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魔法使いの行方  作者: 腐れミカン
魔鉱山編
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第52話 その身は堕ちた




「…君が誰だか知らないが、私の邪魔をするのなら始末させてもらう!」


アルテミアさんが鎖で縛っていて身動きが取れないオルサーだが、また魔法を練り上げて水の竜を出現させてこちらへ攻撃を仕掛けてきた。


だがその竜はアルテミアさんの目のに現れた鎖に阻まれ一瞬で崩れ落ち、元の水に戻ってしまった。


オルサーは唖然とした表情で彼女を見据えた。


「私の弟子をここまで傷つけた報いは受けてもらわないとね。」


笑みを浮かべオルサーにそう返したアルテミアさん。声色は優しい物だがその瞳は全く笑っていない。


オルサーは息を呑み、こちらから目を逸らした。そしてその体が水の様に変化して鎖をすり抜けで地面に零れ落ちた。


そして地面に着いたオルサーはその身を地面へと染み込ませて目の前から完全に消えた。


しかしアルテミアさんはその様子を見て咄嗟に大量の紋章を展開し、その地面に向けて鎖を打ち込んだ。


「掴んだ。」


その声と共に引き出された何本かの鎖に刺さった実体のオルサーがいた。


だがその状況下で目の前のオルサーは不敵な笑みを浮かべたのと同時に体が崩れ落ちて水に身を変えた。王城君の使うデコイの様な偽物なのか?それとも本体か。


それを考えていると僕とアルテミアさんの背後に気配を感じた。僕は振り向く事が出来ないのでその姿こそ見えないが、オルサーが居る…そんな感じがする。


「私がここまで惨めな程逃げに徹したのは今回が初めてだ。」


声、それはオルサーのもの。先ほどアルテミアさんに打ち砕かれた筈の余裕がそこには含まれていた。


僕の目の前にいるアルテミアさんはオルサーに返事をする事などなく振り向き紋章を展開し続け鎖を無数に打ち出す。


「そのまま攻撃をすれば近くにいるお嬢さんも無事では済まないよ?」


オルサーのそのセリフと共にアルテミアさんの攻撃が止まる。実際の所、今人質に取られたのは誰だろうか。僕がいる場所の後ろだとするならば、それは入り口付近。


入り口付近で倒れていたのはフラムだ、間違いない。それが今、彼女が今オルサーに人質として扱われている状況だ。果たしてアルテミアさんはどうするのだろうか。


そうだというのに、アルテミアさんはその答えに笑みを浮かべて口を開いた。


「私、鎖以外の魔法も使えるの。今度戦う時には覚えておいてね。もっとも今度なんて無いでしょうけどね。」


その声と共に何かが溶ける様な音がした。最もその状況は見ていないのだが、その後すぐ何かがベシャリと地面に張り付く感じの音もした。


それと同時にアルテミアさんの鎖が無数に放たれてフラムと緋色君、王城に霧ヶ谷の体を回収し僕の近くにそっと置いた。


「私の腕が…。」


困惑を含む声でそう口に出したオルサー。その真意は分からない。今、僕が動けないのは相当な幸運なのかもしれない。


目の前にいるアルテミアさんは僕が見た事のない程冷たい瞳を向けているからだ。勿論僕が彼女に殺されそうとか、そういう訳じゃない。


だけどその瞳を見ていると怖いんだ。僕の知っている彼女なら絶対にしない様なその瞳が。


そしてアルテミアさんは問いかけた。


「貴方は人である事の定義が何か分かる?」


その問いに少し間が空いてからオルサーの答えが返ってきた。


「…人である事の定義は、自分の内側に秘めた知的探究心と純粋な好奇心を追い求める事だろう?」


その答えを聞いたアルテミアさんの表情は先ほどよりも更に暗く失望した様な物に変わった。


「確かにその答えは間違ってはいないわ。けれどそれを追い求める為なら誰かを犠牲にしていい訳では無いの。アリスタ君やそのお友達をここまで痛め付けるのに罪悪感がなかったのかい?」


