第6話 おはよう
「もう、そんな所で寝てたら風邪引いちゃうよ?」
ソファが軋む音、自分の体に何か少し重い物が乗っかっているような…。
「…ん?」
目を開くとそこには僕の体の上に跨るアルテミアさんがいた、なんでこんな事に?!
「ほらほら、起きた起きた〜。」
その体制のまま僕を揺らすアルテミアさん。このままだと密着している僕がどうかなってしまいそうだ。
「ちょ、先生 なんで僕の体の上に乗っかってるんですか!」
「いや、何やっても起きなかったからつい…ね?」
「いやいやいや。一応先生も女の子なんだからもう少しそういう所を気をつけてくださいよ!」
僕の言葉を聞いたアルテミアさんはキョトンとした顔で首を傾げた。
「…え。私が女の子?」
「そうですよ!どこからどうみても僕より歳下の女の子じゃないですか!!」
僕の言葉の中で何かが彼女に引っかかったのかその場でガクッと力が抜けて僕の方に倒れ込んできた。
「…先生?」
アルテミアさんはガシッと僕の体にしがみ付いてウルウルとした瞳でこちらを見つめてきた。
さっきよりも更に密着して彼女の長くしなやかな赤い髪の毛が体に触れる。
「私…20。」
「へ?」
「私は歳がはーたーちーなーのー!!!」
「ええぇぇぇええええええええええええ!!
!!!!!!!!」
信じられない…この幼気な瞳で無垢な外見をしておりおっとりさのあるアルテミアさんが…20。
昨日運んだ時の肌艶も正に間違いなく少女そのものですべすべのプニプニだったのに…20なのか…。
あのセクシーポーズの時に自分の事をお姉さんって言っていたのって、そういう事だったのか?!
いやよく考えてみれば少女がこんな薄暗い森の中に家を持って暮らしているなんておかしい…。
考えれば考えるほど心当たりが多かった。
「うわぁぁぁん、ずっと子供だと思われてたなんて…私が大人っぽく振る舞ってた事が全部 心に刺さってもう立ち直れないよぉ。」
僕の胸に顔を突っ伏して泣きじゃくるアルテミアさん、この体制はもう…マズいの限度を軽く超えている。
もう僕も理性が吹き飛びそうだ。
「先生…?その取り敢えずこの体制はマズいと思います、はい。」
「ふぇ…?」
一通り泣いた事で気分が晴れたのか少し落ち着いた顔になったアルテミアさんがこちらを見た。
僕はもう一度彼女に催促しようとした…その一瞬。
「先生…。一旦離れ…ふげぁ!!」
アルテミアさんは目にも止まらぬ速さで僕の顔面に拳でストレートを喰らわせて一瞬で僕の体から離れた。
「アリスタの馬鹿ァァァア!!!!変態すけべ!!!!」
恥じらう仕草で身を隠してこちらをジト目で見つめてくる彼女だが…先に僕の体に乗ってきたのはそっちだ…なのに。
なんで僕が意識が吹き飛びそうなくらいの渾身のストレートを喰らって生死の狭間を彷徨わなければならないのだろうか…。
「そんな…そんなの…あんまりすぎ……る。」
視界が歪み次第に暗くなっていく。
「えっ…ちょっと!アリスタ君? アリスタ君!!!!」
聞こえた最後の声ははアルテミアさんが僕を必死に呼びかけるものだった。
〜
「よかった、アリスタ君。」
僕が目を開くと自分がベットの上で寝ている事に気づいた。
そしてアルテミアさんがベットの横で寄り添っているのも。
「どうしたんですか?先生。」
「もしかして覚えてないの?」
「そうなんですよ、何か頭に物凄い衝撃を喰らったんですけどそれっきりで。」
僕から目を逸らしてソワソワとし始めたアルテミアさん。しばらくそんな素振りをした後に僕にまた目を合わせて話し始めた。
「アリスタ君…私が君の様子を見に行った時寝ぼけていた君がソファから物凄い勢いで落っこちて意識を失っていたんだよ。」
あれ…僕はソファから落っこちただけであんな痛みが起こるものなのか?
いや、アルテミアさんがこんなに僕の事で心配してくれたんだし細かい事はなんかどうでもいいや。
「そうだったんですか。すいませんいろいろ迷惑かけちゃって。」
「いいのよ。それより本当に目覚めてくれてよかった…。」
「先生…。」
僕を気遣ってくれた優しいアルテミアさんの方を見るとなんか…何故だか分からないが20という数字が浮かんだのだが。
何かが僕にその数字を喋らせない。
まるでその数字が呪われているかのように、次第に僕は20という数字に恐怖を覚えて身が震えた。
世の中には知らなくていい事がもあるのだろう…。
「君も起きた事だし朝ご飯にしましょうか。今日はアリスタ君が好きなものを好きなだけ食べさせてあげるからね。」
アルテミアさんはそっと僕に優しくハグをしてそう言った。その仕草がまるで僕に何かの償いの様にも思えた。