二話
帰宅した私は、いつもの節約飯を食べ、シャワーを浴びて寝る準備をしてベッドに横なると、スマートフォンを手に取って夕方撮影した"あの"写真を眺めた。
「"エイプリルフールの反逆者"…ね。怪しい宗教の勧誘か何かで信者でも募っていたのかしら…?」
そうだとしても、"募集"と書いていたからには、もう少し具体的な内容がなければ、希望者が仮に居たとしても動きようがない。
"あの"チラシを見て希望者になった人達は、どう行動したら良いというのだろうか?
仮に宗教の信者の勧誘だとしても、いつまでに誰に(何処に)などの連絡を取るための情報が必要だと思うのだが、そのような情報は何一つ見当たらない。
「"秘宝"って何かしら…?それと、"我は現れる"って希望者の前に"エイプリルフールの反逆者"が来るってこと…?」
…ますます分からない。
そもそも"エイプリルフールの反逆者"とは、嘘をつくことを許可されている日が存在することに反対をしている人ってことなのか…?
いろいろ考えてみたが、結局分からず翌日もう一度調べてみることにした。
*****
「まずは、エイプリルフールの反・逆・者っと。」
翌日、私は近所の漫画喫茶のブースで検索ワードを打ち込み、パソコンの画面を覗きこむ。
…が、これといった情報は出てこない。
検索結果として表示されたのは、主にエイプリルフールにどんな嘘をついたかなど。
そんな情報ばかりでチラシと関係のありそうな内容は特に無さそうだ。
私は怪訝そうな表情で、ごろんと横になりスマートフォンの画面を眺めた。
「エイプリルフールって……あっ!」
がばっと飛び起き、もう一度パソコンの画面を覗き込み、そこに表示されている内容を読んでみる。
『エイプリルフール(April Fool’s Day)とは、毎年4月1日には嘘をついても良いという風習である。』
…もし、あのチラシに本当に日時や場所などの情報が記載されているのだとしたら、あの“エイプリルフール”は4月1日、つまり日にちのことを表しているのではないだろうか?
こんな謎かけみたいに隠されているのだと仮定すると、残りは時間と場所…。
「…なら、次は…。」
カチャカチャと再度検索ワードを打ち込み、パソコンの画面が切り替わる。
『反逆とは、権威や権力に逆らうこと。』
…こっちには時間や場所を特定できそうな意味は含まれてはいないようだ。
やはり、私の思い違いだろうか…。
逆らうこと…逆らうこと……あっ!
文章を逆から読んでみる、とか…?
「る・れ・わ・ら・あ・は…違うな。うーん…」
スマートフォンの画面から目を離さないままドリンクバーから持ってきたオレンジジュースを一口口に含み、鞄の中から手帳とペンを取り出し、何気なくチラシの文章を書き写してみる。
『じゆうをもとめるあなたへ
にわかあめのごとく
たのしいじかんはあっというまにすぎさり
しっこくのやみがふたたびおとづれ
のこりのときをきざむかうんとだうんがはじまる
きがついたならば
のんびりしているじかんはない
らすとをかざるひほうをもとめて
くちはてるまえに
さんかをもとめるもののまえにわれはあらわれる』
全部ひらがなに変換してみたが、特にこれと言って何かが変わったわけでもない。
もう一度ごろんと寝転がり手帳を顔に近づけたり遠ざけたりしてみたが、何か見えてくるわけでもなかった。
「やっぱり私の思い違いか…。」
軽く溜息をつきながら、パソコンの電源を切って残りのオレンジジュースを飲み干してグラスを片付けようと立ち上がった瞬間に、カーディガンのポケットに入れていたスマートフォンが机の上の手帳に引っ掛かり手帳が床に落ちてしまった。
手帳は先ほどメモしたページが開いたまま床に落ち、手帳の上に置いていたボールペンがどこかに転がってしまったようで軽く辺りを見渡したが見当たらない。
机の下を覗き込むと一番奥の所まで転がりこんでおり、屈んで手を伸ばして何とか引っ張り出すことができた。
ペンを拾い、立ち上がろうかと両手を床に付いた時、ふと上下逆さまになって開いたままの手帳が目に入った。
…んっ?
なんだろう…、今一瞬何かが見えた気がした。
手帳も拾い上げ、上下逆さまのままもう一度じっくり自分で書いたそのページを眺めてみると…
「!!」
…そういうことか。
私はささっと荷物をまとめると、その場を後にした。