呆れ、諦め。様々なものが含まれたその声と共にまた何個もの紋章がオルサーの方へ展開された。


「そんなものに価値があると思うのか?その罪悪感とやらは好奇心を満たす為の枷にしか思えないが。」


オルサーの声色には驚きが含まれている。それを聞いたアルテミアさんは心底残念そうに口を開いた。


「私が思う人の定義は繋がりを持って助け合いながら生きていく事。貴方のそれは都合の良い言葉で自分を正当化したものにしか思えない。」


その手を上に掲げ展開された幾つもの紋章。


「もう私とお喋りする意味は無い…と言った所かな?」


オルサーは言葉を聞き終えた後にそう静かに言った。


そしてオルサーに向けて紋章から鎖では無く、無数の炎が放たれていく。それと同時に周りに轟音が鳴り響く。近くにいる僕はその炎の暑さを肌で感じながら、ただ状況の変化を見届ける。


「いつから気付いていた?」


炎が放たれて着弾した音が聞こえたのと同時にオルサーはこの戦いの中で一度も聞いた事の無い恐怖に満ちている声色でそう言った。


その言葉を聞き終えたアルテミアさんは落ち着いた表情で淡々と語る。


「最初に鎖で縛った時から貴方が人間では無い事は分かっていたわ。だから人の定義を問いかけたの。答えに人間性があれば人間で無くなったとしても『人』として扱って倒さないであげたけど…。貴方は心を好奇心に囚われていた。自らの身体を、魔物に変えてしまう程にどうしようもないもの。救えないわね。」


アルテミアさんの話の中にあったオルサーが魔物だという言葉に驚きを隠せない。実際に戦った僕の目には水を使う魔法使いにしか思えなかったから余計に。


「だが、それが分かった所でどうする。私を倒そうにも攻撃が当たら無ければ意味は無い。」


震えた声でオルサーがそう言うとアルテミアさんは淡々と答えた。


「貴方の身体を起点とした全方位から隙間無く攻撃すれば避けようは無いけれどね。」


その言葉と共に大量に展開された紋章、緑色の光が周りを包み込みながら、その中から現れた無数の炎はオルサーの方へ放たれた。


「ヴワァァァァアアアアアアア!!!」


それと合わせて聞こえるオルサーの叫び、水が蒸発する様な音、何が起こっているのかは分からない。ただ分かるのはアルテミアさんがオルサーを圧倒しているという事だけ。


アルテミアさんは気分が悪そうに吐き捨てた。


「これだけは何度やっても慣れないな。」


その声と共に紋章は一斉に閉じられる、そしてアルテミアさんはオルサーの方から目を逸らし僕に焦点を合わせた。


「少し時間をかけてしまったね。今からちゃんと回復魔法で君の身体の傷を治すから。」


そう言ってからアルテミアさんは僕の身体に触れて紋章を一つ書き上げた。それと同時に体にあった傷は癒えてゆく。


手を握ったり閉じたりして、自分の身体が正常に動く事を確認した。その後に僕はアルテミアさんにちゃんとお礼を伝えようと思って口を開こうとした…

その時、妙に耳障りな音と共に肉が千切れる様な音が聞こえた。その音の方を見ると全身が黒焦げになっているオルサーが、その身を脱皮する様に脱ぎ捨てた。


そして中から現れたソレはオルサーと見た目が然程変わらない。だがその身体には無数の目玉があり、アルテミアさんの方を睨んでいた。


そしてオルサーは自身の黒焦げの残骸を潰して、嬉々とした笑みを浮かべながらこう言った。


「これが神の因子…。」

最後までお読みいただきありがとうございます。


今日は何とか上げられましたが、次回は恐らく明後日になると思われます。


何とか時間を作って投稿出来るように頑張ります。

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