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2003 祖父の前で

11月22日の朝、イズルとリカはそれぞれ違う宴会に向かう。


昨日の夜、雷雨が大暴れていて、暗雲は朝まで空を覆っている。


まるで賑やかな宴会の後ろに不穏なものが隠されていることを暗示しているようだ。


ここ数日、マサルは争ったことがなかったように、積極的にリカにフォローし続けていた。


二人で一緒に何人かの異能力者に訪問して、助けを求めた。


リカの部屋の明かりがいつも真夜中まで灯っていた。


株譲渡の後、イズルはずっとグループの仕事と闇商売の仕事に追われている。リカを泣かせたことに気にかけているが、リカの邪魔になりたくない気持ちもあって、二人でゆっくり話すチャンスをなかなか見つからなかった。


リカがマサルと一緒に出かけるところを何回も見たイズルは、自分の「無力さ」に悔しいと思った。


マサルの万代家での人脈は自分のないものだ。


あの男はまだ「天童大宇(てんどうだいう)の孫」という身分がある。彼を代替するまでに、まだ時間がかかりそうだ。


イズルはリカに出発の時間を確認して、マンションの玄関でリカを待っていた。


降りてきたリカを見た瞬間、イズルは目を張った。


いつも素顔で制服風の服を愛着するリカは、メイクをしていて、真っ白なドレスを身に纏っている。こんな寒い天気の中、素足にハイヒール。頸、足首、腕にアクセサリーまでつけている。


イズルは最初にドキッとしたけど、すぐやばいと思った。


「本当に、家族と食事をするだけ……?」


リカにかける第一声は心から湧いた疑問だった。


「じゃないと何をするというの?」


リカは不思議そうに聞き返した。


「婚約発表とか」


「……なんで婚約発表なの。祖父はマナーをとても重視する人間よ。それに、久しぶりに会う両親をいい状態で迎えたい」


「それを聞いてちょっと安心した」


イズルは笑顔を作って、ポケットからマッチボックスくらいの小箱を出して、リカに渡した。


「これを持っていてくれればもっと安心できる」


「これは……?」


「白状したいことがある」


イズルはいきなり真面目にリカの目を見つめる。


「今日、オレたちに同時に別々のイベントが入ったこと、偶然とは思わない。万が一、誰かの罠だったら、対応策が必要と考えた。この箱はうちが開発した緊急通信装置だ。この銀色のボタンを押せば、あなたの位置はすぐオレが持っている端末に転送される。向こうの音声も囁きレベルまでこっちの端末に届く」


「分かった。ありがとう」


イズルの話に一理があると思って、リカは彼に好意を素直に受けた。


「もう一つ」


イズルの目線も口調も、さっきよりも丁重なものになった。


「オレは、あかりに頼んで、あなたが家族と食事をするホテルを調べた。そして、そこの監視カメラの映像も転送するように……」


「あかりから聞いた」


「そうなのか……」


罪を白状する決心で話すつもりのイズルは、無駄な努力をした気分になった。


「あなたの頼みより、あかりが自ら進んで提案したのでしょ?」


なのに、イズルはその責任が自分にあるような言い方をした。


小さなことだけど、リカのイズルへの信頼が一層増した。


「あかりと仲良くなってくれてありがとう。これからも、彼女を助けてください。万が一、監視カメラのことがバレたら、私の指示だと言って……」


「そんなフラグみたいな話をしないでくれる?」


イズルはリカの話を断ち切った。


「あかりの面倒はもちろん見る。だけど、オレはあかりのパートナーじゃなく、リカのパートナーだ。何があっても、リカのことを最優先する。パートナーを盾にするようなことはできない。あなたもあかりもオレは守るよ」


真面目な意思表明が終わって、イズルはいたずらっぽく笑った。


「それに、バレてもいろいろ対策を用意してある。オレは道徳心の強いお嬢様と違って、非常手段もできる卑怯者だから、心配しなくていい」


「……」


その自信満々な顔で自分のことを卑怯者だと言っているイズルを見て、リカはなぜか微笑ましい気分になった。


(本当に卑怯者だったら、心配する必要がないのに。)




