四話
「レディースエーンドジェントルメーンズ!大変長らくお待たせ致しました!ようやくゲスト方々の準備が整った模様です。」
軽快なメロディと共に聞こえてきたのは、陽気な司会者のアナウンスと、ガヤガヤとした大勢の人達の歓声だった。
音の出所を探すと、天井の隅にスピーカーのようなものが設置されており、どうやらそこから聞こえているようである。
「それでは今回のゲストの方々にお話を伺ってみましょう!もしもーし!聞こえますかー?」
「……。」
私達はどうして良いか分からず、沈黙したままでいた。
「おやー?返事がありませんねー?そこのお二人ですよ?髪を1つに束ねているそこのお姉さんと、グレーのパーカーにカーキ色のパンツを履いているそこのボーヤ?」
「?!」
やはり私達のことのようだ。
「…ここは何処ですか?」
「良かった!こちらの声も聞こえているようですね!それでは今のご質問の答えも含めて、このゲームの説明をさせて頂きます。」
「…ゲーム?」
「ようこそ自由の館へ!ここは自由を求める皆様へ自由を掴む第一歩を提供しているエンターテイメント施設で御座います。ゲームに参加頂く皆様には、賞金として1千万円を!ご用意しておりますので、是非勝利を勝ち取って頂けたらと思います!
今回のゲームは、"脱出ゲーム"となっております!そちらの部屋の扉の鍵は全て電子錠となっており、今はロックが掛かっているため扉は開きませんが、目の前にあるパソコンに"正しい答え"を入力するとロックが解除され扉が開き、そちらの部屋から出ることが出来ます。但し、出られる扉は1つだけ。お二方にはその正しい答えを導きだして頂き、脱出を目指して頂きます。
そして、お客様達には無事脱出出来る者が居るかどうかと、どの扉から脱出してくるのかを予想して賭けて頂きます。」
司会者はテンション高く、かつ淡々とルールを説明していく。
「…何故私達が選ばれたの?」
「いいえ、選ばれたのでなく貴方達が自由を求めていたので、私達は来て頂くお手伝いをしたまでです。ご自身の意思であの待ち合わせ場所にいらしたでしょう?」
…なるほど?あのチラシに書かれていたのが待ち合わせの日時と場所で、募集していたのは自由を求めるゲームの参加者だったというわけか…。
「…もし正解の扉を選べなかったら…?」
「正解の扉だけが自由に繋がっている…とだけお伝えしておきましょう…。」
それまでのテンションの高いトーンではなく、お通夜で御愁傷様ですとでも言うかのような低い声からして、それほど良くないことなのだと理解するのは容易かった。
…何となく今の状況は理解した。むしろこれからの自分の人生にはうんざりしていた所だ。どうせならこれからの自分の人生を賭けて、挑戦するのも良い機会なのかもしれない。
「…分かったわ。私は参加する。だけど、この子はー…」
「僕も参加する!」
私の言葉を遮って発せられたその言葉には、鬼気迫るような闘志が込められたように感じた。
「その言葉を待っておりました!それでは説明に戻ります。制限時間内に答えに辿り着くことが出来なかった場合も失格となります。制限時間は本日4月1日24時まで。扉を出る時は一人ずつになります。ちなみに部屋の中の者は自由にして頂いて構いません。冷蔵庫の中の食品等もお好きなものを召し上がって頂けます。最後にご質問はありませんか?」
「…大丈夫よ。」
「僕も。」
「それでは只今より脱出ゲームを開始致します!お二人のご健闘をお祈り致します!」
ワァッという歓声が暫く聞こえたかと思うとスピーカーのノイズ音と共にプツリと消え去り、一瞬にして辺りは静寂に包まれた。