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魔法使いの行方  作者: 腐れミカン
霧の古城編
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霧の古城





廊下を走り抜けた僕らは教室のドアを開けて、中に勢いよく飛び込んだ。


「あっぶねぇ〜、なんとか間に合ったな。」


息を切らしながら緋色君はそう言った。


時計を見ると、後5分くらいでチャイムが鳴って遅刻扱いになっている。なので、本当にギリギリ間に合ったという感じである。


そんな彼に対して僕も共感の言葉を返した。


「そうみたいだね。」


そんな僕らの方に、呆れた様に視線を投げかけてきたフラム。朝ご飯をのんびり食べて遅刻しかけた僕らに対して、彼女は保健室のベットで寝ていたのもあったからか、時間にかなり余裕を持って自席に着いていた。


「間に合ってよかったわね。」


そう言葉を投げかけて来たフラム。明らかにこちらを小馬鹿にしているのだが、緋色君は笑顔を浮かべて嬉しそうに返した。


「まぁな。」


それを聞いたフラムは、なぜか僕の方に向けて同情を含めた視線を送ってきた。目元も少し下がっておりもはや哀れみとも取れるその視線。


一体何の意味があるのか分からないし、怖いからその訳は聞かないでおきたいな。


「お二人ともおはようございます。」


そんなフラムに反して、マリアは何と優しいのだろうか。僕らに向けて普段の彼女よりも明るく挨拶をして来たでは無いか。


「おはよう。」


僕は彼女の目を見ながらそう言ってみた。茶髪の隙間から見えるその澄んだ青い瞳は、何よりも透明で綺麗な色をしている。


電光に照らされてキラキラと反射していて、もし海があったならこんな青色なんだろうなぁ…なんて考えていると、フラムから異様な視線が向けられている事に気づいた。


「えーっと。何か?」


僕が顔を向けてみると、目を細めて腕を組んで何か言いたげな様子のフラム。彼女は分からない事だらけだ、一緒に戦ってた時にはそこそこ仲良くやれていた気がしたんだけどなぁ。


「何でもないわ。」


僕の問いかけにそう素っ気なく答えたフラム。だが鷲が獲物を狙う様なその視線は依然として変わらない。


「その視線が何でもない訳ないですよね。」


改めて恐る恐る問いかけてみるとこっちに向けて小さな声で呟いた。


「うるさい。」


何で怒られたのか分からないけど、怒られたのにはそれなりの理由があるのだろう。


人って自分の知らない意外な癖で他人を傷つけてしまうらしいし…僕もそんな感じの事をしてしまったのだろう。


「ごめんなさい。」


僕が軽く謝ると少しバツが悪そうに俯いた。


「別に謝らなくてもいいわよ。」


そう言われたが、言葉よりも目線とは多くを語るものだ。心の奥底で思っている何気ない事が出る事も多い。


だから僕は問いかける。間違いをもう起こさない様にする為だ。


「いや、不快にさせたなら悪かったかなって。せめてその怒った理由だけでも、僕に教えてもらえないかな。」


言い終えた後、フラムは顔を真っ赤にしてこちらに声を荒げた。


「もう気にしてないってば!」


その表情が怒っている事とは違うと分かるのだけど、それが何を意味しているのかまでは分からない。


僕らがそんなやり取りをしているのを隣から見ていたマリアと緋色君はにやにやと僕らの様子を微笑ましそうにしている。


「アリスタさんとフラムさん、朝から仲良しですね。」


「ね〜。」


そんな風にマリアが言った後に緋色君は続けた。だがその瞬間、フラムが勢い良く机から立ち上がり緋色君の方へ駆け出した。


「黙れ緋色!!」


何故かピンポイントで狙撃された緋色君。何か危機を察知した様に勢い良くすっ飛び上がりその場から逃げ出した。


「どわぁ〜?!何で俺だけぇ〜!!」


「逃がすかー!!」


そう嘆く緋色君に向けて、フラムは紋章を描き勢いよく炎を撃ち放っていく。だが、緋色君がそれを必死に避けるので、後ろの壁がドンドン燃やされていく。


「あの二人も仲良いよね。」


そんな様子を見ながらマリアは何とも幸せそうに言っているが、僕はこの教室がメラメラと燃えているこの状況でちゃんとした事なんて言えそうにない。


思っている数倍もマリアは肝っ玉が座っている事を僕はこの時初めて知った。でも、前にこんな感じのパニックが起こった時には倒れていた様な…。


「あはははは。綺麗ですよね…炎。」


ふと彼女の方を見ると、その視線からは心ここに在らずという様子が分かる。


なんてこった。マリアが物凄い現実逃避してる、でもその気持ちは痛い程分かる。だからそっと落ち込む彼女の背中を撫でてあげた。


「危ねぇ!!」


「さっきから何を」


緋色君がドアに向かって撃たれた炎弾を回避した瞬間、運が悪い事にルイ先生がドアを開いて中に入ってきた。


勿論直撃した。顔がすっごく燃えた。



「あのなぁ。前にも言ったが、もう魔法を室内で使うんじゃ無い。当たったのが私だったからまだ良かったものの、何も知らない一般生徒に当たったりでもしたら大変なんだぞ?」


そんな風に語るルイ先生。何か違和感でも覚えたのかマリアは服の裾を引っ張って問いかけて来た。


「これってまたトラブル?」


恐らく放心状態から完全に意識を取り戻したのだろう。だから僕も頷きながら答えた。


「まぁそんな所だね。」


そんな感じに僕らがヒソヒソと会話していると、怒られていた当の本人達はルイ先生に頭を下げた。


「「ごめんなさい。」」


そう二人が謝ると彼は呆れ半分諦め半分の表情で、話を切り出し始めた。


「まぁ説教はここら辺にして。」


「今回のトーナメントに君らは参加しなくていいとダスト校長が仰ったのだよ。」


その言葉に衝撃を覚えたのか緋色君は笑みを浮かべながら言った。


「マジか。」


その至極嬉しそうな「マジか」に続けながらルイ先生も話を続ける。


「マジだ。だが代わりにAランクの優秀な魔法使いが参加する分の穴埋めを我々Cランクがする事になった。」


その言葉を聞いて落胆する僕を含めた全員。


「えー、何するんのよ?」


フラムが気怠げに問いかけると、ルイ先生は簡単に分かりやすく答えた。


「霧の古城という場所で魔物退治をする。これが今回トーナメントをやらない分、代わりに君らに課せられた新しい課題だ。」


霧の古城…。曖昧なイメージしか無いけれど、その場所で僕は彼女と再会する様な予感を感じていた。


深い意味なんてないのだろう、だがその場所の名前の中にあった霧のワードに僕は心を惹かれていた。

最後までお読み頂きありがとうございます。


少しでも楽しんで頂けたなら嬉しいです。

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