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九話

司会者の指示を辿ってソファの中に入っていたのは、アイマスクとヘッドフォン2つだった。


「そちらのアイマスクとヘッドフォンを残る女性に装着し、残りのヘッドフォンをご自分に装着しましたら、あなたはパソコンにロック解除の答えを入力して下さい。そして入力しましたら、ご自分で決めた出口の前に立って下さいませ。説明は以上になります。」


「…分かった。」


ソラは一言そう言うと、私にアイマスクとヘッドフォンを渡してきた。


「…短い時間だったけど、楽しかったよ。ありがとう、キワさん。…もし二人とも無事にここから出られたら…」


「…そう思うなら最後まで一緒に頑張ろうよ。その方が無事に出られる可能性高くなるでしょ?」


私は未だに二人で賞金を手にして脱出するのを諦めていなかった。


「…そうかもしれない。…だけど、これ以上一緒にいると間違っていた場合のことを考えるともっと怖くなると思う…。せっかく生きることを肯定的に考えられるようになってきたのに、またネガティブに戻っちゃいそうで…そうなりたくない、今の変わった自分のままでいたいんだ。…仮にこれが最期になったとしても…。」


その言葉に一筋の涙が私の頬を伝うのを見たソラは、悲しい笑顔でその涙を拭ってくれた。


「…さよならは言わないよ。またいつか何処かで会えると信じて…。」


…もう彼の瞳の奥には暗闇は広がっていない。

それは涙で歪んで見える情景の中で、唯一鮮明に輝いて見えて、ソラの意思の変化を認めざるを得なかった。


「…分かった。こちらこそありがとう。…私もソラと会えなかったら自分の人生諦めていたと思う。…きっといつか何処かで…。覚えていて、私はキワ、卯花(うのはな)希羽(きわ)よ。希望の希に羽って書くの。」


私の言葉に一瞬驚いたような表情を見せた後、くしゃっした可愛い笑顔で少し照れたように目を反らす。


「…僕達が出会ったのはある意味運命だったかも…。僕の名前は木下由(きのしたそら)。自由の由でソラ。…卯花って、"卯月の花"でしょ?4月の花って言ったらやっぱり"桜"。で、僕は"木の下"…。だから…」


「「()()()()()!!」」


二人の声が重なった時、私達は笑った。


「フフッ。本当ね。私達が桜の木の下で出会ったのは必然だったのかも。」


何かを感じ取るかのように、少しの間沈黙が流れたのち、由は私のそばを離れ再びパソコンの前へと移動した。


「…じゃあ、そろそろ僕は行くよ。…希羽さん、お元気で…。」


「…由もね。」


その一言を最後に、私はアイマスクとヘッドフォンを身に付けると、ヘッドフォンからは聞き覚えのある声が聞こえきた。


「準備が出来たようですので、卯花さんにはこれから万が一外の音が聞こえないように音楽を流します。木下さんの方には、引き続きこのヘッドフォンを通して指示させて頂きます。」


このアナウンスを最後に、一旦私は外界から遮断された。



*****



「…木下さん、聞こえていますか?」


「…聞こえるよ。」


「それでは、パソコンの画面にロック解除の答えを入力して下さい。」


木下由はゆっくりと確かめるようにその答えを入力していた。


【さ】 【く】 【ら】


最後の文字を入力し終わると、部屋全体からガチャッという解除音が聞こえた。


《…解除音が聞こえたということは、キーワードは合っているってことか?…ならば、あとは出口だけ…。希羽さんはピンクの扉は桜とはちょっと違うと言っていたけど、他にそれらしい出口はないし…。》


「入力ありがとうございます。それでは、正しいと思う出口の前へお進み下さい。」



…ー由は、ピンクの扉の前で止まった。


「最後の確認です。そちらの扉で宜しいですか?」


問いに対して無言で頷く。


「それではどうぞ!扉を押して開けて下さいませ!」


…ーゆっくりと扉が開くとそこは…。




ワァッという歓声と共に眩しい光が扉から出てきた由を包み込んだ。


《…?眩しくてよく見えない…。…だけどこの歓声は、最初のアナウンスがあった時に聞こえたのと一緒だ。》


由が足を止めている間に出てきた扉は閉まり、ガチャンと再びロックされた。

最初は眩しさで手をかざしていた由だが、ようやく目が慣れてきて周りを見渡し始める。


《…?!…ここは劇場…?で、これは花道なのか?…だけど、この下は…?》


…由が目にしたのは、数百人位で埋め尽くされる観客席と繋がっている一本の花道。

由はその花道の上に立っていた。

だが普通の花道と違うのは、花道の周りには何もなく、…そして花道は吊り橋のように浮いており、高さはおよそ10mはあるだろう。


「お疲れ様で御座いました!木下由さん!…ですが、残念ながら不合格で御座いますので、賞金も無ければ…このままご自宅へお返しすることも出来かねます。」


《…やはり、この扉は違っていたのか…。》


由は振り返り、自分が出てきた場所を確認する。


《…?僕が出てきた扉以外は花道が繋がっていない?…ということはピンクの扉を正面に見た時に左右にあった赤と白の扉を開けたら、この真下へ落ちていた…ということか…?でもこの扉も正解ではない…?》


由が考え込んでいることはお構いなしに、テンションの高いアナウンスが会場内に響く。


「さぁ!それではお待たせ致しました、()()()()()!見事彼があの扉から出てくると当てられたのは、なんとお二人のみ!内藤様!そして三上様で御座います!おめでとうございます!」


またもやワァッという歓声が広がり、観客の中から2名のタキシード姿で目の部分に仮面を着けた男性が立ち上がった。


「ですが!彼を()()()()()ことが出来るのはお一方のみ!…それはもちろん掛け金の高かったー…」


「もちろん!この私のことだろう!私は5千万も賭けたのだからな!」


司会者が最後まで話しきる前に、内藤と呼ばれていた中年の恰幅の良い男性は自信満々に叫び、周りからおおっ!と(どよめ)きが上がる。


《…不合格だとこの身を売られるということか…だけど、正解は何だ?3つの扉の内、あの扉だけがこの花道に繋がっているのに…。…待てよ、ここから見てあの部屋はこの劇場の真ん中にあり、花道が繋がっている観客席が目の前にあるってことは、ここから見えない反対側にステージがあり、恐らくそっちに司会者が居るのだろう…。!!…ここは劇場!ということは希羽さんが感じていた違和感はもしかしてー…!!》


ゴホン!と咳払いをして司会者が歓声を静め、改めてアナウンスを続ける。


「…彼を差し上げることが出来るのは…三上様で御座います!おめでとうございます!!」


その発表に辺りは静まりかえったまま、観客達は内藤と呼ばれる男に注目していた。

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