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魔法使いの行方  作者: 腐れミカン
魔鉱山編
50/75

第50話 約束された奇跡





オルサーはまず目の前にいる霧ヶ谷と魔法で張り合いながら緋色君と近接戦闘を行い、そして後方から放たれる王城の魔法を軽々と避けていた。


その上、霧の竜が一体なのに対して水の竜は三体、しかも動きは全て違う。間違いなく精密な魔法を使っているのだ。


その状態で緋色君と王城の攻撃を受け、避けながら戦闘を続けている。僕はその恐ろしい程のポテンシャルの高さに唖然とした。


「俺と霧ヶ谷を相手にしておきながらそんな動けるなんてな。末恐ろしいよアンタ。」


緋色君が剣を振り下ろすのだがそれをオルサーは白銀の拳で軽々と受け止めて払う。


「お褒めいただき光栄だよ。ただ思っていたよりも君達が強くて今凄く困っているんだ。潔く負けてくれないかな?」


その言葉を聞いた緋色君は剣を腹部に滑り込ませて力強く腹部に一撃を決めた。


「お断りだクソ野郎!」


緋色君の強い叫びと共にその場に勢いよく崩れ落ちた白銀の鎧、腰を摩りながら緋色君の方へ顔を向けた。


「今のはかなり痛かったよ。少年!」


もう一体の水の竜を緋色君の方へ差し向けるが、それを霧の竜が割り込んで一瞬で消滅させた。


「貴方の相手は一人ではなくてよ。」


霧ヶ谷が冷静にオルサーへ告げた。


「そうか、ならば今度は君にしようか?」


その言葉に対してオルサーは苛立ちを含めた声色で答えた。


間違いなく追い詰められているというのに、オルサーは多少の苛立ちを見せただけで、余裕のある態度を崩す事無く、残っている二体の竜を使い霧ヶ谷へ攻撃を仕掛けた。


一方で守る為に霧の竜を使った彼女の身は無防備、迫り来る攻撃を避ける手立てが無い様に思えたその時、緋色君が割り込み水の竜を剣で切り払った。


「やらせねぇよ。」


周りに飛び散った水は動きを止めてその場に滴る。その様子を見て不敵な笑みを浮かべた緋色。


それに反してオルサーは唖然とした様にその場に立ち尽くして動かない。


「馬鹿な…。」


その声色には驚きが強く見える。


そして攻撃を終えた二人を王城が後方から炎の魔法でオルサーに攻撃を仕掛けながら、デコイと位置を入れ替えて攻撃後の隙を無くす。


「正に完璧な布陣ってか?」


こんな状況でも浮かれた様に軽口を叩いた緋色君。


「世の中に完璧なんて物は存在しないでしょうけどね。」


その言葉に対して呆れた様な仕草をしながら霧ヶ谷は言葉を返した。


そんな彼らの後ろから現れたフラムは紋章を描き上げてオルサーの方へ向ける。


「今さっきのお返しよ、ボルケニックフレイム!!」


彼女は僕の杖を使って巨大な炎の魔法を勢いよく放ち、その炎はオルサーの体を完全に覆った。


「これでトドメですぞ、ファイヤー!」


更に王城がデコイと共に連続で炎魔法を連発していき更に炎の渦は勢いを増してゆく。


しかしその苛烈な炎の渦を勢いよく切り裂いて現れたその白銀の鎧。


これだけの攻撃を受けながらも傷が一つも付く事は無く、煌びやかな白い光を放っている。


「素晴らしい連携でしたね。しかし残念ながらこの鎧によって魔法は効かないのですよ。」


そう落ち着きを取り戻して語るオルサーに向けて緋色君が指を差しながら力強く言った。


「ならアンタをその窮屈そうな鎧ごと吹っ飛ばしてやるよ。」


緋色君がその手に出現させたカードを見せつけた。


それと同時に霧ヶ谷が出した物と同じ霧の竜がオルサーの足元から出現する。


動揺するオルサーだがその攻撃を避けることは出来ず思い切り高く吹っ飛ばされて天井に体が叩きつけられた。


「来やがれ!ミストドラグーン!!」


そして落下し、地面に思い切り打ち付けられた白銀の鎧。最初に見せた傷一つなかったそのフォルムは一転して腹部に大きな凹みが出来ていた。


「何故貴方が私の魔法を…?」


霧ヶ谷は不思議そうに緋色君に尋ねた。すると緋色君は笑みを返しながら言った。


「それは企業秘密って奴だ。」


彼らがやり取りをしている間に体制を整えたオルサーは皆から距離をとっていた。


「魔導絶縁の許容範囲を越えたか…。」


オルサーはそう残念そうに吐き捨てた後、身に纏っていた白銀の鎧を一つずつその場に脱ぎ捨てて白衣となった。


