1901 ヤバイ、妖怪が会社に侵入!
11月11日、イズルは青野翼を連れて、神農グループの株主会議に出席する。
イズルは株譲渡に関することを全部青野翼に任せた。
そうしたのは、青野翼を信頼しているのではなく、青野翼の嫌がらせの能力を信じるているから。
案の定、青野翼が出した譲渡案は、親戚たちに「騙された」と思わせるインチキなものだ。
譲渡後、イズルは筆頭株主でなくなるが、譲渡部分の再配分で、対立する勢力たちの力のバランスが整えられた。
理論上、ほかの人と手を組めば、確実にグループでの発言権を握られる。でも実際に、あの親戚たちにとって、敵視する人と手を組むより、若いイズルと手を組んだほうがずっと心地よい。
更に、各勢力の中のドラ息子やトラブルメーカーたちにも配分があった。
「よくも奴らを『配慮』したのね。お金に困っている奴ばかり、すぐにどこかの妖怪に売却するかもしれないのに」
青野翼に配分案を見せられた時、イズルは皮肉した。
「そのようなことがあっても、悩むのはCEOではないでしょ」
もちろん、イズルのその言葉は「褒め言葉」だと、青野翼は分かっている。
ドラ息子らに資源を配ったら、当然、彼たちの親はただでそれを取り上げようとする。嫌な親戚たちの親子喧嘩が期待できる。
そこで、よい売却ルートを用意してやれば、反抗的な子供たちは食いつく可能性が高い。配分された部分は間接にイズルの手に戻れる。
こんな嫌がらせみたいな譲渡プランは、経営術というより、人をコントロールする帝王術だ。
会社の経営で多用したら、いずれ大きな問題になる。
けど、今のイズルはグループを整える余裕がない。調和より、「制圧」を選ぶしかない。
イズルと青野翼は会議室の階層でエレベーターから降りたら、女の甘い笑い声が耳に入った。
その声に連れられて、イズルはとある小さな会議室の前まで来た。
会議室の扉が開いたまま、イズルの従兄の潮はある女と抱っこしている。
その女は――エンジェだ。
「!?」
イズルは驚いた。
この妖怪は会社まで侵入したのか!?
従兄の潮のスケベみたいな顔を見ると、イズルの怒りは頭の頂上まで昇った。
「おいイズル!」
なのに、潮は空気を読めないようにエンジェを抱えてイズルに紹介した。
「こっちはエンジェ、お前の未来の姉さんだぞ!挨拶してくれ」
「未来の姉さん?」
イズルは目を細くして、鼻で笑った。
「随分愛情の多い姉さんじゃないか。先日、オレに告白したばかりだし、友達から横取った婚約者もいるようだ」
「は?」
潮はイズルの話をさっぱり分からなかった。
「イズルちゃんは冗談上手ですね。もしかして、潮さんのことを嫉妬しているのかしら?もう、あたしみたいなのがタイプだったら、あたしと似ている友達を紹介するわ!ね~潮さん」
エンジェは肘で潮の腰を突いて、笑ってごまかした。
もともとイズルと仲が悪い潮だから、イズルから嫌味を言われても深く考えなかった。
「だよな、イズルは結婚相手が全然決まらないから、幸せそうな俺たちを見て拗ねているんだ。やっぱり俺のほうが勝ちだな、あはは!」
ふたりの挑発的な態度に、イズルは冷たい声で言葉を返した。
「姉さんか何か分からないけど、今日は重要な株主会議がある。彼女は神農グループの人間ではない。立ち去ってもらえないか?」
「エンちゃんはもう俺の秘書だぞ!俺はお金の管理とかに興味がないのを知っているだろ?株をもらったら、彼女に任せる。エンちゃんはでき女だから」
「CEOは予言の能力があるかもしれませんね、言っている傍から妖怪が登場しました」
火に油を注ぐように、青野翼はイズルの後ろで呟いた。
イズルは怒りを我慢して、作り笑顔で潮に質問した。
「そういえば、この姉さんはどんな雇用形態?派遣?契約?正社員?」
「もちろん正社員だ!俺生涯の秘書だ!」
「なるほど。でも、うちの正社員登用にはCEOの面接が必要というルールがあるんだ。潮さんは知らなかった?」
「俺の採用を認めないだと? 喧嘩売ってんのか?」
「プロセスをリマインドしただけだ。潮さんのとこの責任者は雄一叔父さんだ。不正雇用のようなことがあったら、彼も困るだろ?」
「ちっ……おやじに言いつけるつもりか?」
いつも自分の快楽を邪魔する父親を思い出すと、潮は不服そうに舌打ちをした。
「その姉さんがオレの面接に合格したら、不正雇用にならない。株主会議の後、15分でいい。どう?」
エンジェがここに来る目的はもともとイズルだ。
二人きりで話すチャンスを断る理由はない。
青野翼の用意周到のおかげで、株主会議は順調に運んでいで、イズルの望んだ結果に達成した。
会議が終わったら、イズルは他の人を退室させて、エンジェだけを残した。
イズルが扉を閉まる隙に、エンジェは椅子を変えて、夕日が映しているフランス窓の前のボスチェアに座った。
