宝石店 【月夜譚No.155】
店頭に飾ってある人形が、私のお気に入りだ。ショーウィンドウの向こう側、色とりどりの宝石の端に置かれた、金髪碧眼の少女のドール。
店は看板通りに宝石を販売しているので、この人形はただの飾りであり、売ってはもらえない。だが、それで良いのだと思う。
最初は欲しいと思ったが、今はここでこうして飾られている方が、この人形は美しくあると思うのだ。たとえ自分のものになって家へ連れ帰っても、私のあの部屋ではここにいる時のように輝けないだろうから。
だから、毎日ここを通る度に、人形を眺めて満足している。傍から見たら、きっと宝石を眺めているように思われるのだろう。それでも良い。私はただ人形が見たいだけなのだから、周りからどう見られようと構わないのだ。
今日も、人形は美しい。主役であるはずの宝石達よりもずっと、彼女の方が魅力的だ。
私は暫く何もないショーウィンドウを見つめてから、踵を返した。