「やっとその中から出て来たな。」


緋色君が丸腰になったオルサーへ剣を差し向けながらそう告げた。


「あのままだとよく見えないのでね。」


オルサーのその表情には先程まであった様な余裕は見られない。代わりにその蒼い瞳の奥から異様な物が感じられる。


「さっきみたいに連携して倒すぞ、まずは俺から仕掛ける!」


緋色君が剣を振るい攻撃を仕掛けようとしたその瞬間、オルサーは素早い身のこなしでその剣戟を完璧に避けた。


そして緋色君の後ろ側に回り込み水を纏った拳で緋色君の首元を叩き付けた。


「な…。」


持っていたその剣は僕の方まで吹っ飛んで、持ち主の緋色君は勢いを失ってその場に倒れた。


そしてオルサーは見せつける様に動けなくなった彼を力強く踏みつけた。


「よくも緋色を、ボルケニックフレイム!」


フラムが動揺しながらも魔法を放とうと紋章を描き呪文を唱えて杖を構えた。


「きゃぁああああ!!」


だがそれさえも分かっていた様に先に仕掛けられていた水の魔法攻撃が彼女の体を吹き飛ばして入り口の更に奥の通路まで吹き飛ばす。


「行きなさい!デコイアーミー!!」


その状況下で王はデコイを何体も出現させて差し向けるが、オルサーはそれを一体ずつその水を纏いし拳で粉砕して行く。


「…ミストドラグーン!!」


デコイに手間取っている間に、動揺しながらも霧ヶ谷が放った最上級の魔法。


しかしそれさえも分かっていたかの様に新たに出現させた水の竜が攻撃を阻んだ。


その一瞬、霧ヶ谷の元から霧が全て竜の形となって離れた瞬間を待っていたかの様に、オルサーはもう一体の水の竜で霧ヶ谷を吹き飛ばした。


「嘘…この私が…。」


彼女が声を発したのと同時に水の竜は追撃を加えて行き、やがて霧ヶ谷は完全に沈黙した。


「…。」


残された王城もデコイをひたすらに出しながら牽制しようと試みるが、床から出現した水の竜に体を抉られてその場に倒れた。


「何故なのだ…。」


僕の隣でその言葉を呟いた後、意識を失ったのか動かなくなってしまった。


僕は何も出来なかった。誰かの盾にさえなれなかった。ただその場に蹲って見ている事しか出来なかった。


「あれだけ言っていた割にもう終わりかい。なんとも呆気ない物だ。」


僕らを見下ろすその蒼い眼。この光景で僕は確信した。


最初から戦っていた時に思っていた異様さ、それはこの男が僕らの行動を知っていた様に立ち回っていたからだ。


もしかしたらこの男は未来を先に見て動いているのかもしれない。


でもそれが本当なら勝てる見込みなんて無いかもしれない。だけどここで諦めたら全員死ぬ。


だから僕は皆を守る為にもう一度戦わなきゃならない、今だけ誰でもいいから力を…。


「いずれ君の役に立つ時が来るだろう。」


懐かしい声、僕の師であるアルテミアさんの優しい声が響くのと共に僕の頭に被った帽子は煌めいて体を包み込んで行く。


体にあった痛みは温かさと共に全て癒えて行き、澱んでいた視線は鮮明な物になった。


心の中で僕はもう一度立ち上がるチャンスをくれたアルテミアさんに感謝を告げる。


「まだ…。終わってなんかいない!」


そして体を起こした僕は、力強くその憎き男に向けて声を張り上げる。敵対する怖さよりも仲間を傷つけられたという怒りが内側から湧き上がる。


「まだ起き上がるとはね。やはり君は私が見込んだだけの事はある。」


振り向きこちらへその蒼い瞳のを向けるオルサー、だが僕は屈しない。その悪意に負けないくらい強く心の奥底から声を出して宣言する。


「オルサー、もうこんな酷い事が出来ない様に徹底的にお前を倒す!!」


その宣言を聞き遂げたオルサーはこの場にそぐわない、とても明るく喜びに満ちた笑みを浮かべて答えた。


「来い、とんがり帽子君。私を楽しませてくれよ?」


僕は足元にある緋色君の剣を手に取って、オルサーの方へ力強く構えた。

最後までお読みいただきありがとうございます。


なんとこれで、連続投稿を50話達成致しました!


ここまで頑張れたのもいつも読んでくれる方々のおかげです。本当にありがとうございます。


これからも諦めずに完結させれる様に頑張ります。



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