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魔法使いの行方  作者: 腐れミカン
霧の古城編
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第62話 囚われて





私が保険室のベットから起き上がり、校長室まで移動すると、そこでダストは椅子に深く座り待っていた。


「時に霧ヶ谷よ、ワシらはいつを生きておるんじゃろうな。未来、現在、過去。その3つの中でお主は何を選ぶ?」


こちらを見据え、そう問いかけて来たダスト、何故いきなりこんな話をして来たのか意味が分からない。


だけど答えない訳にもいかないので私は適当な答えを伝えた。


「私達が生きていく中で共に時間は進んでいます。だから未来を生きているんじゃ無いんですか?」


そう私が言い終えた後、ダストは頬杖をつき、もう片方の指で机をトンと叩いた。


その行動に何の意味があるのは私には分からないが、それはまるで大切な行動であるかの様に…私に見せつける様に叩いて見せた。


「それも間違いでは無い。だがなワシはこう思う訳じゃ、現在を生きて過去を作っているのが人間であり、未来なんて存在しないんじゃ無いのかと。現に今、ワシが机を叩いたのも、既に過去の出来事となっておるじゃろう?」


分からない。この人は依頼で私を呼び出したのに、何故こんな関係の無い話をするのだろうか。


普段ならばすぐに用件だけ言って、私を現地に派遣するというのに…何故。私の中で疑問は頭を巡り、思考は理解を拒絶した。


「それが何か、今回の依頼に関係するんですか?」


そう言うとダストはこちらに嫌な笑みを浮かべて


「いや、今気分が大変良いのだ。だから、少しワシの昔話を聞いてもらおうかと思ってな。」


この男は何故そんな話を私にしようとするのだろうか、全く分からない。


「昔…話。」


気づけば嫌そうな顔をして、その言葉を私は吐き捨てていた。どうしてだか分からないが、今回は普段よりも遥かに気分が悪い。


まるで何か嫌な事の前触れの様な。


「そう心底嫌そうな顔をするで無いぞ。ワシの心が傷ついたじゃ無いか。」


ダストからそう指摘され、私は我に返りすぐに取り繕った。いつもの自分では絶対にしない様な初歩的なミスをしてしまっていた。


「分かりました。」


一語一句間違えない様に、噛み締めながらそう言った。もう私の行動による間違いは許されない。これ以上失態を重ねて、薬を貰えなくなったら困るからだ。


「昔ワシはある男と共に、この地にて魔法を研究していてな。その男はなんと未来が視えると言っておったのじゃ。何とも馬鹿らしいじゃろう?」


未来が視える、魔法を研究している、あの魔鉱山にいた男の条件と合致する。何か意図的に私にこの話を聞かせているのだろうか…?


ダストはそう考える私の事など気にしないで、一方的に話を続けていく。


「それで面白いのは、何でも未来は一点に収束する事は無いと言う事じゃ。幾千にも分岐しておるとな。だから完全には未来を見通せなかったらしいの。」


「…。」


私は頷きながら話を聞いている。無駄に口を挟む必要など、無い気がして来たからだ。


ダストは昔話をしたいのであって、私が何かを言う事を望んでいない。一方的に話したいだけ…なのだろう。


「お主は優秀な生徒じゃから、もう分かっておるかもしれんが、この男はあの魔鉱山にいた奴じゃ。名をオルサーといっての、それはそれは奇妙なほど優秀な男じゃったよ。」


「オルサー…。」


意味なんて無いのかもしれないけど、命のやり取りをした関係だからか、自然と追悼する様に口からその名が漏れた。


それは情けかもしれないし、同情かもしれない。アリスタの師から話を聞いたのだが、最期は自分の作り出した装置の歪みに飲まれ、哀れな末路を辿った男。それがオルサー。


ダストは私の呟きを続ける様に話を続けて行く。


「そうオルサーじゃ。奴は好奇心が過剰であるが故に、この世界の真実を知ってしまった。だからワシはその真実に一生たどり着けない様、ある一つの魔法を掛けた。勿論共に魔法を探究した同志であるが故の最後の情けじゃ。」


そして一息吐いてからダストはこう言った。


「じゃが…それでも奴は、また辿り着いてしまった。その異様なまでの好奇心は、もはや呪いとしか思えんの。」


そう言い終えてからダストは笑った。その哀れな男の末路を知っているからか、何とも乾いた様に笑みを浮かべた。


「それでワシは深く反省したんじゃ。もうその悩みの芽は、間引かねばならないとな。」


私はそれと同時に、嫌な予感が的中した事を確信した。これは今回の一件に関わった者全てを始末しろという依頼。


そうで無い事を数ミリの期待で祈りながら次の言葉を待つ私。嘘であって欲しかった。


だが現実は変わらない。そこにはあるのは普遍的な事実のみ。


「やり方は問わぬ。フラム以外全て始末しろ。彼奴らに…真実を知られてはならんのじゃ。」


告げられた宣告、逃れる選択肢を私は持たない…妹の為にも持てない。だから頷いた。言葉に出したら今にも嫌になってしまいそうだから。行動で承認の意を伝えた。


どんな感じであれ、関わりを持った人間を殺すという行為に頷いた自分が嫌になった。


だから関わりなんて持ちたくなかった。何かを得るのは何かを失うと同義だって、あの古城で生きてる時に、私は分かっていたはずなのに。


フラムの護衛で初めてアリスタと出会ってしまったあの日…関わりを持たなければ。マリアが居なくなった事も気にしないで、見ない振りをしていれば。あの時に緋色と話さず、王城から慕われていても無視をしていれば。