リカが昇龍(しょうりゅう)ホテルの個室に到着した時、マサルはすでに祖父の天童大宇の隣に座っている。


今日のマサルは清潔感の強いベージュ色のスーツを身に纏って、シルク質感の灰色ネクタイに白い真珠のピン。髪も整えられたもので、ワックスも使ったようだ。


明らかに清潔好きな祖父の好みに合わせた。


祖父の不愛想な顔から機嫌を読み取れる数の少ない人間として、マサルは祖父に好かれるのも当然だ。


しかしその同時に、祖父は彼に罠を用意した。


裏切りの代償として、彼は「特別昇進資格」の資源も、プライドも奪われた。


彼を今日の食事に呼んだのも何かの試練や計画かもしれない。


どのみち、これ以上祖父の信頼を失わないように、マサルはきっと一生懸命に忠誠を示すだろう。




リカと目が合ったら、マサルは天童大宇に「失礼」と一言言って、リカを迎えに来た。


マサルはリカが持っているプレゼントの手提げを受け取ろうと手を伸ばした。


でも、リカは彼をやり過ごして、プレゼントを天童大宇の後ろにいる介護の中年男性に渡した。




「リカ、おいで」


天童大宇はリカを隣の席に招いた。


「お体の調子はいかがですか?今回の療養はかなり長かったから、ずっと心配しています」


「良くも悪くも年寄りの悩みみたいなものだ。でも、ちょうどいい。周りの虫が多すぎたから、療養を機に掃除した」


「虫というのは、落合の勢力ですか?」


リカの遠慮のない質問を聞いて、マサルの目に不機嫌な影が走った。


「彼だけじゃないが、彼の人が一番多かった」


天童大宇の軽蔑そうに小さな笑い声を漏らした。


「あの毒蛇、俺が思ったより自信家のようだ。もう少し身を潜むと思ったら、すぐお前に手を出したんだ」


天童大宇はリカの頭を撫でた。


「大変だったな。いろいろ辛かっただろう。今回は俺のミスだ。お前にはふさわしい補償を用意する」


「私はもう大丈夫です。異世界に残されたみんなのことが心配です。一時も早く、彼たちを助けに行きたい」


「先ほど、大宇さんにその件を相談しました」


マサルは二人の会話に割り込んだ。


「リカさんの気持ちは痛いほどわかりますが、『星空プロジェクト』が中止となった以上、リカさんは勝手に向こうへ渡るようなことをしたら、ルール違反になる恐れがあります。ですが、ライバルプロジェクトの『ガイアリング』も同じく中止となっています。現在、家の上層部はどれかを再開するのを検討しているらしいです。ならば、僕たちは『星空プロジェクト』の再開を成し遂げて、正当なルートで向こうへ渡るべきではないか、と思います」


「!」


リカはマサルを睨んだ。


「マサルさんは『星空プロジェクト』の再開を保証できますか?たとえ再開できても、いつから再開になりますか?一年、五年?十年?二十年?」


先日まで、マサルは「正当なルート」云々を言わなかった。


祖父の前でいきなりいい子をぶって、また何かを企んでいるだろう。


いいえ、マサルのことだから、最初からこう計算したのかもしれない。


人助けを理由に自分に接近しに来る。その同時に、肝心な話を一部隠す。


一緒に祖父の前に来て、初めて「深い考慮」を話す。


もし、自分が「話が違う」と彼に問い詰めたら、彼はきっと


「ただの説明不足」、「嘘つきにならない」、「リカを心配しているから」と主張するだろう。すべてが自分の誤解になれば、マサルは責められることから逃げられるし、祖父の前で自分より考慮深い一面もアピールできる。


どうやら、マサルはまだ自分のことを祖父がいないと何もできないバカ姫だとなめているようだ。




リカとマサルの間の空気が凍った。


天童大宇は助け船を出した。


「リカは責任から逃げない子だ。それでこそリーダーになる人間の心構えだ。だが、お前『一人』で行っても、できることは限られているだろう」


「!」



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