そして足を組んで、窓に向かってスマホで写真を取った。
窓から差し込んだ夕陽のなかで、彼女のハイヒールに嵌っている宝石はまばゆい光が煌めいた。
「何を取っている?」
イズルにその撮影を気付かれたら、エンジェはわざと可哀そうな表情を作った。
「毎日もあなたと一緒にこの景色を見られたら、どれほど幸せなことでしょう。どうしてあたしたちは最悪なタイミングで、最悪の形で出会ってしまったの?」
「何に使うつもりか分からないが、今すぐその写真を削除しろ」
エンジェの戯言にツッコミもしなく、イズルは単刀直入に命令した。
「あら、やっぱりあたしの気持ちを信じていないようね。でも、何度でも言わせて。あなたがあたしのタイプなのは本当よ。敵対関係じゃなかったら、きっといい仲になれるわ」
「面接官にセクハラ。不採用決まりだな」
イズルは声がさらに沈んだ。
「……冗談の効かない男、通りにリカと組んだのね」
エンジェはつまらなさそうに白目をむいた。
「あんたに媚びを売ったことを認めるよ。けれどもね、それはあんたと敵対したくない証拠よ。あんたはリカの部下だけど、あたしが恨んでいるのはリカだけよ。あんたみたいな有能な男を敵に回したくないの」
「それで自己アピールのつもり?」
イズルはポーカーフェースでエンジェを催促した。
「リカに何を言われたのか分からないけど、あたしと彼女の争いは、子供がぬいぐるみを取り合うようなものなの。同じ家族の人だし、大人になったら、みんな笑って過ごせるものよ。彼女はあんなぶりっ子の態度を取らなかったら、あたしも自分の気持ちを隠すつもりだったの……」
イズルの興味なさに察して、エンジェは徐々に強気な態度をやめて、目を潤んで訴え始めた。
「あたしのことを信じてないのが分かるわ。けれども、今となって、あたしはあんたに頼るしかないわ!だって、あんたもリカが好きでしょ?マサルを止めてほしいの!」
「!」
(まさか、あの男は仲間を助けることを言い訳に、またリカに何か危険なことを……!)
イズルの表情はやっと動いた。
「マサルちゃんは、リカと復縁しようとしているの!」
「……」
(それか……)
エンジェに言われなくても、イズルはすでに気づいている。
だが、それはあくまでマサルの一方的なアプローチ。
決して「復縁」などではないと彼は認識している。
「あんた、あの二人のことについて何も知らないでしょ? リカは冷たい態度を取っているけど、本当はマサルちゃんのことが好きなのよ。けれども、継承人としてのプライドがあって、ずっとマサルちゃんに振り向かなかったの。二人が所詮縁がなくて、関係を続けていても幸せにならないから、あたしはマサルちゃんに告白した。だって、リカと違って、あたしはマサルちゃんしかいないもん!けれども、マサルちゃんはやはり、リカを忘れられないの……」
「リカを殺そうとしたのに?」
エンジェのデタラメに、イズルは冷笑を返した。
「違うよ!マサルちゃんもプライドが高いから、リカに彼の能力を証明したかっただけよ。けれども、やっぱり失敗した。だから、大人しくリカの傍に戻るしかないの。結局、あたしは彼に利用されただけよ……」
イズルに白目でみられても、エンジェは涙を流しながら必死に訴えた。
「マサルちゃんはあたしを崖の上から突き落としたようなことをしていても、あたしは彼のことを愛しているの。今晩、マサルちゃんはきっとリカに復縁を切り出すから、お願い、彼を止めて!協力してくれれば……あたし、あなたに従うと誓うわ!」
「……」
エンジェの必死なパフォーマンスを見て、イズルは危うく笑い声を漏らした。
(悪役女子に協力を求められるとは、どうやら、本当に悪役になるサブヒーローだと思われたんだ。)
(ベタな展開だったら、ここで嫉妬心を狂わせて、悪役女子と手を組んで、ヒロインとヒーローの仲を引き裂くのだろう。)
(確かに、あの猿芝居をする男をリカから永遠に遠ざける方法を考えている。でもあいにく、悪役サブヒーローなんかになるつもりはない。悪役は、このエンジェ一人で十分だ。)
(オレは、ヒーローだ。)
イズルはとりあえず話を聞こうと答えたら、エンジェは「マサルの計画」をばらした。
今晩、マサルは新港駅付近のデパートで偽物のテロ事件を用意した。一番危険な時に、自分が身を挺してリカや人々を守る。
そうやってリカの信頼を得る。
また、苦肉の策を使って負傷でもする。リカが情を見せたら、そこで復縁を申し出る。
真偽を確かめるために、イズルはエンジェと一緒に例のデパートに駆け付けた。
イルミネーションの広場についた途端に、デパートのほうに爆発が起きた。
「ね、あたしの言った通りでしょ!」
エンジェはイズルにアピールしようと振り向いたら、イズルがそこにいなかった。
イズルは一番早いスピードで自宅に戻り、パラグライダーに乗ってデパートに飛んだ。