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1501 嵌められた令嬢

リカの実験日は、イズルが七龍頭(しちりゅうとう)と対面する日に決められた。


エンジェとマサルは「貴人」にイズルの対面日を確認してからそう決めた。


イズルはリカの部下、リカは危険に感づいたら彼の応援を呼ぶかもしれない。念のため、その可能性を排除する必要がある。


七龍頭と対面する時に、通信ツールを持ってはいけない。イズルはリカの救援メッセージを受け取れない。


さらに、実験が終わるまでイズルを引き留めることを「貴人」にお願いした。


今回こそ、邪魔なリカをあの世に送る。




リカは新しいサーブルケースを背負っていて、約束された時間にガイアリングの入り口に着いた。


ガイアリングは高霊(こうれい)山よりも辺鄙な郊外にある。周りは自然ばかり、人の気配がほとんど感じない。


スタッフはリカを「コア」の会議室に案内し、例の「同意書」をリカに渡した。


「問題がなければ、下にサインをください」


リカはざっと内容に目を通し、躊躇いなくサインをした。


「それでは、まず、サンプルの採取です。リカさんは異能力がないですが、形式上なもので、ご協力をください」


リカはうなずいて、スタッフの案内に従い、更衣室前に来た。


「採取専用の着替えはロッカーの中にあります。用意された着替え以外の物は一切所持できません。手持ちのものを、ロッカーに置いといてください」


「貴重品を持っているけど……」


リカはサーブルのケースに一目をした。


「ご心配なく、ガイアリングのセキュリティーは完璧です。電子鍵と普通の鍵、二重鍵があります。監視カメラとセンサーも多数設置されていて、不届き者の侵入は不可能です。リカさんの採取はもっとも簡単なもので、40分くらい戻られます」


「……」


その説明に一応納得して、リカは更衣室に入った。


着替えが済んだら、服とサーブルケースを一緒にロッカー入れて、鍵を閉めた。


さらに、外側にある電子ロックにパスワードを設定した。




提供された着替えは病人服に似ている。


採取のフローも基本な健康診断に似たようなもの。


採血、血圧測定、心電図などをしてから、専門機械に入れば終わる。




エンジェは監視カメラでリカの動きを見ている。


採血の針がリカの腕に差し込まれ、真紅の液体が容器に流れる場面を見ると、口元に勝利者の笑みが浮かんだ。




リカは検査項目を相次ぎクリアする間に、あるマスクとサングラスで顔を隠して、サーブルカバンを背負っている怪しい者が更衣室に入って、リカの私物が入ったロッカーの前に来た。


その人は花山ようこだった。


ようこの手持ちのスマホに4桁数字が表示されている。


その数字はエンジェがコントロールパネルで見たリカが入力したパスワードだ。


パスワードと予備の鍵を使って、ようこはロッカーを開けた。


中身の写真を一枚撮ってから、リカのサーブルケースを持ち出した。


サーブルケースにもパスワードキーがあるのを見たら、ようこは少し焦った。


でも、ロッカーのパスワードを試して入力したら、見事に鍵を開けた。


「リカはやっぱバカだよね。わたし、頭いい!」


ようこはへらへら笑いながら、ケースを開けた。


ケースの中に、二本のサーブルが横になっている。


そのほか、ミネラルウォーター二本と、ビスケット数パックがある。


ようこは一本のサーブルに注目した。


そのサーブルは明らかにスポーツ用のものではない。


きれいな装飾が刻まれていて、宝石のような石もいっぱい嵌められている。


装飾石の中で、親指くらいの大きいさで、楕円形の紫の石があった。


石は不思議な薄い光を放っていて、透明な中身から、銀河の星々のような光が見える。


「きっとこれだよ!」


ようこは大喜んだ。


急いで持ってきたカバンから一本の普通のサーブルを出し、リカの綺麗なサーブルと入れ替わった。


それから写真に参照してロッカーのすべてを元に戻した。




その時、リカは病人服を着て、スタッフの案内で採取機械の入り口にいる。


一つ目の機械はカタツムリ形のトンネル。その中に彩りの光が灯っている。まるで魔境の入り口だ。


本来なら、採取を受ける人がトンネルに入ったら、すべてのプログラムが作動し、異能力の測定と採取が始まる。


だが、リカが入っても測定と採取が始まらなかった。ただ作動しているように、ライトが点滅しただけだ。


それもエンジェとマサルの考慮だ。


まず、リカは異能力がないから、採取しても意味がない。


万が一、リカに異能力があるという採取結果がでたら、逆に面倒なことになる。


どのみち、リカの体質はガイアリングの負荷に堪えられないという偽物の資料を作ったから、彼女の異能力なんかもうどうでもいい。




採取の後は強化テスト。


服装と持ち物は自由なので、リカは一回更衣室に戻って、着替えをして、サーブルケースを取ってきた。


スタッフは「シー」に繋がる合金扉の前で、リカにルールを説明した。


「これから、強化テストに移ります。強化システムは異能力の種類によってテスト環境が設定されますが、リカさんは異能力がないので、とりあえず『身体能力強化』の環境にしました。かなりハードな環境ですが、最後までご協力をお願いいたします」