私は馬鹿だ。何よりも愚かで、それを分かっていながら泥沼に足を入れる事しか出来ない。


「場所は…そうじゃな。主の故郷である霧の古城にしよう。あそこは行方不明の数が多いから、後片付けが楽じゃしな。」


そうダストは簡単に吐き捨てた。その行方不明者は皆、私が殺したと言っても過言では無い。


その中で苛烈な争いを勝ち残り、生きる権利を得た少数…それが私と沙夜。


霧の濃いあの地が私は嫌いだ。夜空に浮かぶ星さえ見えなくなって、自分の行方さえ分からなくなる。


だけど、それでもやらなければならない。沙夜が出来ない事を私がやる。その為に私が居るのだから。


「話は以上じゃ。彼奴らを集める手回しはワシの方からしておくから、気にせんで良い。」


ダストは手で出ていく様にこちらへ伝えてきた。だから私は一言だけ言って外に出た。それ以外言おうと思えなかった。


「はい。」


頭の中が絡まって気分が悪い。いつもより遥かに嫌な気分だ。何もかも投げ出してしまいたいし、背負う重みに耐えられ無くなりそう。


だけど沙夜の為なら、私はやらなければならない。



その手を強く握り締めながら、一度私は保健室に戻り、ルイワードに体調が戻ったと告げてこの場から早く去ろうと考えた。


だがそこにルイワードは居なかった。居るのはフラムとマリアの二人だけ。


「お帰りなさい…霧ヶ谷さん。目が覚めている様で良かったです。」


私の方を見てマリアは安堵した様にそう言った。その口振りから察するに、一番最後に起きたのが私の様だ。


「ありがとうマリアさん。」


軽く礼を告げた後、私はルイ先生が来るまでの時間をここで過ごす事を決めた。


下手な移動よりも待った方のが早く済む事は意外と多いと思っているからだ。


「食べる?」


ベットに座っている私に向けて、フラムが少し恥ずかしそうに言った。彼女から私に向けて話しかけて来たのは初めてかもしれない。


「頂こうかしら。」


私はそう一言告げて彼女の手から、みかんを一房貰って口の中に入れた。この甘酸っぱい味は慣れないけど嫌いじゃない。


「そのみかんはね、緋色達が買って来てくれたのよ。アタシ達のお見舞いでね。」


フラムがそう伝えて来て私は複雑な気持ちになった。これから殺さなければならない皆からの好意を、素直に喜べない今の状況が辛い。


何でこうなってしまったのだろう。何を間違えたのだろうか。


「そう。」


それしか言いようが無かった。そう言う事しか出来なかった。私は自分が思っていたよりも、弱い。


戦ったら誰でも倒せるだろうけど、それでも選択肢を選べない弱者の身。何かを奪わねば生きれない、惨めな生き物。


それが私。


「それでね、今度アタシ達でお礼に何か買ってあげようかなってマリアと話していたのよ。霧ヶ谷もどうかな、一緒に買いに行かない?」


フラムは楽しそうに話を続けていく。光の住人である彼女らの幸せを奪おうとする、私の入る余地など無い。


だから断るしか私には無い。


「嬉しい提案なのだけれど、ごめんなさい。これから私にはやらなきゃならない事があるから、しばらく時間が取れないの。」


そのやらなきゃならない事が人殺しだなんて、言えない。言いたく無い、せめて彼女らが生きている間には知られたく無い。


沙夜の為だから。私は堪える。


「そう…ですか。ならいつか霧ヶ谷さんの時間がある時に…一緒に行きませんか?」


マリアからそう声をかけられた。彼女は沙夜に似ている。脆く儚いその姿が似ているから、重なって見えてしまったから、私は苦悩した。


多分今の私にはマリアの姿が、きっと沙夜にしか見えていない。だから助けようとした。


泣いてほしく無い。今の様に残念な顔をもしてほしく無いし、出来る事なら笑っていてほしい。


だから私は嘘をついた。それが叶わないと知っていながら私は…。


「分かったわ、いつか…行きましょう。」


口から捻ったその嘘でマリアは明るい笑みを浮かべフラムも上機嫌になった。


ずっと嘘を吐き続けられるなら、どれだけ幸福なのだろうか。ずっと夢に溺れて、現実から目を逸らして、何も見えなかったら…。


「よーし決まり。この3人の約束よ。」


フラムが最後にそう言ってから皆で交互に指を出して約束を交わした。


決して果たされる事の無い、小さな約束を。

最後までお読み頂きありがとうございます。


少しでも楽しんで頂けたなら嬉しいです。

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