三話
4月1日午前1時50分。
私はあのチラシを見つけた公園に来ていた。
さすがに住宅街の小さな公園では、この時間での花見客はもう居ない。
…私があの日気付いた内容は次の通りだ。
"エイプリルフール" → 4月1日
"反逆" → 逆らう ⇒文章を下から読む
⇒行頭の文字を下から順に読んでみると…
さ・く・ら・の・き・の・し・た・に・じ
↓
桜の木の下2時
"あの"チラシを読んで"桜の木"と言えば、チラシが貼られているこの公園の中央に鎮座しており、今私の目の前にあるこの桜の木のことだろうと思った。
そして、今私は"桜の木の下"に立っており、現在の時刻は午前1時55分になろうとしていた。
…何となく来てみたが、ただのイタズラかもしれないし、結局何を"募集"しているのかは分からずじまいだし。
午前2時ではなく、午後2時かもしれないし。
何も起こらないかもしれないけれど、久々に何かに興味を持って自分から行動したのだから、何故だか少し清々しいとさえ既に感じている。
ふと、背後から気配を感じて振り返ってみると、そこには一人の少年が立っていた。
「…君が、エイプリルフールの反逆者?」
「…お姉さんもあのチラシを見て来たんだね。」
「えっ?!ってことは君も?チラシを見て来たの?」
無言で頷く少年は、身長は160cmあるかどうかで私とそんなに目線の位置が変わらない。全体的に色素が薄い感じの色白で細身の中学生位の見た目である。
「…たまにこの公園に来るんだけど、3日前に案内看板に見慣れないあのチラシが貼ってあるのを見つけて、桜の木の下2時って書いてあったから…」
「やっぱりそう読めるよね。私の勘違いじゃなくて良かっー…」
私が話すのを遮るかのように、フッと急に辺りが暗くなった。
周りに目を向けると公園内外問わず街灯の灯りが消えている。
周りの住宅街の明かりも消えているので、停電なのかもしれない。
暗闇に目が慣れてきた数秒の間に一瞬目に映ったのは、月明かりに照らされた公園の案内看板の横に立っていた時計が2時を告げていたことと、薬を染み込ませた布を私の口元に近付けようとしている何者かの革手袋をした手で、次の瞬間私の記憶が一旦途絶えたのは言うまでもない。
*****
「…ーさんっ!お……さんっ!お姉さんっ!」
ハッと目が覚めると、私は何処かの室内の中で布製のソファに横たわっており、隣では今にも泣き出しそうな表情のあの少年が私の体を揺すっていた。
「はぁ、良かった…。生きてた…。」
私はゆっくりと体を起こそうとすると、頭の内側から殴られたかのような鈍い痛みに襲われて思わず顔を歪めて、側頭部を手の平で押さえる。
「っったぁ…。…ここは…?」
少年はサラサラな髪を震わせながら首を横に振った。
「…分からない…。僕もさっき気付いたばっかりで、スマホや財布とか全部無くなってて…。」
それを聞いて辺りを見回してみるが、やはり私のリュックや上着のポケットに入れていたはずのスマートフォンも無くなっているようだ。
「…はぁ。とりあえずはここが何処なのか調べないとだね。」
そう言って私達は、今居る部屋の中を調べてみることにした。
部屋の大きさは約20畳位の大きさで、ダークブラウンとグレーの色味で統一された家具で纏められており、落ち着きのある書斎という感じのイメージがぴったりである。
だが、その部屋に似合わない鉄製のような重い扉が壁1面毎に各々1つずつ、計3つ。
赤色の扉、白色の扉、そしてピンク色の扉。
ピンクと言ってもパステルカラーのような淡い色ではなく、ショッキングピンクのような色の濃いピンクである。
3つの扉には鍵穴は無く、代わりに取手の上に黒色のスマートフォン位のサイズの電子機器が付いていて、押しても引いてもうんともすんとも言わない。
そして扉のない壁には腰窓が一つだけ。
FIX窓のようでこれもまた開けられる気配はない。
窓の外には、記憶の最後に残っているあの公園の桜の木が少し離れて眼下に望む。
どうやらここは4、5階位に位置しているようだ。
窓の横には机があり、机の上には一台のパソコンが置いてある。
赤の扉の横には天井まである大きな本棚がいくつか並んでおり、本棚には漢字辞典や外国の言葉で書いてある本が綺麗に陳列されており、ディスプレイ用に飾られた本も数冊ある。
白の扉の横にはアパートにあるようなキッチンユニットと一人暮らし用の小さめな冷蔵庫。
一応、部屋の隅にはトイレの個室も設えてあるようだ。
そして、部屋の中央付近には私が横になっていた布製のソファがローテーブルを挟んで2つ。
…ん?
ローテーブルの上にいくつか物が散らばっている。
SDカードに、…これはETCカード?
あとは…名刺っぽい厚紙には何も書いてないかと思ったら、裏面にはQRコードが印刷されている。
「あっ!お姉さん!ちょっと来て!」
パソコンの前に居る少年が手招きして私を呼ぶ。
「パソコンの電源を入れてみたら、こんな画面が出てきたんだ」
『□□□。
ヒントは26』
~~♪♪♪
私が画面を覗きこんだ時、何処からともなく軽快なメロディが流れてきた。