「異能力のない人に異能力を生み出させる、それこそこのガイアリングの目的じゃないですか?」


リカは皮肉そうに笑った。


「それは復刻システムで、一番最後になりますが……あっ」


スタッフの言葉はまだ終わっていないのに、大きいな扉がすでに開かれた。


リカの「テスト」を待ちきれないように。




開門のボタンを押したマサルは、ガラスを越し、「シー」に入ったリカを見つめている。


不意に、リカは彼の方向に振り向いた。


「!!」


マサルの心臓は重く跳んだ。


外側から内部が見えないのに、リカの眼差しはガラスを貫けるように、彼にまっすぐ刺さった。


アナウンサーからテスト開始の案内が放送され、リカは指示に従って、植物に覆われた道へ姿を消した。




「暗黒一族のお姫様を葬るボタンを押した気分はどう?」


エンジェはマサルの顎を軽く撫でながら、嬌声で彼の意志を確かめる。


「悪くない。もうすぐ、俺は自由になる」


マサルは目を外に向けたまま、無機質な声で答えた。


エンジェは後ろからマサルを抱きついて、ネイルで彼の胸で曲線を描く。


「これは始まりにすぎないわ。あたしたちはもっと明るい未来があるの。あたしを信じてくれれば、すべてはマサルちゃんの思うままになるのよ」




マサルの頭の中で、リカの最後の眼差しはなぜか消えない。


一人の少女の暖かい笑顔が彼の記憶から浮かんできた。


天童大宇の孫になったばかりの時だった。


いままで真面目に授業を受けていない彼にとって、「七龍頭の孫の教育」は過酷なものだった。


いつものように不安とストレスでうずくまるある日、一人の少女は彼に手を差し伸べた。


「大丈夫です。マサルさんの未来を見ました。とても明るい未来です。もっと自信を持ってください」




マサルの手が震えた。


目線は思わずコントロールパネルの停止ボタンに移した。


その時、エンジェの甘い声と温度が背後から伝わってきた。


「リカ、いいえ、天童大宇との繋がりを徹底的に絶ち切らないと、マサルの未来は訪れないわ……他人の駒であるものは、永遠に頭があらない。だから、あたしたちは抗うの、どんな代償を払っていても、後悔しないわ。あの日、一緒に誓ったこと、忘れていないよね」


「……その通りだ」


エンジェの言葉は魔法のような力がある。


マサルは説得され、目を閉じた。




リカは落ち葉に覆われた道を慎重に進んでいる。


ルールによると、リカは変化する地形と障害物の中で、全13個の石碑型「強化機械」を見つけ出し、接触する。


開始するまもなく、リカは異様に気づいた。


通ったばかりの道標はすぐ何処かに消えた。


木や草などの位置も移動して、来た道を遮った。


あっという間に景色が変わって、方向が分からなくなった。


リカは頭を上げて、なるべく遠いところを見る。


森の中に、いくつの大きな黒い石碑が佇んでいる。




リカはスマホでGPSを確認したが、画面が電波に干渉されたように化けている。


仕方がなく、リカはポケットから一枚の地図を出した。


それはこのガイアリングの設計図。


任務報告のために七龍頭の秘書室に訪れる日、武内から渡されたものだ。




「そうだ。大宇さんからこれを渡してほしいと頼まれた」


あの日、武内はリカに天童大宇の状況を説明した後、真剣な顔でこの地図を差し出した。


「『ガイアリング』は完成された」


「?!」


それを聞いたリカは少し驚いた。


「この間まで、エネルギーが集まらないと、みんなに解決案を募集していたのではないですか?」


「その募集は、半分目くらましだった。ほかの異能家族の技術を真似し、それに万代家の法具とかを加え、もうなんとなく実用できるレベルになった。募集から名案がでればそれでよいが、なくても現状のままで完成させる、とやつらは考えているだろう」


温和気質の武内だったが、軽蔑そうに鼻で吹いた。


「一族の人の命をバカにしているいい加減なでき方だ。さらに面倒なことになる前に、何とかしないと――」



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