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2101 好きだから、もういいでしょ

「イズルになんの恨みがある?」


「恨み……?」


マサルはリカの質問をよく理解できなかった。


ガイアリングの一件なら、すでに落着したはずだ。


マサルは苦笑して、もう一度説明した。


「言っただろ。侵入者の彼に挑発されて、ついカッとなって……」


「ガイアリングでカッとなったのは本当だとしても、デパートのテロ事件はなんなの?」


リカの目線は氷柱のようにマサルに刺した。


「テロ事件は落合さんの仕事だ。俺は何も知らない」


リカの逆鱗に触らないように、マサルあえてエンジェの名前を伏せた。


「けど、あの三人のテロリストは、あなたの指示だと白状したらしいよ。テロ事件を起こして、イズルが現れたら、テロ被害に見せかけて彼を抹殺するというあなたの命令を受けたそうだ」


「何だと!?」


マサルは驚きで返す言葉も見つからない。




先ほど、リカがあかりから送られたメッセージは、あのテロリストたちの証言だ。




一時的に言葉に詰まったが、マサルはすぐにテロリストたちが嘘をつく理由を思いついた。


エンジェの指示だろう。


おそらくエンジェは彼に監視を付けている。


わざとあのデパートを落合の任務を執行する場所に選んだ。


すべては、リカに自分を疑わせるためだ。




マサルは密かに歯を食いしばった。


もっと早く気づくべきだった。


エンジェはリカのものを奪うために、リカの傍で何年も忠誠な友達を演じていた。


彼女はリカよりも、自分よりも、我慢強く、偽装に長けている。一度手に収まった自分を無傷に放すわけがない。




どれだけエンジェのせいだと叫びたくても、今彼女の名前を出したら逆効果だ。マサルは胸の怒りを抑えて、自分の潔白だけを主張した。


「冤罪だ。確かに、俺はあのイズルにいろいろ不満がある。だけど、殺したいほどの恨みなんてあるわけがない。きっと誰かが俺たちにかけた離間の策だ」


リカはマサルの目を直視したまま、冷たい声で言葉を返した。


「人を傷付けるには、それほど大きな恨みや陰謀がいらない。むしろ逆、ささやかな不満、嫉妬、怒りなど、小さな邪念で人を傷付けるのは多数だと思う。すくなくとも、万代(よろずよ)家で見てきたのは大体そのほうだ」


リカの声が淡々としているが、マサルは形のない圧迫感を感じた。


「カツオは劣等感のため、新しい異能力を手に入れたいだけ;


 レイは、自分が年上なのに、私のほうが長女として継承権を持っていることに不満を持つだけ;


 ようこはかわいさに自信があるけど自立できない、誰でもいい、ただ強い後ろ盾を求めている;


 エンジェは人生の見栄えにこだわっている、他人からものを取ることで自分の優秀を証明できると思い込んでいる;


 マサルは――祖父の任務を執行しただけと言ったよね。


 どの願いも大した危害がないように見える。


 しかし、全部合わせると、たくさんの人を危険な境地に追い詰めた結果となった」


「お前……」


マサルは何かを言おうとしたが、言葉がうまく出なかった。


リカはあまり他人のことを口にしない。


継承人として他人を見下ろしているから、他人事なんかどうでもいいとマサルはずっと思っていた。


あの人たちの裏腹をこんなにはっきりと知っているのなら、いままで何で黙っていたんだ?


「……そして、その結果を招いたのはやはり私だった。私が周りの小さな邪念、欲望の存在を許したから。今更後悔しても遅い。それでも、これだけを言っておく。これから、どんな小さな邪念でも、私は見逃さない。あなたたちはもう私から何も奪えない、私の何も傷付けられない」


リカの目線は鋭い剣のように、マサルの心の奥まで突き刺す。


マサルはすべてが終わったような恐怖感を味わいながらも、その恐怖感に突かれ、慌てて足掻いた。


「お前から奪うもなにも……以前のことを信じてくれなくても、俺の今の境遇がわかるだろ?俺はもうお前を傷付けるような力がない、力があったとしても、そのつもりは……」


「イズルを傷付けるのは、私を傷付けることと同じよ」


「!」


「マサル、あなたの劣等感はカツオよりも厄介だと思う。劣等感を感じる必要がないのに、あえてそれを作り出している。高いプライドを持っているのに、自分の輝きを信じていない」


