第二話「転移」
「もうすぐ今夜の宿に到着する。準備をしておけよ」
馬車に揺られる事、6日目……
王都よりはるか遠い【ルラペンテス】には明日到着する予定。
私の罪状は「宮廷内殺生罪」
減刑により死罪は免れたが、追放された流刑地での労役が科せられた。
道中の扱いは悪くない。【ルラペンテス】で待っている労役は一つ。鉱山で働く労役者を【慰安】すること。恩赦がない限り終わる事のない罪。エルフの寿命は長い……悲惨すぎる。
「馬車から降りろ。宿に着いた」
宿に入り、同行する刑務官の言われるがままに薬湯を飲み干す。飲み干した薬湯は私の魔力を抑えている。おかげで私は無力だ。
ふかふかのベッドに横たわる。もうこんな寝床では眠れないのかなと、考えていたら眠ってしまった。
薬湯が眠気を増幅させているのかな……
……おきて、おきてください……起きて…………【睡 眠 解 除】
同じ部屋で寝ていたはずの刑務官に起こされる。素性を隠す為のマスクを外した顔……!?
「お久しぶりですね、団長。私の事、覚えておいでですか?」
「エリーでしょ!? あなたが一緒に居た刑務官だったの!」
私が【王国魔法師団長】だった時に、よく目をかけていた【エリアス・ミルフェン】補助魔法が得意で優秀な魔術師だった。……私と同時期に除隊していたはずだけど……
「ええ。私は刑務官になりました。補助魔法が役に立つ仕事なので」
「確かに、エリーなら咎人が暴れても魔法で鎮圧できるし、真面目なエリーなら刑務官にはうってつけだわ」
しかし、情にほだされて職務放棄をするような子ではなかったけどなぁ。これはどういうこと?
「団長、同志たちの手を借りて、あなたを逃がします。私と一緒に来て下さい!」
「逃がす? 同志たちって、エリー、あなた……」
……やはり何かあるんだ。このままだと穴倉で一生慰み者。そんなの嫌に決まってるじゃん! この話には乗るしかない!
「詳しい話は後で。この村全体に【強 制 睡 眠】をかけています、今のうちに!」
二人急ぎ足で宿を出た。外は満月か。薄暗いけど周りが見渡せるのは幸い。
「この先にある、離宮カノープスで仲間と合流いたします」
「離宮! 王様が突然消えた、あの事件現場の……」
「そうです。馬は使えません。団長、失礼いたします……【瞬 足】」
と、エリーが身体強化魔法を無詠唱で発動。足の筋肉が異様な程に盛り上がり、私達は馬並みの速度で街道を駆け抜けていく。
咎人が着る、白い薄手のローブがヘソの上までめくれ上がって……
「パンツ丸見えだぞ、バカっ!!」
今日のパンツはシンプルな白いやつ。誰も見てないだろうけどさ。
その後、エリーはいくつかの付与強化魔法を重ねがけて、すぐに離宮へとたどり着く。
王族の避暑地というだけあって立派な造りだけど、手入れをされる事も無くなって、ガタがきている。
「まもなく同志たちと合流します。しばらくお待ち下さい」
「寂しいところね……」
「王様が消えて以来、住民は他へ移住したと聞いています」
「なるほどね……ここなら隠れ家にぴったりってわけだ」
ここに送られた理由は、私が陥れられた原因と何か関係があるはず。私を追いやって利を得る者は誰だろう?
「理解できないんだよねぇ……私がこんな目にあっている理由も」
「団長は巻き込まれたのです。この世界を揺るがす陰謀の渦に」
「陰謀?」
「団長の能力を考えれば当然でしょう。周りにもきっと奴らが隠れていたのです」
……しばらく待っていると、
『ギィィ』
音を立て、奥の扉が開いた。月明かりしかない薄暗い空間にひときわ輝くランプの光が眩しい。
「ネオン、遅くなった。ここに来るまでに少し邪魔が入ってな」
「え! フロイド!?」
そこに居たのはあの日で店を留守にしていた黒服【フロイド・ヒューリー】だった。
「お前を守りきれなかった……すまなかったな」
フロイドは【元王国騎士団長】で私とは旧知の仲。名誉除隊して貴族となったが、領地は人任せで【宮廷ホステス】の世話役を長年勤めている。他の黒服達も多くがフロイドの家臣だし、言わば【世界樹の雫】の守護者ってやつね。
「お前も丸くなったな。いつ逃げ出すかと、手を回してエリーを付けたんだぞ」
「それ、また皮肉でしょ? 私だけの問題なら逃げ出していたわよ!」
ネルマちゃん達、お店の若い子にまで迷惑をかけるなんて考えられない。あの子達にまで咎が及ぶかもしれないじゃない?
