第55話 知るのは屑のみ
Cランクとして扱われていた何の変哲もない自分の弟子と、その仲間達があれほどまでに強力な魔法使いと戦う事になってしまった今回。
その原因は同じくCランクに属するマリアという一人の生徒。彼女の父親に当たる存在がオルサー、この男が自分の娘の体内にある神の因子だとかいう物を研究する為に誘拐した。
それが全て事実であるから分からない。問題なのはこの学院という存在がありながらこんな状況になるまで、この魔鉱山に関する事が放置されていたのかこれである。
アルテミアは自身の知っている物と、弟子から聞いた少ない情報の両方を頭の中でまとめながら、ダストのいる校長室へ向かった。
「ご苦労。」
椅子に座ったダストはそう告げた。その後にアルテミアは以下の内容をダストへ伝えた。
「今回の一件ですが、魔鉱山は本来の魔石を取る役目を果たしておらず、オルサーという男によって支配下に置かれていました。そこで人体実験の痕跡及び非人道的実験の数々が残されていたのです。それにこの学院でCランクとして扱われていたマリアの事ですが…。」
アルテミアは話を続けようとしたが、ダストは顔色を変えてその話を静止した。
「もう結構だ、お主もこの件に余り深入りしない方が身の為だ。何も脅迫として言った訳ではない、これは助言だ。」
その言葉を聞いたアルテミアはある種の確信を得た。この一件は学院内でも想定の出来なかった事案である事、それとオルサーという男が何らかの形で学院に関与している事の二つだ。
「お気遣いありがとうございます。私は引き続き例の歪みの対応に当たる事にします。」
だがアルテミアは介入しない。彼女の仕事は謎を暴く事などでは無いからだ。無力な人々が魔物に襲われない様に戦う事が彼女の仕事。
それが魔法使いアルテミア ローレンス。
〜
「ですから〜。貴方達に外出許可は出せませんって。」
職員は顔を悩ませながら僕らにそう言った、どうやら今回の件に関わった生徒である僕らは更なる問題に巻き込まれる可能性を考慮され外出許可が降りないのだ。
「そこの所どうにかしてだされ!」
王城がそう言うものの、職員は首を横に振ったままである。だがその熱意に押されたのか少し戸惑いながらも職員は言葉を返した。
「分かりましたよ。勿論、今の状態では無理ですが。貴方達の教師との同伴なら認める事にしますしょう。」
そう言われた僕らは一度門の前から離れた。
「って言われてもなぁ。面倒毎を嫌うであろうルイ先生は認める気がしないし。どうすりゃいいんだよ。」
緋色がそう言った瞬間、僕の肩がトントンと、叩かれた。振り向くとそこにはアルテミアさんが興味満々という表情でこちらをジーッと見つめていた。
「あ、アルテミアさん?」
「何かトラブルでもあったのかい?こんな所で立ち往生なんてしてさ。」
顔が更に近くに寄って僕の顔とぶつかるんじゃないのかというレベルにまでなった。
少し戸惑って答えを返そうにも、その赤い髪から漂う甘い匂いに酔ってしまい頭の中がクラクラしてきた。
「その小さき者は一体誰ですぞ?」
王城もアルテミアさんの様子に気付いたのか振り向いて不思議そうな顔で僕に問いかけてきたのだが、僕の前に割り込んでその質問にアルテミアさんが答える。
「小さき者とは失礼な。私はアリスタ君の師でありながら、大人っぽい色気溢れる高名な魔法使いのアルテミアという名の者だ。」
無い胸を張るアルテミアさん。僕は体付きに何かを言及する様なタイプでは無い。だがそれでも大人っぽいはまだしも、色気溢れるは無理がある気がする。
例えるなら純粋無垢、天真爛漫、みたいな言葉で呼んだ方がしっくりする気がする。
「へー名前はアルテミアちゃんっていうのか。これはこれは、可愛いじゃないか。」
緋色君もその様子を見ていたのかアルテミアさんの方を微笑ましそうに見てから、そっと頭を撫でてそう言った。
その二人のは態度が気に食わなかたのかアルテミアさんは頬をぷくーっと膨らませた。
自分の師にこんな事を思うのは変かも知れないがその姿はとても可愛い。
「もーうー!覚えてないかも知れないけど貴方達を助けたのは私なんだから!失礼な態度を慎みなさーい!」
よく考えたら魔鉱山からアルテミアさんが回復魔法を掛けてすぐ撤収した後、保健室にて彼らは目覚めた訳であって、知らないのも無理はないのかも知れない。
「まさか俺らに回復魔法を掛けてくれた魔法使いがアルテミア様だとは知りませんでした。そんな命の恩人であるアルテミア様に大変失礼な態度を取って本当に申し訳無かった。」
緋色君はそう言いながら紳士の様にアルテミアさんの目の前で丁寧なお辞儀をした。
「まぁ、礼儀正しいのね。」
アルテミアさんは意外と嬉しそうだが、僕から見ると流石に大げさ過ぎて悪ノリな気がする。
そして緋色君は顔をあげてアルテミアさんの方へ近づいて体を下げ、目線を合わせた。
「俺が礼儀正しくなるのは何も全員ではありません。貴方の様な可憐で美しく、大人で色気のある女性のみです。」
緋色君は片目を閉じてウィンクをして表情崩さずにそう言い切った。僕の隣にいる王城は必死に笑いを堪えようと口を塞いでいる。
僕も正直ふざけすぎてていつ怒られてもおかしくは無いと思っていたのだが、アルテミアさんはパーっとした太陽の様な笑みを浮かべた。
「えへへ〜。やっぱり分かっちゃう?」
大丈夫か?僕の師よ。少しというか、かなり遊ばれてますよ。というか間違いなく、最初に緋色君からちゃん呼びされた事が頭から抜け落ちてる。
これを教えた方がいいのか、それとも黙っている方のがアルテミアさんにとって幸せなのか。
悩みどころなのだがこの綺麗な笑顔を奪うくらいならば、いっそのこと言わない方がいい気がしてきた。
「あー、緋色殿?結局どうするんですぞ?」
王城が思い出した様に緋色君へ問いかけた。
「どうしようかね。あー。困ったなぁ。困った困った。」
緋色君は腑抜けた声でそう言った。
そんな時、アルテミアさんは興味津々という顔振りでこっちを見つめてきた。
「僕ら外出許可が取れなくて困ってるんです。なんでも教師と同伴じゃ無いとダメだとか。」
僕がそういうとアルテミアさんは僕ら全員に向けてこう言った。
「なら私に任せなさい。一応これでも高名な魔法使いだからそのくらい簡単に突破できるさ。」
一体どんな手段を使って突破するのかは知らないが、その様子は自信満々だ。
「ありがとうございます。」
僕がそう言うと、緋色君と王城の二人は勢い良く頭を下げて続けて言った。
「「ありがとうございます!アルテミアお姉様!!」」
この二人は最後までふざけてばっかりなのだが、アルテミアさんはそれに全く気付かない。
むしろ凄く嬉しそうなので僕の気持ちは何とも言えない物になった。ただ、一つ言うのならその笑顔はとても可愛いという事だけだった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
完結出来る様に頑張ります。