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1702 愚か者

「愚か者」


万代(よろずよ)家の最高権力者の一人、落合重則(おちあいしげのり)は自分の執務室で非正式の配下・エンジェに教訓を与えている。


「価値があるのはマサルなんかじゃない、『天童大宇(てんどうだいう)の力を借りているリカの婚約者であるマサル』だ!彼をお前の夫にする時点で、彼の価値はもうほとんどない。彼の持っている資源は彼自身で生んだものじゃない!お前は一時的な勝負心のために、金の葉っぱを野菜くずにした」


いつも口達者のエンジェでも、この「貴人」の前では黙って訓戒を受けるしかない。


「そんな簡単なことも知らないほどの愚か者だったのか。それとも、彼を本気に愛しているから、彼を奪えばもう何もいらないとでも言いたいのか?だとしたら、俺の配下にふさわしくないな」


「ちっ、違います!」


落合の失望を聞いて、エンジェは慌てて弁解する。


「彼のこと、そんなに好きじゃないわ!すべてあたし自身のためですの!万代家のリーダたるものは、表向きで家庭円満じゃないといけないと、落合さんはおっしゃっていましたから……彼は天童大宇の孫だし、若くてそこそそ能力があって、顔もよいから、あたしのイメージを損なわないと思っただけです。結婚なんて、ただ彼を縛る建前ですわ。彼の頭じゃあたしに勝てない、結婚してもあたしは好き勝手にできますわ……」


「バカもの」


落合はもう一度小さく罵った。


このエンジェの器は小さすぎる。


彼女のすべての原動力は、リカという架空なお姫様に勝つためだ。まるで、客を争う遊女のようだ。


落合は二つに引き裂かれた一枚の紙をエンジェの前に投げた。


紙は結婚届、エンジェとマサルの名前が書かれていて、押印されたもの。


「取り戻してやった。こんなふざけたこと、二度とするな」


「えっ?ど、どうして……」


苦労して作り上げた「結婚届」が廃品になったのを見て、エンジェは不服そうに呻き声を出した。


「一度手にした戦利品がなくなって、不満か」


落合は鼻で笑った。


「……いいえ、そんなことはございません」


エンジェは不服にも頭を下げるしかない。


「男ばかり見ていたから、お宝を見る目がないようだな」


落合はまた何かを投げ出した。


今回は一枚の紫の石。


ようこがリカのサーブルから捥ぎ取ったものだ。


「フェイクだ」


「!!」


エンジェもまた目を大きく張った。


「フェイク……け、けれども、リカ、リカはずっとこれを持ち歩いたのです!あたしたちの裏手を取るためじゃなかったら、あんな派手に持ち歩くはずがありませんわ!」


「お前の性格と行動パターンを予想したから、あんなことをしたんだろう。これを盗んだ時点で、お前、いいえ、こっちの狙いがすでにバレた」


「あたしの行動を予想した……?ありえないわ!あの石頭は運と出身だけが取り柄ですもの!」


「運と出身だけで、16歳で大学を卒業できない」


「……」


痛いところが突っ込まれて、エンジェは唇を噛み絞った。


「お前は理想を語るのが確かに上手だった。だが、その理想に相応しい実力を持っていると思ったのは、どうやら、俺の勘違いのようだ」


「申し訳ございません。あたしの、不注意でした……」


エンジェは悔しそうにプライドの高い頭を下げて、失敗を認めた。


「謝っても意味がない。働きで汚名を返上しろ」


「はい!必ず!」


まだ捨てられていないと分かって、エンジェはピシッと腰を伸ばした。




「この前、天童大宇はあのイズルとやらをお茶に誘った。孫娘の婚約者を変えるつもりだろう。あの新入りの猿は見かけ倒しのマサルより手ごわい。天童大宇が彼を信用する前に、マサルを戻らせる」


