渡り鳥
高校一年生の夏。
クラス会で海の家に集まり、カードゲーム、スイカ割り……そして、花火。
正直、クラス全員の顔と名前が一致していたわけではない。
誘われて、皆が行くと言ったから僕も行った。
ただそれだけの話。
基本、皆は仲良しグループで行動して、同じ事をやる。
僕は放浪型の人間だから、そこそこ話したことのある相手のいるグループであれば、溶け込める。
飽きたら次のグループへ飛び立つ、渡り鳥。
居場所を探して彷徨っていると、花火をしている数人のグループがあった。
今年はまだ花火をやっていない。やりたい。
そう、僕は単純な人間だ。
ふらふらと人の輪に近づき、声を掛けた。
「いいよお。まだたくさん余ってるし」
グループに交じっていたクラス委員長が、はいっと花火を差し出してきた。
「ちょっと、それ線香花火だし」
誰かがつっこみ、笑いが広がる。
「ごめん、ごめん。最初から線香花火とか嫌だよね」
委員長は慌てて差し出していた花火を引っ込めようとした。
「いや、それでいい」
僕はそのまま線香花火を受け取った。
「○○君て、不思議だね。 藤崎君みたいに誰とも話さず、クラス会にも来ないようなタイプに見えるけど、実際はなんとなく馴染んでるし」
「そうかな」
「そうだよ」
線香花火を僕一人だけにさせるのは居た堪れなかったのか、隣で線香花火を始めた委員長と口数少ないながらも言葉を交わす。
「来年もねー、やりたいんだよね、クラス会。楽しいでしょ?」
「……そうだね」
「でしょう?それで×××が、××××で……」
「×××?」
「×××!!×××××……」
……いつの間にか、天井を見ていた。
見慣れた、自分の家の、自分の部屋の、天井だ。
どうやら僕は夢を見ていたらしい。
「現在、日本全国で猛威を振るっている未知の病気は、感染者数が増える一方で終息のめどが立たず、今後も……」
部屋のテレビがつけっぱなしになっている。
昼のニュースの時間帯だ。
どうして、あんな夢を見たのだろうか。
去年はクラス会どころか、学校行事さえほとんど中止になったのに。
ニュースを聞く限り、今年も変わらない夏が来るようだ。
渡り鳥の行く先は、まだ見えない。