表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/141

2004 義理の姉弟

祖父の話は、リカのもっとも自信のないところに突き込んだ。


異世界の件は極秘、大声で助けを求められない。


彼女は「一人」で頑張るしかない。


「向こうの人は、こちらの提案を断って、敵意を示した以上、われわれにはもっと有力な交渉材料が必要だ。もっと力強い助っ人も必要だ。しかし、お前の一番信頼できる人たちは、皆向こうにいる。行動する前に、まず新しい仲間を見つけなければならない」


新しい仲間と言えば、リカの頭にイズルが浮かんできた。


「僕を、その新しい仲間に加えていただけますでしょうか?」


マサルはさっそくその話を掴んだ。


「僕のような人間は、大宇さんから身に余るご親切をたくさんいただきました。今日の地位は、リカさんの婚約者のおかげで得たものともいえるでしょう。仮初の甘い夢だとしても、僕は幸せでした。なので、これからも、ぜひリカさんのお力になりたいと思います」


天童大宇は満足そうに頷いて、マサルが席に座るように合図をした。


「マサル、遠慮しすぎるぞ。俺は七龍頭の首席、仮初の夢とかで人を釣るような低劣な手段を使わない。お前は俺の孫だ。それは本当だ。お前はリカの婚約者でいる意思があるなら、それも、本当のことになる。俺は知っている。口に出さないけど、リカは小さき頃から、ずっとお前に気をかけていた」


「姉としての責任ですから」


マサルの目に少しばかり光が現れたら、リカはすぐそれを打ち消した。


「お爺様のご配慮に申し訳ないけど、彼はその意思があっても、私にはありません」


それを聞いて、マサルは傷付けた表情になった。


「僕は自覚があります。僕のような人間はリカさんに相応しくないですね。今までも説明や考慮が欠けていて、リカさんをたくさん傷付けました。それでも、一つだけ言わせてください。表でどんな酷い人間を演じていても、僕はリカさんの優しさを忘れたことがありません」


言葉でアピールしながら、マサルはスーツの内側の胸ポケットから、手編みの金魚がついているキーホルダーを出した。


「これは、僕11歳の誕生日に、リカさんからくれたプレゼントです。ずっと大事に持っています」




11歳のマサル、今のような気の利くイケメンじゃなかった。


自信がなくて、いつも頭を垂れている軟弱そうな子供だった。


出身の家は万代家の裏切り者として処刑された。


彼一人だけ、幼い故に見逃された。


万代家に恨みがないというのは嘘だが、その同時に、万代家しか頼れるものがないのはもっと切実な現実。


七龍頭首席の天童大宇の孫になってから、周りへの警戒心が一層強くなった。従順で柔らかい対応で自分を守ろうとした。


その結果、ストレスはすべて内側に抑え込まれ、性格もだんだん暗くなった。


リカは知っている。彼が祖父に引き取られたのは、自分が「彼の未来」を祖父に伝えたから。


名義上の姉としても、彼の運命を影響した人間としても、マサルがそれ以上落ち込まないように、なんとかして彼を励もうとした。


リカは良い運をもたらすと言われる手編みの金魚を作って、マサルの誕生日に彼に送った。


「どんな出身でも、人間の未来は自分次第だと思います。マサルさんなら、きっと明るい未来を掴みとれます」


マサルは金魚を受け取って、恥ずかしそうに「ありがとう」と言ってからさっそく退散した。




あれから、リカはその金魚を二度と見たことがなかった。


ここで見せられるとは、実に複雑な気分だ。


マサルに明るい未来があるように願っていた。


思わなかったのは、マサルは「明るい未来」のために、自分や仲間たちの裏切った。


マサルはどんな気持ちで、どんな目的でその金魚を保管したのか、その金魚が本物かどうか、リカはもう考えたくない。


一時的な甘さで、もっと大事なものを失いたくない。




リカは揺るぎのない目でマサルに答えた。


「そんなもの、マサルさんになんの利益も貢献できないから、大事にしなくていいです」


「……っ!」


容赦のない拒絶に、マサルは話に詰まった。




「まあ、お前たちはまだ若いし、誤解などがあれば、これからゆっくり解けばいい。ただ……」


天童大宇は興味深い微笑みを浮かべた。


「リカがほかに好きな人ができたら、話は別だ」


「!」


「そう言えば、あのイズルという新人、お茶でいろいろ話してた。リカにかなり好意を寄せているようだ。俺はマサルがかわいいが、リカは自分の配偶者を選ぶ権力がある。それに、将来のために、リカには有益の人脈も必要だ」


「……」


マサルは自分の忠誠心が試されているのを感じた。


気の利く彼だから、さっそく賢い返事をした。


「リカさんは僕のことをどうみていても、僕はリカさんの力になりたいです。これからも傍にいさせてください」


「その必要はありません」


だが、その告白も即時にリカからリジェクトを喰らった。


「色気や利益で人を釣って、思うままに利用するようなことはしないから」


「!!」


マサルの心臓はドキッとした。


色気や利益で人を釣って、思うままに利用する――


恐らくエンジェのことを言っているのだろう。


だが、そのエンジェに利用されたのは彼だった。


つまり、リカは自分のことを叩いている。


そう思うと、マサルの目に影が走った。


「その正直なところ、お爺さんの若い頃にそっくりだな」


天童大宇は珍しくやれやれと笑った。




「大宇さん、(たか)さんからの電話です」


介護の男は天童大宇に電話を渡した。


「嵩」というのはリカの父、天童大宇の実の息子。


リカはその電話に気になり、祖父の表情を観察した。


電話の内容を聞いた天童大宇の表情は再び不愛想なものになった。


「わかった。終わったらまた連絡をくれ」


電話を切って、天童大宇はリカに状況を伝える。


「運が悪くてな、お前の両親が乘っている飛行機は乗り換えの国で臨時に止まった。理由は、異常天気のようだ」


「異常天気?」


祖父の口調からすると、事情が単純なものではないとリカは気付いた。


「昼は夜に転じて、豪雨と雹が降った。それと共に、高い異能力の波動が観察された。どこかの不届き者の仕業だろう」


「調べに行きます」


マサルはさっそく立ち上がったが、天童大宇に呼び止められた。


「いい。リカの両親が処理している。大した件ではないが、俺は指揮を取る。復帰したことを、万代家内外にも知らせしないとな」


天童大宇は介護の人に合図をしたら、介護の人が起き上がろうとする彼を支えた。


「リカとマサルはゆっくりしていい。せっかくの休日だから、一緒にどこかに遊びに行ってもいい」


それを言い残して、天童大宇は個室を出た。




十人も入れる広い個室に、あっという間にリカとマサルだけが残された。


リカはスマホを出して、異常天気のことを調べようとしたら、画面で表示されているあかりのメッセージが目に入った。


「心配しないで、ご両親は強いお方です。きっとうまく処理できます」


マサルはリカを慰めながら、メニューを広げた。


「何かを飲みます?ワインはどう?」


「私はお酒を飲まない。もう忘れたの?」


リカはマサルに振る向かず、スマホをコートのポケットに戻した。


「……」


マサルは間違った発言に悔しと思った。


ワインはエンジェの好物だった……


なんでリカの前だけ、よくこんなドジを踏むのだろう……


「そうですね。リカは変わっていないですね。じゃあ、食べ物にしましょう。甘いものが好きですよね」


「それより、聞きたいことがある――」


今回は、リカが自らマサルに目を向けた。


「イズルになんの恨みがある?」


「!?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