第56話 品定め
「まさかあの有名なアルテミア様だとは!それに後ろの方々が、まさかその弟子だったなんて存じ上げておりませんでした。そんな皆様へ大変なご無礼を働いた事をお許し下さい。」
職員の人はアルテミアさんを一目見た瞬間に慌ててすっ飛び上がりながらそう言った。
少し前までポンコツっぷりを全開していたから忘れていたけれど、彼女は紛れもない高名な魔法使いなのだ。
「そんな小さな事は気にしなくていいから。それで外出許可は降りるのかな?」
「今すぐに申請して参ります!!」
アルテミアさんがそう尋ねると、職員の人はすぐに答えて奥の方へ足早に言ってしまった。
「俺はアルテミアちゃんの弟子になったつもりなんて無いんだけどな。」
隣で緋色君がそう呟いた。確かに緋色君や王城は弟子になった訳じゃない。だが今回は外に出る為に弟子だと偽る事にしたのだ。
そんなこんなでアルテミアさんが職員とやり取りしてくれたおかげで、無事外出許可を貰った僕らは早速お見舞いの品を探しに街へと向かったのだった。
〜
そこは様々なジャンルの店舗が連なっており、例えるなら商店街の様な場所だろう。
その店に並べられた珍しい品の数々を追いかけているうちに、少し僕は楽しくなってきた。
どうやって瓶の中に船を入れたのか分からない小さなボトルシップ。緻密なデザインで技術力の結晶とも呼べるだろう懐中時計。
それに僕が今被っているとんがり帽子とはまた別な帽子だったり、色彩豊かな服だったりと。
色々な物が沢山あるので、この中から何を買えばいいのか悩む所である。
「街に来れたのはいいんだけど実際の所お見舞いに何を買おうか。」
僕がそう皆に聞いてみると緋色君がすぐに答えを返してきた。
「それなら果物とかでいいんじゃねぇか?」
「賛成ですぞ。無難だし受け取った側も嬉しいだろうし、美味しいから問題ありませぬ。」
二人はそんな事を言っている。確かにお見舞いだし変に拘った物よりも、無難な物を持っていくのがいいのだろう。
そう思って僕も頷くと後ろから、アルテミアさんが僕らの話に割って入ってきた。
「いいんじゃない?きっと貰った人も喜ぶと思う。それとお花もセットなら更にいいかも。」
そう笑みを浮かべながら言ったアルテミアさん。確かに果物だけじゃ何か足りない気もしていたからナイスアイディアだと思う。
僕はアルテミアさんに言葉を返した。
「花ですか。確かにお見舞いらしいしアリかも知れませんね。」
「でしょ?」
アルテミアさんは自信ありげにそう答えた。その様子は見た目相応の物で、なんだか微笑ましい。
そんな感じで僕らが話しているとデカデカと看板に「なんでも屋」と書かれた店を発見した。
「お、いい感じの店なんじゃないか?なんか外には花も飾ってあるし、奥に果物もあるかもな。行ってみようぜ。」
花といってもなんか毒々しい見た目の物だったり食虫植物的な花だったり。なんだか色々と怪しい品々が並べられている。
見るからに怪しい。というか怪しくない訳ない。怪しさの塊といっても過言で無い位に怪しい。チラッと見えた店の店員も、レインボーアフロでグラサンをしており限り無く怪しい。
自分の中で怪しいという言葉が暴走してしまうほどこの店は怪しい。
「なんかこのお店見るからに怪しいよ。他のお店探した方がいいって。」
僕がそう言うと緋色君はすっとぼけた様な声で返してきた。
「えー、そうか?王城。お前どうよ。」
そして華麗に王城に話をパス。受け取った王城は大変悩ましく眉尻を下げ首を傾げながら答えた。
「むむむ…?なんでも屋。ネーミングが直球すぎてますます怪しくありませぬか?」
珍しく僕と意見が合致した王城。そのリアクションが意外だったのか緋色君はその場で悩み始めた。
そんな感じで議論が停滞しかけたその瞬間、僕の背後から顔を出したアルテミアさんが皆に向けて話し始めた。
「いやいや、名前だけだと意外と分からない物だよ。そこの緋色君の言う通り取り敢えず中に入ってみてもいいんじゃないかな?」
僕の師は意外と鈍感だった。この見るからに怪しい場所への抵抗感が皆無だ。なんかこの人の普段の様子とか心配になってきた。
アルテミアさんは仕事であっちに居る時に、変な人に騙されたりしていないだろうか。弟子ながら凄く不安である。
〜
だがそんな不安も意味は無く。結局成り行きで皆で中に入る事になったのだった。
中はやけに広い上、なんだか薄暗い。それに変な匂いのお香が焚かれており鼻がツーンとした。更に置かれている物はどれもガラクタというか珍妙な品ばかり。
音のなる鳥を模した人形だったり、何に使うのか分からない様なコスプレグッズだったり、やけに安い名前も知らないお菓子が置かれていたりと。
雰囲気だけで無く実際に置かれている物と何とも怪しい場所だ。
