第7話 肉じゃが
あの後最初の部屋に戻って僕たちは席に着いて食事を始めた。
「「いただきます!」」
「どう?アリスタ君。」
アルテミアさんが僕の為にわざわざ魔法で物凄い数の肉じゃがを作ってくれたのでありがたく頬張る。
「はい、おいしいです!」
そして僕は机一面に並んだ肉じゃがをひたすら口に運び続ける。感じ取れる肉の旨味とじゃがいもののホクホクさが最高だ。
「それならよかった。」
こちらを見つめ優しく微笑みを向けるアルテミアさん。なんだか見た目に反して少し大人っぽく見える。
「今日の特訓はどうするんですか?」
「あー、それなんだけれど。今日は別の急用が入っちゃってね。」
「急用って?」
「ここら辺の近くに現れた魔物の退治の事。私たち魔法使いは魔物を倒して市民を守るのが義務なんだ。」
「なるほど…。」
アルテミアさんが久々に真面目な口調でそう語ったのだから本当の事なのだろう。
しかし魔物退治とはどんな事をするのか気になるなぁ。
「その魔物退治に僕もついて行っていいですかね?」
腕を組んで少し悩む仕草を見せるアルテミアさん。やっぱり僕みたいな力不足な奴がついて行ったら足手まといになっちゃうかな。
「う〜ん、確かに魔物退治を見るだけでもアリスタ君が今後魔法を学ぶのならいい経験になるだろうし…。決めた、いいでしょう。」
「いいんですか?」
「ただし、私の後ろから離れない事。いい?」
「分かりました!」
僕は食事のペースを上げて自分の手に取った肉じゃがを急いでから食して行く。
「ごちそうさまでした!」
「はや!大丈夫?喉に詰まらせたりしてたりしない?」
「大丈夫です!早く魔物退治に行きましょう!」
「まぁまぁ落ち着いて。取り敢えず着替えましょうか。」
アルテミアさんの今の格好はピンクの小柄なパジャマだ。確かにこの格好のまま魔物退治に行ける訳が無い。
「分かりました。でも僕の着替えがないんですけど。」
しかしアルテミアさんにはあの魔法使いのローブがあるけれど僕にはこのなんら特徴のないシャツしかない。
「じゃあこれを着なさい。」
そっと手渡されたのはアルテミアさんと同じ様な魔法使いのローブ。僕には紋章が見えなかったけど恐らく魔法で出したのだろう。
「ありがとうございます。それで着替えはどこですればいいですかね?」
「私が自分の部屋で着替えてくるからアリスタ君はここで着替えていればいいよ。」
「分かりました。」
部屋を出て行ったアルテミアさん。少しの間一人ぼっちというだけで何か寂しくなる。
考える前に取り敢えず着替えなければ。
服を脱ぎ畳んでローブで体を包む。着た感じ肌触りの良い素材で着心地がいいローブだ。
「僕は終わったけどアルテミアさんはまだ来ないのかな。」
少し退屈だったので畳んである自分の服をまとめて置いていたその時、勢いよくドアが開いた。
「お待たせ!じゃ行こうか。」
そこには僕と初めて会った時の魔法使いの格好をしたアルテミアさんがいた。
パジャマの彼女も幼気があって可愛いけど魔法使いの格好をした凛々しい方が僕は好きだ
「行きましょう!」
アルテミアさんは手に持った杖で巨大な紋章を空中に描く。その紋章から放たれた緑色の煌めきに入り彼女はこちらに手を伸ばした。
初めて僕がこの家に来る時に彼女が使った転移魔法だ。僅か1日前の事なのにどこか懐かしささえ感じられる。
少しこの状況を懐かしんでから僕はその手を握り締めた。
すると体は紋章の眩い光の中に吸い込まれて行った。
肉じゃがって美味しいですよね。