「マサルを戻らせる……?というのは……?」


「マサルをリカの婚約者として戻らせる。二人の男を一人の女、そして、その女が持っている資源の取り合いをさせるのだ」


「!!」




今日はずっと曇っていた。


夕方頃に、細いシャワーのような雨が降り始めた。


リカは手元の仕事を一旦止まって、雨が大きくなる前にスーパーに買い物に行った。


もともとイズルと一緒に晩御飯の材料を買いに行くと約束したが、お昼過ぎたころに、イズルは一通の電話に呼び出された。


「『裏側』の研究所にちょっと問題があった。今からそっちに向かう。帰りは晩御飯に間に合わないかもしれない。先に食べて」


イズルの表情が妙に真剣で、気になるものだが、リカは多く聞かず、ただうなずいて彼を見送った。




リカはスーパーですき焼きの食材とデザートを作る材料を集めている間、雨が止むところか、どんどん強くなっていく。


イズルのマンション前に戻った頃、もう日が暮れている。


雲がそんなに黒くないのに、空がうす暗くなっていて、少し不気味。


幸い、街の照明がよくて、足が滑る心配はない。


そんな街灯の暖かい光の中で、リカは人が倒れているのを見た。


「!」


リカはさっそくその人に向かった。


花壇の傍で倒れたその人は、こんな寒い雨の中で、薄いシャツとズボンだけを身に纏っている。全身はすでにびしょ濡れ。


「どうしたの……?」


リカは口を開ける途端に、その人の顔にびっくりした。


「マサル……?!」




その時、後ろから叫び声が届いた。


「そっちだ!」


男数人が傘も持たずに雨の中を走ってきて、二人を囲んだ。


一人の顔白い青年はマサルを支えに前に出る。


リカはその人に面識がある――イズルの製薬工場で警察に偽装したリーダ風の青年だ。


「マサルくん、探したよ!こんなボロ姿になるまで逃げ出すなんて、みっともないぞ。早く戻ろう!」


「……エンジェのところに、戻るつもりはないと言った……!」


マサルは苦しそうに体を起こして、リーダ風の青年を睨んだ。


マサルの顔に青あざがいくつもついている。


「まあまあ、そんなことを言わずに、同じ女に惚れた仲じゃないか、これからも仲良くしようよ」


「誰が……ガァッ!」


マサルは怒って反論しようとしたが、いきなり口から血を吐いて、胸を押さえながら再び倒れた。


倒れる途中に、指先はリカの腕を掠った。


男たちは取り掛かる構えを取っているが、リカに忌憚するのか、すぐ前に出なかった。


「あのさ、こいつを連れ戻すんだけど」


一度リカの前で大変な目にあったリーダ風の青年は、弱弱しく交渉に出た。


「家からの命令なの?」


リカは冷たい目で青年を直視する。


「いや、別に……」


青年はその場で後退った。


「なら、この三日、彼は私が預かる」


「でも、逃げられたらこっちは困るし……」


「嫌なら、あなたがついてきてもいいよ?」


「それは勘弁……」


嫌な思い出が蘇る青年は青ざめになって、きっぱり諦めた。


男たちの後ろ姿を見送りながら、リカはイズルに電話をした。




イズルは状況を聞いたら5分をくれと言って電話を切った。まもなく、この前に新しく雇ったマンションの管理人、五十嵐というたくましい青年が走ってきた。


「イズルさんから事情を聞きました。彼は俺が運びます」


五十嵐は元陸上選手、細いマサルを運ぶのに大した手間がかからなかった。


五十嵐はマサルを4階にある客室に連れたら、予備の管理人の服を着替えさせて、ベッドに寝かせた。


「傷は見た目より軽くて、寝込んでいます。ここは俺に任せてください」


「……」


五十嵐がそう言ったが、リカは扉の隙間を通してマサルの様子を観察した。


「いいえ。私が看病します。五十嵐さんは仕事に戻ってください」


「でも……!」


五十嵐はいきなり焦ってきた。


さっき、電話でイズルに言われた。


――その不審な男をリカから10メートル以外にキープするように。


「でも?」


「いいえ、なんでもないです!」


それでも、リカが言い出したから従うしかない。


五十嵐はさっそく部屋から引いて、廊下でイズルに報告電話をかけようとした。


その時、エレベーター到着の音がした。


「!イズルさん……」


イズルはエレベーターを出て、五十嵐に「シー」と合図をした。



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