「あのー、店員さん。果物って置いてありますか?」
「おぁ。これはこれはこれはぁ。久々のお客様ではぁ。ありませんかぁ。当店はなんでも屋でございますぁ。当然置いてありますぁ。ご案内しますよぁ。」
何だが語尾が間延びした感じに喋るレインボーアフロの店員。サングラスをクイっと上げる素振りも凄く胡散臭い。
「すんません、助かります。」
そう軽く会釈しながら言って、緋色君は奥の方へと足早に進んで行ってしまった。
「ちょっと、私を置いていかないでくれ〜!」
アルテミアさんも緋色君の背中を追いかけて奥へと進んで行ってしまった。こんな簡単に着いていってしまう姿を見せられた僕は凄く心配な気分になった。
残されたのは僕と王城。確かに今回の一件は余りにも怪しい。ただ緋色君達が奥に行ってしまったから追いかけ無いと、見失ってしまうだろう。
「一応警戒するに越した事は無いよね。」
僕がそう言うと、王城は頭を縦に振り答えた。
「そうですな。何があってもいい様に、一応デコイを一体配置しておきますぞ。」
その言葉の後にスッと現れた特徴の無い顔を持つデコイ。僕も杖を手の取りやすい場所に移動させ気を引き締める。
「助かるよ王城。じゃあ行こうか。」
「あ"あ"あ"あ"〜〜〜〜。」
僕らが移動を始めようとしたその時。アルテミアさんの声と思わしき、何か聞いてはいけない様な声が聞こえた。
「事態は思ったよりも深刻ですな。急ぎましょうぞアリスタ殿。」
その王城の声を合図に僕らは急いで後から追いかけて行った。
そして奇妙な品々を掻き分けた先に、妙な椅子に座ったままブルブルと震えるアルテミアさんの姿が見えた。
心なしか表情も気が抜けた物に見える。何か怪しい魔法か何かをされたんじゃ無いかと思って僕の中で不安が爆発した。
急いで気の抜けたアルテミアさんの方へ駆け寄り肩を揺すりながら僕は語りかけた。
「アルテミアさん!しっかりしてください。そんな変な椅子に惑わされちゃダメだ!」
僕がそう必死に呼びかけるとアルテミアさんはリモコンらしき物で椅子の振動を停止させて、こちらに目線を合わせた。
「へ…?アリスタ君、これは変な椅子じゃ無いよ。これはマッサージチェアと言っても体の疲れを取ったりする優れ物さ。少し展示されていた物を使用させて貰っていたんだ。」
その言葉通りなら僕の思いすぎだ。だが一応確認の為にアルテミアさんに問いかける。
「マッサージチェア…。別に変でも怪しくも無いんですか?」
すると彼女は首を横に振りながら答えた。
「無い無い、全然無いよ。」
そんなやり取りをした後、少しガッカリした様な雰囲気の王城が話に入ってきた。
「それで緋色殿はどこですぞ?」
「それならこの先にいるはずだよ。選んでる間私は暇だから、ここでこうやって日々の疲れを癒していたという訳さ。」
指差したのはこの椅子がドカドカ置かれている場所よりも更に奥みたいだ。
しっかしアルテミアさんの危機感が足りない気がする…。いや、あの王城と意見が合致してしまうくらいだ。もしかしたら考えすぎっだったのかもしれない。
「私はしばらくここにいるから、緋色君と一緒に選んでくるといい。」
「分かりました。リラックスしているのを邪魔してすいませんでした。」
そう謝るとアルテミアさんはそんな僕の視線まで体制を下げて、頭から帽子を取って撫でてくれた。
「いいんだよ。あれでアリスタ君がどれだけ私の事を心配してくれてるか分かったから、嬉しかった。ありがとう。」
やっぱり師には敵わない。照れ臭くなって目線を下げてしまった。僕が好きなのはこういうさりげない優しさのある所なのかもしれない。
「その、恥ずかしいです。」
そのままずっとニコニコしながら撫で続けられて気分は良いものの、何だが凄く恥ずかしくなってしまった。
多分今の僕の顔は真っ赤に違いない、そうやってなでなでを堪能している僕の方に王城から呆れた様な声をかけられた。
「もしも〜しアリスタ殿。惚けてるのはいいですが、我々も選ぶのに時間がかかるだろうから早めに行動した方が良いと思いますぞ。」
「そそそ、そうだよね。アルテミアさん僕行きます!」
「いってらっしゃい。」
語彙力が崩壊していた気がしたが、王城の出した助け舟に乗っかって僕はなでなでから急いで脱出した。
気分は凄く良いし、決して悪い物じゃないけれど。あのままいたら僕は恥ずかしさでパンクしていたかもしれない。危なかった。
そしてアルテミアさんのなでなでをたっぷり味わった僕は、緋色君のいる奥へと進んで行くのであった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
少しでも楽しんで頂けたなら嬉しいです。
なるべく更新出来る様に頑張っていきたいです。