第51話 再会
オルサーが指を鳴らしたのを合図に、三体の水の竜は僕に目掛けて襲いかかってきた。それを見て必死に体を右に捻る。
「グッ…。」
最初の一体の攻撃は躱す事が出来たのだが、続く二体の攻撃が僕の頬を掠め、腿を抉った。
それでも僕は傷を抑えながらオルサーに一撃でも当てる為、前へと必死に走り続ける。
「まだ竜の攻撃は終わっていないよ。」
そう僕に告げるのと同時に背後から切り裂かれる様な痛みが走った。振り向いて剣を振るい攻撃を受け流そうとするが、間に合わない。
「うわぁぁあ!!」
三体の竜の攻撃が直撃した僕の体は宙に浮き、勢いよく地面へと叩きつけられた。
状況を把握する為に上を向けば、そこには僕を直接仕留めようとするオルサーの姿があった。
「まずは一発。」
その呟きと共に竜は形を崩してオルサーの手に纏わり水の拳に変化した。そしてその拳で僕は腹部に向かって殴りかかられる。
「やらせない!」
僕が咄嗟に剣を滑り込ませその拳を防ごうとする。だがオルサーはそれを分かっていた様にその剣を避けて重い一撃を腹部に叩き込んできた。
「ゔぇ…。」
肺が潰れそうな重さと気持ち悪さが同時に襲いかかる。攻撃を逃れようとするがオルサーに四肢を押さえられいて動く事が出来ない。
「もう一発。」
このままだと肉体的にも精神的にも不味い。そう思った僕は剣を離して、自由になった指で紋章を描く。
思い浮かべるのは動きが自由自在の眩い光線、狙うのはオルサーの背中、そのイメージを具現化する為に僕は呟いた。
「…ライトニング・レイ」
光線が紋章から現れてすぐに曲がり、オルサーの背中へと向かって行くのが見える。
「…ッ!?」
僕の攻撃を予知したのか、オルサーは水の拳を解除して竜に戻しながら僕の元から離れて距離を取った。
そして向かってくる光線に向かって水の竜で攻撃して相殺した。
「ぜぇ…。はぁ…。」
束の間の休息に僕は荒い息を整えた。そしてボロボロになった体をヤケになりながら起き上がらせて剣を拾う。
「あの攻撃には驚かされたよ。でも今度の攻撃も同じように避けれるかな?」
立ち上がるのにやっとで動けない僕の方へ一斉に向かってきた三体の水の竜。距離を取った所にいるオルサーは不敵な笑みを浮かべた。
「うぉぉぉおおお!!!」
僕は力一杯に握りしめた剣で叩き斬ろうとするが、水の竜は今日にその攻撃を掻い潜り腹と肩、そして足を抉り取っていった。
「痛…。」
その場に体制を崩して倒れてしまった僕は必死に起きあがろうと試みるが、追撃で襲いかかってきた水の竜に阻まれた。
そして地面に這いつくばる体を必死に動かそうとする僕に向かってオルサーは告げる。
「そろそろ幕引きと行こうか。」
その言葉と共に水の竜をこちらへ向けるオルサー、防ごうとしても先程の様に未来を見られて避けられるかもしれない。
だけど少しでも足掻く為に僕は咄嗟に指でオルサーの方へ紋章を描き、そして唱える。
「ライトニング!」
緑色の光と共に現れた極太の白く眩い光線がオルサーの方に向かって放たれた。
オルサーは僕の放った光線を避ける為に身を翻しているのだが、竜の攻撃は止まらない。
「ぐぅぅ!」
僕はその動きを一体目を見ながら剣で切り払い形を崩した竜はその場に散らばる水に身を変えた。
そして続く二体の攻撃を全力で体を捻って最小限のダメージで抑える事ができた。
「次は私の方から行かせてもらおうか。」
光線の攻撃を避け切ったオルサーは僕に向けてそう言った。そして崩れた一体目の竜を再生させてまた僕の方へ差し向けてきた。
僕もそれを迎撃する為に紋章を竜に向けて指で描き上げて対抗する。浮かべるのはこの光を纏し巨大な竜、この三体を軽く薙ぎ払える強大な力を持つ絶対的な力。
イメージは固まった、ならば後はそれを呼び出す呪文を唱えるだけ。光の竜に相応しいその名を僕は叫ぶ
「いでよ、ライトニング・ドラグーン!!」
