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2005 嫁の基準

イズルの誕生日パーティーで、頭ピッカの叔父の博司(ひろし)は嬉しそうに来客たちにイズルの有能を紹介した。


先日の株譲渡で損をする人もいるし、得をする人もいる。博司さんは得の部だった。もともとイズルを取り込もうとした彼だから、更に仕事に励んだ。


それに対して、同じ配分をもらったイズルの伯母の英子(ひでこ)は素直に喜べない。


イズルの祖父の紋治(もんじ)は兄弟三人でそれぞれのビジネスに身を投げた。


紋治は二番目の兄弟で、上には兄、下には弟がいた。


勝負心の強い兄と弟と違って、若い頃の紋治は大口を叩くことがなく、野望がなさそうな人間だった。ただ黙ってコツコツ頑張っていた。


しかし、最後に勝ったのは紋治だ。


兄と弟の企業が投資に突っ込みすぎ、金融危機で経営不振に落ち、紋治に買収され、「神農(しんのう)グループ」の一部となった。


英子は紋治の兄の長女。姉らしき、物分かりのいい人間だ。


紋治の実の息子や娘と争わずに、サポートに専念していた。その誠実さと勤勉さのゆえに、紋治一家から尊重と信頼を得た。


紋治一家の「事故」の後、英子はやっと表舞台に出るチャンスを匂ったが、彼女が水面上に上がる前に、イズルは先に手を出した。


彼女の認識の中で、イズルはまだまだ子供っぽい。いきなりマニピュレータの姿をみせるなんて、まだ信じがたい。


まさか、あの得体の知れないシンデレラも、イズルがカモフラージュとして用意したの?


今日は来ていないようだが……


「英子さん」


英子はリカの姿を探していたら、後ろからイズルの呼び声がした。


「すみません。来客たちへの挨拶に忙しくて、英子さんと話す時間をなかなか作れませんでした」


今日のイズルはクスミブルーのスーツを身に纏い、髪もいつものと違う感じでセットされた。


前日のカフェでの放蕩息子の感覚が一掃し、いかにもビジネスに励んでいる好青年だった。


「いいえ、私は大丈夫よ。誕生日パーティーとはいえ、ビジネス活動よ。でも本当に驚いたわ。イズルは子供の頃以来、こういうイベントに全然出なかったのに、慣れているのね」


「難しい知識も技術も要らないから、皆さんの作法を見習えばすぐわかる」


(バカみたいな笑顔でおだてを振舞えば十分だ。)


イズルは微笑みだけを見せて、後半の話を呑み込めた。


「紋治叔父さんたちは今のあなたを見れば、きっと誇りと思うでしょう」


英子の嘆きは本心だ。


権力面で不満があると言っても、イズルは到底、血の繋がっている甥。


本当にイズルを邪魔ものだと思ったら、シンデレラと駆け落ちでもさせた。


「そういえば、イズルは今年、20歳になったっけ?」


「23です」


「でも、去年の年末、皆で食事をしてた時、お酒はまだだめとかって話はなかった?」


「アルコールの匂いが嫌いって話だったんです。学校に行っていないから、みんなの記憶も曖昧でしょう」


イズルはなんの不自然もなく嘘をついた。


彼にグループを継承させるために、青野翼は彼の年齢で工作をした。


幸い、イズルは学校に行ったことがほとんどなく、年齢偽造もより便利だった。


「23ね……男の子は結婚に急がなくてもいいと思うよ。あなたの結婚はグループに大きな影響があるから、結婚の相手を慎重に選ぶの。この前の家庭教師とのことは、本当なの?」


英子の質問をいいチャンスに、イズルはこの話題を辿って、自分の聞きたい事を持ち出した。


「慎重に選ぶつもりですよ。ですから、私もずっと気になっています。英子さんはどうして奇愛がいいと思っているのですか?趙氏財団のお嬢様で、中国でも人脈を持つのがわかるけど、その性格はとっても『慎重』の基準に合わないでしょ。私もいい性格じゃないから、彼女とくっついたらお互いの会社にもいいことはないでしょう」


「財力の考慮もあるけど、もっと重要なのは強さよ」


「強さ?」


「あなたも知っているでしょ。私の親、あなたの祖父の代の兄弟関係が悪かったの。男の人は勝負心が強くて、兄弟の間でも争いが多い。だからこの家には、男たちの闘争心を和らげる、家族を団結させる強い女性の主が必要なの。だけど、私もあなたの母もそういう素質のある人間ではなかった……」


(それでも奇愛の番にならないだろ……)


心の中で百回ツッコミしたけど、イズルはとりあえず大人しく話の続きを聞くことにした。


「覚えているの。奇愛は小さい頃に交通事故にあって、トラックにはねられたことがある。結果、トラックはひっくり返されて、運転手も緊急手術に運搬されたけど、奇愛だけがすり傷で済んだの」


「体の強さに関してあいつは格別だけど、家の主になる素質とは言えないでしょう……」


奇愛ならそんなこともあるだろう……と、イズルはその不思議な事故を納得した。


「そういう意味じゃなくて……まず、体の丈夫さが重要と言いたい。それに、奇愛は危険から逃れる強い運を持っている。なにより言いたいのは、『血』なの」


「血……?」


(何かの神様の血を引いた話か……)


「父から聞いたことがあるわ。『あちら』の家はここ数百年、ずっと女性が一族の主導権を握っているの。血は争えない。一族の気運もそうよ。まだまだ成長中だけど、奇愛は生まれつきの『強運』と『素質』があるのよ」


「『あちら』というのは、趙氏財団のことですか?そんなに歴史の長い一族だったんですか?でも、今の責任者は男性で、奥さんもそんな強い人間には見えないし……」


「十年前、影で趙氏財団を操っていたのは、現在のCEOの姉だったの。もともとの後継者もその姉の一人娘。それに、『あちら』というのは趙氏財団だけじゃないの。例えば……」


英子の目線はパーティー会場を一周まわして、最後に、水玉色ドレスの若い女子に止まった。


「あの子――奇愛の従姉よ」


イズルは英子が注目している女子を知っている。


リカから紹介された暗黒世界の関係者の一人、奇愛と同じ、蚩尤の末裔の一族に所属する人間だ。


その女子は大体二十代前半、栗色の長い髪は頭の後ろできれいに結んでいる。手足が長く、表情が年齢よりも大人しい。全体的に穏やかな雰囲気。


とても奇愛と血が繋がっているようには見えない。


「あの若さで、5年前からあの有名な金融会社、義士(ぎし)グループのCEOになったの」


「それは知っています。この後、きちんと挨拶しようと思ってます」


「ええ、そうしなさい。彼女たちの家は『あの一族』の一部に過ぎない。あの一族の中で、有能な若い女性は何人もいるの。仲良くなって損がないわ。人脈にもなるの。奇愛がダメだったら、ほかの子も考えてね」


(勘弁してくれ、奇愛だけでも死にそうな目に遭ったというのに……)


ツッコミを口に出さずに、イズルは重要な質問をした。


「『あちら』と『あの一族』って、ひょっとして、戦の神、蚩尤(しゆう)の一族ですか?」


「えっ、その話、どこから……」


英子は驚いた。


彼女が渡海(わたるみ)家の家系の話を聞いたのは数年前、父が亡くなった直前だった。


親が死に逼られないと、家系のことを子供に教えてはいけないのは渡海家のルールだ。


だが、イズルの祖父と両親が亡くなったのは、突然の事故だった。


彼はどこからそんな非常識なことを知ったの?

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