一話
『募集』
先週までの麗らかな陽気とは打って変わって、肌寒い今日はまさに私の心境とリンクしているようである。
3月某日。
私は無事大学を卒業した…が、ついに就職が決まらなかった。
これからまだ続く就職活動のことを考えると、深呼吸のような大きな溜息が吐き出されるだけで、呼吸の仕方を忘れたかのようにふらふらと宛ても無く彷徨っていた時だった。
何気なく足を踏み入れた公園の入り口に立っている案内看板に貼られていた冒頭のチラシの見出しが目に飛び込んできたのである。
「こんな所にも募集の張り紙があるのに、なんで私は内定のひとつももらえないのかしらね…」
苛つく気持ちが見え隠れする独り言も、哀愁が漂ってくるのは天気のせいだろうか?
「いったい何の募集をこんな所で…ん?」
チラシの内容を確かめようとした私は、思わず看板に近寄って内容を理解しようとした。
『自由を求めるあなたへ
にわか雨のごとく
楽しい時間はあっという間に過ぎ去り
漆黒の闇が再び訪れ
残りの時を刻むカウントダウンが始まる
気が付いたならば
のんびりしている時間は無い
ラストを飾る秘宝を求めて
朽ち果てる前に
参加を求める者の前に我は現れる
主催者:エイプリルフールの反逆者』
「…な、にかしら、このチラシ…。」
何度か読んでみたが意味が分からない。
A3サイズの淡いピンク色の紙に、ゴシック体の黒色の文字で先ほどの文章が羅列されているだけなのだが…。
「見出しには“募集”って書いてあるのに、何を募集しているのか全然分からないじゃない。」
思わず声に出して突っ込んでしまったことに気付き、少し恥ずかしくなり周りを見渡す。
良かった、誰もいない。
そんなに大きな公園でも無いし、遊具はブランコと鉄棒だけ。
それとベンチが数か所、水飲み場、真ん中に桜の木がある位のどこにでもあるような公園なのだから、今日のこの天気なら公園で遊ぶ子供もいないのも納得だ。
それにしてもこのチラシは一体何が目的で、何を募集しているのだろうか…?
もう一度チラシの方を眺めていると…
…ゾクッ。
一瞬どこからか視線を感じたような気がして悪寒が走る。
ゆっくり改めて周りを見渡すが誰もいない。
夕方になるにつれてさらに冷え込んできたので、そのせいかもしれない。
今日はもう帰ろうと、案内看板に背を向け歩き始めようとしたが何となくチラシが気になり、再度振り返ってポケットから取り出したスマートフォンで一枚写真を撮り、帰路に就くことにした。