今までの魔法とは違い、呪文を唱えた僕の体が痺れる様な感覚がある。この魔法ならダメージを与えられるかもしれない。
そして紋章から現れた巨大な光の竜は目の前から来た三体を一瞬で蒸発させてオルサーの元へと向かう。
「何という力だ…。」
オルサーは圧倒されながらも、迫り来る光の竜を眺めてそう言った。そして竜がその身に纏し眩い光が全てを包み込む。
眩い煌めきが僕の視界を一時的に真っ白に包み込んだ。目を閉じてしまいまだ結果は分からないが、想像以上の攻撃でオルサーを圧倒出来た。
確実に無事では済まないはず、そう思いながら目を開くと、そこには水の魔法でその身を守り抜いていたオルサーがいた。
「まさか私にこの魔法を使わせるとはね。どうやら君の実力は私の想定よりも遥かに高いみたいだ。」
そう淡々と語るオルサー、よく見ると服装の一部は焦げ、腕や足に少しだけ傷跡があるのが分かった。
どうやらあの攻撃でダメージが全くなかった訳では無さそうだという事を理解した。
またオルサーに体制を立て直される前にもう一度可能性のあるその魔法を使う。
紋章を描き上げて力強くその呪文を叫んだ。
「ライトニング・ドラグーン!!!」
最初に使った時の体の痺れが更に増している。僕が握りしめていた手が緩み剣が地面に落ちてしまった。
それと同時に身体の奥から現れた痛み。それはオルサーから付けられた傷跡からのものでは無い別の物。この魔法は身を削る物なのだろうか。
それでも震える体に力を入れて踏ん張りながら、イメージを送り続けると紋章はこれまでに見た事ない程光を増して輝いた。
今さっきの様に眩い光は視界を奪ったが、僕にはその強大な光の竜の力がオルサーの方へ向かっていくのを感覚的に感じ取っていた。
「行けぇええええ!!!!」
真っ白な世界にいる光の竜に向けて力強く願い、そして心の奥底から叫んだ。
僕はそうしてるうちに体から力が抜けてその場に倒れてしまった、腕も足も全てが痺れてしまった様に動けない。
オルサーが倒されている事を願いその場で蹲っていると、白い光は次第に薄れて行き、視界が晴れていった。
そこに映し出されたのは僕程では無いにしても体の全体を焼かれた様な状態で跪いたオルサーだった。
息を荒げこちらを鋭い眼光で見据えるオルサーは自分の体に向けて回復魔法を使っていた。
「動け!動けよ!」
自分の体に向かってそう呼びかけるがあの魔法を使った反動からか僕の体は動かない。目の前では次々と傷を癒してゆくオルサーの姿。
今すぐにでも攻撃を仕掛けなければこの魔法を使った意味が無くなる。
ひたすらに動けと力強く僕は体に向かって命じ続けるが、一向に動く気配はない。
「やってくれたじゃないか。」
そう僕に向けて苛立ちの混じった声色で話しかけてきたオルサー。その姿を見て僕は深く絶望した、僕が動けないままオルサーに与えた傷は完全に癒えてしまっていたのだ。
水の拳を纏いこちらに歩み寄るオルサー。逃げようにも戦おうにも体は動かない。
せめて指だけでも動いてくれと願うがそれも叶わない。
「これで終わりだ。」
僕に向かってオルサーの水の拳が力強く振り下ろされそうになったその瞬間、突然現れた無数の紋章が鎖を生み出してオルサーの体を壁に縛りつけた。
「何が起こったというのだ?!」
困惑するオルサーだが、咄嗟に水の拳を解除して龍に変化させて僕の方へ攻撃を仕掛けてきたが、それも無数に張り巡らせた鎖に阻まれて消滅した。
そして身動きが取れない僕の前に立ったのは赤い髪を持つとんがり帽子の少女の姿。こちらを振り向き僕を見つめた黄金の瞳。
「ここまでよく頑張ったねアリスタ君。」
その懐かしく優しい声を聞いたのと同時に、僕は安心したからか涙を流してしまった。
信じられない事だが僕の目の前に居るのは僕に名前を与え、魔法を教えてくれた恩師であるアルテミアさんだったのだ。さ
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