「!!」


初めて、リカはマサルの仮面を剥がした。マサルが直面したくない闇を彼に見せた。


「あなたのプライドを満足させる方法はわからいない。でも、これだけは断言できる。プライドは自分自身の心から生まれるもの、他人をあなたより低いところに引きずって、踏みにじんでも、あなたが一番望んでいるものを得られない。異能力で他人を一時的に操ることができても、他人の輝きはあなたのものにならない」


言い終わったら、リカは振り向かずに個室を出た。




「……」


驚きで固まったのはマサルだけではない。


発信機の向こうにいるイズルもショックを受けて言葉がでなかった。


以前リカが彼に吐いた毒舌は、どれほど優しいものだと理解したから。


どうやら、リカは人の心の本質を見抜けられる。今までなにも言わなかったのは優しさの故だろう……


イズルは妙にほっとした気分になった。


幸い、自分の本質は腐っていない。




「リカ――!!」


リカはホテルのロビーまで来たら、後ろからマサルの叫びが追いかけてきた。


監視カメラに映された二人の映像はあかりのハッキングプログラムによって、イズルの携帯に転送された。




マサルはリカを追いかける勢いだったが、数歩の距離を保っていて、前に進まなかった。


ロビーにいるホテルの従業員たちに構わず、マサルは大声で質問をぶつけた。


「あのイズルのこと、そんなに気に入ったのか!」




映像の中のリカはわけのわからない顔で振り向いた。


「俺のほしいものがわかっているつもりのようだな。だったら俺も同じだ!お前が望んでいるものがわかる!」


マサルは震える拳を強く握りしめる。


そうでもしないと、リカに暴かれた心の闇に飲み込まれる。


リカの何かを暴かないと、最後のプライドが持たない……!


「お前が必死にあの人たちを救おうとしたのは、責任感なんかのためじゃない!お前が怖いからだ!継承人として育てられたお前は、本当は誰よりも寂しい。いつも傍に誰かがいてほしい。だから、精神障害の子供も諦めない、他人から邪念を感じていてもその人を切り捨てない。お前は孤独になることが怖いんだ!」


「今のお前が俺たちを完全に切り捨てる理由は異世界の件だけじゃない――お前は『代替品』を見つけたからだ。あのイズルだ。彼は俺たちより資源を持っている。俺たち以上にお前に従う。けどな、彼はお前を利用して、万代家に復讐するつもりだ。お前が天童大宇の孫娘でいる限り、純粋な好意でお前に接する人はいない。お前はいつまでも孤独だ」




いきなり自分をネタにして、一体何を言いたい?


イズルは内心で嘲笑った。


自分を言い訳にリカを侮辱するのは腹が立つが、マサルとリカのレベルの差は歴然としたものだ。


そのようなことで、リカは動揺しない。




イズルの思った通り、リカは平然な態度でマサルに言い返した。


「イズルはどんな目的で私に近寄っていても、私のやることは変わらない。さっきも言ったはずよ。イズルを傷付けることは私を傷付けることと同じ。彼はもう万代家の人。万代家に復讐するというデマをこれ以上流したら、私が許さない」


「……」


マサルは気付いた。


リカにイズルの話題をするたびに、リカはイズルを庇っていた。


今回も、イズルのために自分が濡れ衣を着せられて、リカに追い詰められる破目になった。


マサルの不服もそろそろピークに達した。


歪んだ顔で、マサルはわざとらしい口調でリカに皮肉を投げた。


「リカはここまで人を優しくするとは、見たことがないな。それは、上司としての連帯感?それとも、彼のことが好きになったから?」




「!!」


なんだこの男……!


イズルは危うく受信端末を握り潰した。


リカの気持ちは、自分も聞けなかったのに、彼があんなにも軽々しく口にした。


今すぐでもそちらに飛んで、マサルの頸を締めあげる衝動が胸を走った。


しかし、その怒りが爆発する前に、リカは「衝撃的な答え」を出した。




「好きだから。もういいでしょ」

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