「そんなネオン嬢の能力を見込んで、頼みたいことがある」
「ふふっ。そういうことだと思っていたわ」
「俺からの”指名”を受けてもらおうか、No.1」
フロイドがずっと何かしら任務を背負っているってことは感じてた。昔の彼はもっと優しい目をしていたから。
「あらご指名? 私は高いわよ」
ふふっ。なによ……私を指名しちゃって。客でもないくせに……
でもずっと守られてきた恩を私は忘れない。
「支払いはユグドラホテルのディナーでどうだい?」
「ふふっ……いいわ。そのお願い、食後のBARも込みでね」
「で、何をしたら良いわけ?」
「異世界転移してくれ!」
「はぁぁ? 異世界転移? どういう事よ!」
「異世界に行って、ホステスになるんだ! お前にしか出来ない事だ」
「何言ってんのよ!! 意味わかんない!!」
話が飛躍しすぎて頭が付いていかない!
「団長、私もこの話を聞いた時は混乱しました。しかし異世界は存在します。我々の世界と行き来できるのです。国の発展には……異世界転移者の助力があったのです」
エリーが補足してくれた。私達の発展の裏で異世界が関わっていたの!?
「お前には異世界に消えた王を探し出して欲しい!」
「でも、なんでいまさら、消えた王様の力が必要なの?」
「それは異世界人を召喚した張本人だからだ。王の特別な力で異世界との繋がりを閉じてもらう」
「それって発展の為だったんでしょ? それなのに何故?」
「異世界人が少しずつ俺達の世界に入り込んできてな。侵略してきているからだ」
つまり、その何者かが私を陥れたってことなのね。
「それじゃあ、なんで私が、王様探しに選ばれなきゃいけないの?」
「あちらの世界はホステスが力をもっているらしい。だからお前が適任だろ?」
「なにがだからよ! それにホステスが国を? どういうところよ、異世界って」
「こちらに来たヤツに協力者がいてな、そいつが言うんだ。信じるしかない」
つまり急速な発展の代償が今、私達の国を脅かし始めてるわけだ。
「この下に【異世界通路門】がある。満月の夜にしか開かない」
「満月? ちょうど今日じゃないの!」
「数日をかけて、お前の身体が転移に耐えられるように調整してきたんだ」
「調整? なんかされてたの、私!!」
「団長、あの薬湯です。人族並みに魔力を落とさなければ転移ができないのです」
『バシッ』
突然、フロイドが虚空を掴むと、そこには鋭い針のようなものが握られていた。
「何!?」
私に向けて放たれた武器?
「どうやら、おしゃべりの時間は終わりらしいな。早く下の【異世界通路門】へ!」
エリーに案内され、門の前へ……異様な雰囲気を感じる。門は赤い丸太のようなものを組み合わせた変な形で、入り口から不思議な光を放っている。
「これが【異世界通路門】です。【ニホン】と繋がっています」
「【ニホン】?」
「それが異世界の名前です」
これは大変な事になったわね……
「【ニホン】は王様が目指した未来の形……よりよく発展した世界だと聞いています」
「発展ねぇ? ホステスがが力をもっているなんて、相当おかしな国よ?」
「詳しくはわかりませんが、女王様が治める国なんでしょうかね?」
エリー、多分違うって。とにかく情報を集めるにはそこに入り込めばいいってことか。
「我らエルフの救世主になってください。団長、いや……【宮廷ホステス】No.1」
覚悟は決まった。門の前に立ち進む。
「わかったわ。エリー、フロイドを助けてやって。じゃあ……行ってくる」
「王を探し出して、私達の世界を……頼みます!」
上から聞こえる爆音、そして振動。不安や心配、諸々を振り切って、私は【異世界通路門】へと飛び込んだ。
色とりどりの不思議な光に包まれる。空間の歪みに私が蕩けていくぅぅ…………・・・・・・
そして私は、異世界転移した。