第59話 休息
あの後皮剥きをする事になった僕はその為のナイフを探してみるが、見当たらない。それはこの場所が保健室なのだから当然と言えばそうだろう。
「皮剥きが出来そうな物が見当たらないんだけど。」
僕がそう言うとフラムは当然という素振りて言葉を返してきた。
「まぁそれもそうよね。ここ保健室だし。」
そんな風に行き詰まっていた僕らの間に王城が割って入って来た。
「それならワタクシがナイフを食堂まで取りに行ってきますぞ。」
そう自ら名乗り出た王城、今回の一件を通して僕自身の彼に対するイメージが大きく変わった気がする。
前までは何かヤバそうな人って感じだったのに今では意外といい人なイメージがある。
「いいの?」
僕がそう問いかけると王城は自分の左胸をトンと叩いて答えた。
「勿論、紳士たるもの人が困っている時に手を差し伸べるものですぞ。」
僕自身彼に紳士というイメージを持った事は無いが本人が言うのならそうなんだろう。そんな彼に僕は言った。
「それじゃ、よろしくお願いします。」
僕がそう言い終えると同時に王城は物凄い速さで出て行った。何という使命感だろう。彼の行動速度の速さに思わず感心してしまいそうになっていると、フラムが近くに来いという素振りを見せて来た。
仕方ないので僕はリンゴをまた籠に入れて側に行って彼女が居るベットに腰掛けた。
「ねぇ、今回色々あったじゃない。それで少しだけ気になった事があるのよね。」
僕の近くに寄って小声で話しかけてきたフラム。その囁きに僕は言葉を返した。
「何が気になったの?」
僕がそう問いかけるとフラムは眉を顰めて話を続けた。
「あのオルサーとかいう男は何を研究していたのかについてよ。自分の娘を犠牲にしてまで成し遂げたい事って何だったのか、気にならない?」
彼女の言う通り確かに今思えばオルサーが言っていた事が色々と気になってきた。
「確かにそうだね。今思い返せばオルサーは明らかに異常だったけど僕に対して色々言っていた気がする。確か全ての理想には対価が伴う?だっけ。」
僕がそう言い終えるとフラムは首を傾げて頬杖をしながら呟いた。
「理想の対価…ねぇ。何か意味がありそうな物だけどあんまりにも抽象的で分からないわ。やっぱり
彼女がオルサーの言葉を省略したが多分そんなに本質的な違いは無い気がする。
それに彼は今の魔法がどうとか言っていたから、そこら辺を比喩しているのかもしれない。
その時に少しの閃きが脳裏を過った。
もしそれが僕らの使う紋章魔法に関わる事だとしたら…歪みが入り口だとか本物の魔法がどうだとか何か色々な物が線になって僕の中で繋がった。
「それって…。」
僕がその頭に浮かんだ事を言おうとした時にドアが勢いよく開いて緋色君とマリアが一緒に戻ってきた。
「戻ったぜ〜。いやースッキリした。」
緋色君がそうわざとらしく言ってから椅子に腰掛けた。一方でマリアはすぐにベットの中まで移動して布団の中に包まっている。
「遅かったじゃない。お腹大丈夫?」
フラムは今さっきの話を一旦中断してトイレから戻ってきた緋色君にそう言った。
「大丈夫大丈夫。大した事は無いって。それよりも王城はどうしたんだよ?」
そう軽い口調で言った緋色君、それに対してフラムは簡単に答えた。
「王城は皮剥き用のナイフを取りに食堂まで行ったわ。」
それを聞いた緋色君は籠を漁って帰りに買ったミカンを取り出した。
「なるほどな。じゃあ先にミカンでも食べるとしますか。」
オレンジ色のミカンの皮を剥いてそれを摘んで食べる緋色君。
お見舞いの品を持ってきた本人が食べていいのか?なんて思ったけどそこにお見舞いの気持ちがあればいいのだろう。多分。
そんな自由奔放な緋色君を見ながらフラムは言った。
「ミカンもあったんだ。その籠を外から見る分には気付けないものね。」
「まぁな。フラムも食うか?」
緋色君とフラムが別の話を始めてしまったので
僕は置き去りにされてしまった。
なので僕はマリアのベットのある所まで移動して彼女に話しかけた。
多分一番辛いのは彼女に違いないと思ったからだ。それが最低最悪な外道だとしても父親を失う事になったのだから…それに僕が最後手を下したと言っても過言ではない。だから僕は彼女を心配する。
「意識が戻ったみたいで良かった。」
僕がそう声をかけるとマリアは布団の中で頭を下げて答えた。
「はい…。その色々迷惑かけてごめんなさい。」
「別にいいんだよ。それよりも僕はマリアが心配だよ。どんな形であれ自分の父親を亡くしてしまったのは事実だし。」
僕がそう言うとマリアは少し時間をあけてから話し始めた。
「それはもういいんです。確かに血縁上では父親かもしれないけど…私にとってあんなのは父親じゃありません。だから心配しないでください。」
少し寂しい気持ちになった。確かに外道には違い無かったがここまで言い切られるのは少し可哀想に思える。
だけど同時に安心した。この様子なら彼女は助けを必要となんてしないだろうし、僕が助けなくても大丈夫だから。
「なら良かった。体の調子はどう?」
僕はそう問いかける。するとマリアはさっきよりも明るい声で返してきた。
「元気満々です。だから大丈夫。」
軽くサムズアップしてみせるマリア。彼女はその儚げな姿に反して内に強くて真っ直ぐな心を持っているんだなと思った。
本当に今回の一件は色々な物の見方がガラリと変わった気がする。フラムはあんまり変わらないまんまだったけど。
「戻りましたぞ。」
ドアが開いて王城が戻ってきた。それと一緒にルイ先生も入ってきた。
そしてルイ先生はこの場に集まる僕らに向けて疲れた表情でこう言った。
「まぁ〜何というかそのだな。取り敢えずもう夜だからここで寝るか帰って寝た方がいいんじゃないかと思うよ。」
「「はーい。」」
僕らは皆そう言葉を返して一旦その場から解散する事になった。その後に僕はフラムと話していた時の閃きが何だったのか思い出せないまま、帰路に着いた。
最後までお読み頂きありがとうございます。
次回でとうとう60話。ここまで来れたのは読者様のおかげです。本当にありがとうございます。