第61話 グレー
朝になって僕は目を覚まし体をゆっくりと起こした。その後に欠伸をしながら体を伸ばして二段ベッドから降りた。
時計を見てまだ余裕があるのを確認した後に、早く起きる事に越した事は無いと思った僕は、
下の方でまだ寝ている緋色君の肩を揺すり起きる様に促した。
その内顔を顰めて唸り声を上げた緋色君は身体を勢いよく起こした。
「もう朝か。あんまり寝た気しないなぁ。」
そう言った後彼は腕を前に伸ばして大きな欠伸をした。あんな事があった後だから僕も寝た気がしないのは同じだ。
起きたものの、また寝てしまいたい気分だとさえ思った。僕はそんなことを考えた後に彼に言葉を返した。
「そうだよね。」
僕は軽い会話を終えた後に軽くストレッチをしてからクローゼットに何着もある制服のうち、一つを取って簡単に身支度を済ませた。
そしてお腹が空いた僕は緋色君に問いかける。
「朝ご飯て何かある?昨日一日、結局の所何も食べてないからお腹空いたよ。」
「昨日何も食べてなかったって、おいおいマジかよ。そりゃ腹減るって。」
そう呆れ半分驚き半分の微妙な表情になった緋色君はキッチンの奥の方に行って何かを持ってきた。
「ほら、カロリーメーター。小腹空いてるだろうし、これ先に渡しておくから取り敢えず待っててくれよ。その間に俺が料理作ってやるから。」
僕は彼の手から投げ渡された箱を受け取った。見た事のない黄色のパッケージだが、あの話だと中に食べ物が入ってるみたいだ。
お腹が凄く空いているのもあって食べ物を手に持っているという事実に思わず笑みが溢れてしまった。
「本当?嬉しいな。ありがとう緋色君。」
僕は感謝の意を伝えると、緋色君は普段では全然見せない様な不思議な顔をしながらこちらに話しかけてきた。
「なんか前から思ってたんだけどさ、時折見せる一面が何か女っぽいよねアリスタ君。元々中性的な顔をしてるのもあるんだろうけど、もしかして実は女だったりしない?」
何という事だろうか、確かに初めて鏡を見た時に自分の女々しい見た目に衝撃を受けたが僕は歴とした男だ。
普通にアルテミアさんや、マリアにフラムと話している時にも異性として少しドギマギするし、惹かれる心があるのだから間違いない。
それに僕が目指す理想像は力強く逞しい立派で良識もある男性像だ。そう思ってるのもあって、少し怒りの感情を覚えた僕は強めに緋色君に言い返した。
「そんな事ある訳無いじゃないか。僕は将来的に筋骨隆々の逞しい男になる予定なんだ。そんな風に言われるなんて心外だよ。」
僕が言い終えると、緋色君は笑いながら手を合わせて謝ってきた。
「だよな。いや俺の勝手な思い込みで怒らせてすまんかった。お詫びに食べたい料理を言ってくれればあり合わせで作るから許してくれないかな。」
しかし、考えは改めてくれたもののあの言い方を見るにどうやら、僕は周りから少し男っぽく見られていないみたいだ。
だけど改善しようにも果たしてどうすればいいのだろうか。目の前にいる緋色君の顔を見てみる。
彼は黒髪黒目のあまり特徴が無い見た目だが、それでもそこはかとなく男らしさが分かる。
だが体付きはそんなゴリゴリでも無いし一体何が男らしさなのか少し悩んだ末に僕は一つの答えを出した。
そうそれは彼の細く鋭い目元である。切れ味の良さそうなナイフみたいで、危ない男的な感じが凄く出ている。
多分これだ間違いない。そう確信した僕は目を細めてみた。
「どう?」
彼に問いかけると少し困惑した表情を浮かべてすぐに言葉を返してきた。
「その目…怒ってる?本当ごめんって。」
あらぬ勘違いをされてしまった。何故だ、男らしさはそこに無かったというのだろうか。解せぬ。
「いや、別に怒ってないよ。ただ僕が男らしい人間だって分かってくれればいいんだよ。それとさっきの話だけど、食べたい料理はオムライスかなぁ。」
僕がそうすぐに怒っていないと言う節を伝えると緋色君はホッとしたのか表情を崩した。
「ならよかった。それと料理の方はそんなに時間もかからないだろうからさっき渡したカロリーメーターでも食って待っててくれよ。」
緋色君はそう言い終えた後にキッチンで料理器具を取り準備を始めた。
その間に僕はもらったカロリーメーターとやらのパッケージを開封して、中に入っていたブロックを一つ摘んた。
その味はチョコレート味というか何というか。シンプルで舌触りの良いものだった。
〜
そして僕がカロリーメーターを食べ終えた頃に
緋色君が皿の上にオムライスを乗せて戻ってきた。
「待たせたな。じゃあさっさと食おうぜ。」
そう言って彼は机の上にオムライスとスプーンを置いた。出来立てホヤホヤなのもあって湯気が薄らと見えて暖かそうだ。
「うん、いただきます。」
「いただきまーす。」
いただきますをしてから僕らは目の前のオムライスをスプーンで掬って口まで運んだ。
口の中で卵のとろけるそうな甘味と、上にかけられたケチャップの程よい酸っぱさが、完璧に組み合わさっており凄くおいしい。
極めては中に入ったチキンライスだろうか。これがまた、肉の質感を感じさせて卵ともマッチしている。
「すっごく美味しいよ。緋色君は料理上手なんだね。」
僕が感動を込めて賞賛の意を告げると緋色君は少し照れくさそうに言葉を返してきた。
「まぁな。昔からこういう料理とかってのは、嫌いじゃないんだよね。もしよければ、今度教えてあげようか?」
彼の提案は凄く魅力的だった。僕がもし一人っきりの時に、このくらい美味しい料理が作れたら便利だろうと思ったからだ。
「是非お願いしたいな。」
そんな感じに楽しく会話を交わしながら食事を終えて僕らが時計を見ると、その針が刺す時間はもう登校時間に近くなっていた。
「やべぇ!朝早く起きた分、のんびりしすぎちまった。このままだと遅刻するぞ。」
緋色君は慌ててその場から立ち上がった。
「急がないとだね。」
そして僕はクローゼットの中にあるとんがり帽子を被り、杖を背中に携えて身支度を手短に完了させた。
一方で緋色君も物凄い速さでパジャマを脱ぎ、一気に制服を身に纏った。
そして準備を終えた僕らは、すぐに玄関まで向かって靴を履いた。
「行くぞー!」
緋色君の掛け声と共にドアが思い切り開かれた。僕らはそこから、学院を目指して勢いよく駆け出すのだった。
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