第54話 お見舞い
あれからアルテミアさんが皆に回復魔法を使って傷を完治させた後、僕らは転移魔法を使って学院に戻った。
学院に戻ってからアルテミアさんは、今回の魔鉱山で起こっていた事やこれまでの歪みの対応で色々とダスト校長に話があるらしく、一時的に僕らと別れた。
僕らの元にもう一度戻って来ると言っていたけれど、その後また今対応している巨大な歪みの発生地に戻るらしい。
今、この保健室にいるのは僕、フラム、マリア、緋色君、霧ヶ谷、王城の六人。マリアはアルテミアさんが回復魔法を使った今も目を覚まさず、ベットで寝たきりのままだ。戻ってからルイ先生が改めて回復魔法を掛けたものの容態は変わらなかった。
他の皆は大体元気になったけれど、霧ヶ谷とフラムはまだ体が完全に動く訳では無く、ベットで横たわっている。
その時に皆の様子を見てくれたルイ先生曰く『回復魔法といえど急激に身体の傷を癒しているから、まだ動かしたりするのに慣れていない。こればかりは時間で解決するしかないんだよね。』だとか。
つまり今の所身体を動かせるのは僕と緋色君、そして王城である。そんな男三人組は廊下にて今回の件をぐだぐだと話していた。
「まぁ、何であれマリアは助かったし。俺らも怪我こそしたものの死にはしなかったから結果オーライって感じだな。」
緋色君はそう軽々しく語るが、オルサーの最期まで見てしまった僕には色々と衝撃的な物だった。そういう意味ではそこを知らない緋色君は幸せなのかもしれない。
僕が話を聞いてそんな事を考えていると王城が頭をブンブンと上下に降って相槌を打った。
「そうかもしれませんな!しっかし改めて考えてみると本当に手強い相手でしたな。あの男の名前は一体何だったのでしょう?」
オルサーは先に僕とフラムが戦っていた時だけ自分の名を明かしたので、それ以外では一切自分の名前を出す事は無かった。
よく考えると後から来た緋色君や王城はオルサーの名前を知らないのだ。今更知った所で意味は無いのだが、王城が気にしてるという事なので教えようと思った僕は口を開いた。
「あの男の名前はオルサーだったよ。僕とフラムで先に戦っている時に自分から名前を言ってたんだ。」
僕がそういうと緋色君は薄いリアクション。王城君は何がに気がついたのか絶妙な表情を浮かべてこう言った。
「オルサー、ですか。入れ替えるとオサルー、お猿さんですな!はっはっは。」
王城は自分で言ったギャグで大笑いした。
「ぷっ…。」
そんな王城の渾身のギャグ(?)を聞いて僕もつられて吹き出してしまった。くだらないと言えばそこまでだが、そのくだらなさがツボに入ったのだ。
そんな僕と王城反して緋色君は呆れた表情のまま言葉を返した。
「ったく、何を言い出すかと思えば。しょーもねぇなぁ。」
だがそんな風に言ってる割には口元が上を向き始めている、これは間違いなく時間差でツボに入ったに違いない。
「そんな事言ってる癖に緋色殿も顔が笑っていますぞ!」
憎ったらしい顔で指を差しながら指摘する王城。それに対して緋色君は拳を握りしめて天高く振り上げた。
「うるせー!」
ボコッ、そんな音が聞こえそうな勢いで王城の
頭を叩いた緋色君だがその表情は笑みに満ち溢れていた。
「うひー!」
変な声を上げながらも恍惚とした笑みを浮かべて喜ぶ王城、この二人はなんやかんや言って意外と仲がいいのかもしれない。
改めて今回の一件により、このくだらないやり取りが出来るって事がこんなに幸せな物だという事をしみじみと僕は思った。
「あー。話は変わるんだが。まだマリアやフラムと霧ヶ谷の三人は療養中だろ?そこで我々三人で外に行って、何か買ってお見舞いするってのはどうだろうか。」
王城君をひとしきり殴り終えた緋色君はスッキリとした表情でそう僕らに言った。
「お見舞いはありだね。でも僕らが居なくなったらなんか問題になったりしない?」
緋色君の提案は素晴らしい物だと思う。しかし今回の件はなんだか僕らの思っているよりも遥かに大きな物だった気がするのだ。
オルサーの作った歪みを発生させる装置やら、融合思念体など、余りにも闇が深い物を見てしまったと僕は考えている。
仮に僕らに問題が無かろうとも、その一件に関わったというだけで、学院から心配されていてもおかしくは無いのだ。
「それならば外出許可を取ればいいだけですぞ。学院側に我々がどこへ向かうのかを教えれば問題などありませぬ!」
王城は満面の笑みでこちらに指をグッジョブさせてそう言った。彼の言う外出許可が果たして取れるかは疑問だが、それをクリア出来るなら僕の考えている問題点は無いに等しい。
「それなら大丈夫そうだね。」
僕は王城と緋色君に向けて頷いた。すると緋色君は手をポンと叩き体の方向を一気に外へ向かう方に変えた。
「よーし、これで全員の考えが纏まった訳だ。
早速外出許可とやらを取りに行こうぜ!」
そして僕らは外出許可を取る為、校門の近くにいる職員の元まで向かうのであった。
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