このケースでいえば、目を開けている状態が正解となるだろう。


そんな風に、携帯画面を長時間見ていく事を考えていると、そもそもの携帯のバッテリーは問題ないのか気になり始めた。

こういう時に限って、実は充電が失敗していて、残り20%を切っているなんていう事があるものだ。

勿論、家を出るタイミングに、充電チェックはしてきていたから問題はないはずなのだが、何かしらのアプリが知らず知らずの間に稼働し、バッテリー消費をしていたなんて事も経験したことがある。

念のため、携帯の画面を明るくしてみると、バッテリー残量は89%と、問題はなさそうだ。

しかし、90%をすでに割っている点が、少し気がかりだった。

消費スピードが少し早く感じたのだ。通勤時間内で問題が起きる程のスピードではないと思うが、省エネモードにしておいて損はないだろう。


『まもなく、2番線に…』


いよいよだ、時はきた。

まずは計画通り4号車両の停車位置へと移動を始める。

並んでいる乗車人数は多くない。

ここまでは問題なく進んでいる、後は実際の乗車客数が多くない事を祈るばかりである。


電車の先頭車両がホームへ近づいてきているのが見え始める。

次第に緊張により心拍数が、電車が近づくにつれて伝わってくる振動と連動するかのように、段々と上がっていく。

スピードが少しずつ落ちていき、いよいよ4号車が近づいてきた。

ガタンと繰り返される轟音に引っ張れるように、心臓を打つ強さはピークを迎えた。


外から見える車内は、予想を裏切る全く想定していなかった光景が目に入ってきた。

ドアが開くと、そこには沢山の女子高生が乗っていた。

学校の先生なのだろうか、纏めている大人が数名、同乗している。

恐らく校外活動なのだろう。

修学旅行のような大荷物は見受けられない。

しかし、そんな冷静な分析をしている場合ではない。


空席・ドアの横・前のスペース・吊革など、余裕のある場所はどこにもない。

乗れない程混み合っているわけでない、ただ、女性と目が合わない保証のある場所が、今のところ全く見受けられないのだ。

完全に予想の外の事が起きてしまい、さっきまで練った計画は全て吹き飛んでしまった。

頼りになるのは携帯の画面を見るという手段のみとなった。


電車に乗せる右足は、今まで感じたことのない緊張感に包まれ、その一歩は異常な程重く感じた。

ここで下手に動けば、余計に注目を集めてしまう。

あくまで平凡に、普通に乗るのだ。意識してはいけない、むしろ無意識に、空気を吸うように乗らなければならいい。

左足を進め、右足を進め、どうにか乗車に成功したが、立ち位置は全く定まっていない。


吊革などの捕まるところのない、ドアとドアに挟まれたど真ん中のスペースに止まってしまった。

ドアが閉まり、電車が動き出す。

非常にまずい状態だ。バランスを崩して、体が揺れたりすれば必ず視線をもらってしまう。

腰から下に意識を集中し、決して倒れるものかと注意を払った。


その時だった。

私の背中側、腰より少し下の方から空気が破裂する音が突然飛び出した。

その音は、女子高生の会話を一時的に全て停止させ、ほぼ全ての視線を集中させた。

私がその視線に目を合わせられなかったのは言うまでもない。

携帯画面に目を向け、何事もなかったかのように振る舞う。

しかし、しばらくの間、冷たい視線を浴び続けた。

そして、それは、職場の最寄り駅まで続く事になった。


幸いにも目線が合うことはなかった。

合わせてしまえば、能力の犠牲者が生まれてしまう。

だが、それ以上に私は、たくさんの冷たい視線に耐えなければならないという、過去最も過酷な状況になった事は言うまでもない。

最後まで読んでくださりありがとうございました!

特殊能力が結局なんだったのか、ぜひ想像してみてください。

勿論、私は知ってます。

気になる方はぜひ感想・レビュー・評価をよろしくお願いします!

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