七話
あれから二人であの数冊の本とにらめっこしているが、一向に謎が解ける気配はない。
タイトル⇒本
というのは、安直過ぎただろうか?
そもそも"タイトル"が既に間違っている?
…駄目だ、焦ってきて思考がマイナス方向に向かっている。
「…一回、本に固執しないで、もう一度部屋の中をいろいろ探してみようか。」
私の提案に乗ったソラと一緒に改めて二人で部屋の中を調べてみる。
部屋の中をうろうろしながら周りを見渡して、ふと部屋の真ん中で立ち止まって、私は腕を組んで考え込んだ。
「…キワさん?」
…ー先程から頭の片隅で何かが引っ掛かっているのだが、その違和感の正体が分からない。
考え込む私を気にしながらも、もう一度パソコンを調べようとソラが机の方に向かった時、またあの軽快なメロディと共に相変わらずテンションの高い司会者の声が流れてきた。
「さて、そろそろ残り12時間となりますが、現場の状況は如何でしょうかー?」
私とソラはお互いに目配せをしたが、何と言ったら良いのか迷い、少しの沈黙の後ようやく私から口を開いた。
「…何かヒントを貰えない?」
「…そうですねぇ、貴女方には第二関門まで突破されておりますので、これ以上何かヒントと申されましても…。」
「?!第二関門って?!」
「第一関門はあのチラシの本当のメッセージに気付くこと。そして第二関門は先程のタイトルまで導くこと。そして今調べられておりますのが、第三関門で御座います。」
「…第"何"関門まであるの?」
「…それはお答え致しかねます。…しかし、どうやら先程から行き詰まっておられるようですので、特別にヒントを差し上げましょう!」
「!!」
「ヒントはこのゲーム全体で考えて下さいませ。」
「?!どういう意味?!」
「…これ以上は申し上げられません。では!残りの時間も健闘を祈っております!」
「あ!ちょっ!まだ…」
唐突に通話を遮断され、辺りはまた静まり返ったところで、今度はソラが何かに気付いたようだ。
「あっ…!キワさん、パソコンの画面が変わっている!!」
パソコンの方へ駆け寄り、ソラと並んでパソコンの画面を見てみる。
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ロック解除のキーワードを入力せよ。
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「…これだけ?」
「…つまり、これで最後ってことだよね?第何関門あるか言えないとか言ってたけど。…でも今度はキーワードが何文字かも分からないね。」
…そのとおりだ。何文字かも分からないとどれを謎解きの鍵にするのかも分からない。
ただ、本当にこれが最後なんだろうか…?
あの司会者がわざわざあのように答えたことが、どうにも気になるのだが…。
「…キワさん?さっきからどうしたの?」
またしても考え込んでフリーズしていた私の顔をまじまじと眺めながら、ソラが問いかける。
「ごめんごめん。ちょっと考えてて…。ソラの言うとおりキーワードが何文字かは分からないんだけど、やっぱりこの部屋の中の違和感を辿っていくと、あの本達がこのキーワードに関係があると思うんだよね…。それともうひとつ何かが違和感ある気がするんだけど、それが何か分からないのよね…。」
「違和感か…。たしかに棚にある他の本とは違うからあの3冊の小説と辞典は違和感があるよね。特に小説は全部時間に関係するタイトルだし。」
「?…時間に関するタイトルって?」
「だって、"午後3時"に、"ミッドナイト"は真夜中、つまり24時のことでしょ?あとは、"辰の刻の正刻"は昔の時刻の指標だから、朝8時のことだよね?」
「!!さすが、ソラ!たしかにそうね!」
…そうだ。今は一人じゃない。二人の知識を合わせれば何とか出来るかもしれない。
「…だけど、その時間が何に関係しているのか、さっきから考えているんだけど、その先に繋がらないんだ…。」
時間…。たしかに、この部屋には時刻を確認するためには、このパソコンの画面に表示されているものしかなく、他に時計は何処にも無い。
…時間ではなく、ただの"数字"として考えるとしたら…?
「…ねぇ、"時間"じゃくて"数字"として考えるのはどう?"3"と、"24"と、"8"。これらと紐付けられるものとか何かない?」
「数字か…。何だろう…?3、24、8か…。そういえば、話ずれるかもしれないけど、さっきの人、ヒントはゲーム全体で考えろって言ってたけど、それってあの"チラシ"とか、前のパソコンの画面にあった"タイトル"のヒントとかも合わせて考えろってことかなって思って…。それも含めると"ヒントは26"の"26"も数字だよね…?」
…そうだ。ヒントはゲーム全体で考えること。
チラシの時は、頭文字の逆さ読みだった。
タイトルの時は、アルファベットをキーボードのかな文字に置き換える…。
…そして、今回は多分数字…。
それらも加味して考えてみる…。
「…何か書くものとかあるかな?紙とペンとか?」
私の問いかけに対して、ソラが机の引き出しの中からメモ帳とボールペンを見つけ、一度これまでの内容を整理してみることにした。
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「…良かったんですか?ヒントなんて与えちゃって。」
「構わないよ。あれ位で解けるとは思っていないからね。そう簡単に1千万円には届かないさ。…ただ、あの二人を見ていたら何だか何時ぞやの自分たちと重なってしまってね…。」
「…そうですね。久しく生に希望を持ってこのゲームに挑戦するチャレンジャーは居ませんでしたからね。」
「ああ。だから、少し見てみたい気もするのさ、この薄汚い賞金を手にして笑顔で新しい人生に向かうあの二人を…。」