第43話 連携
マリア視点
私が檻から抜け出して廊下に出ると、少し遠くにスーツを着た見回りの様な人が何人かいるのが見える。
「…。」
咄嗟に魔法で偽物の壁を作り、手を口で塞いで音を漏らさない様に気をつける。
「先行した部隊がやられたらしい。なんでも妙な魔法を使う連中が入り込んできたとか。」
「尚更急がねばならないな。これ以上コストをかけるとマスターに殺されたぞ!」
「ラージャ。」
喋っているのはあの見回りの人だろうか。その言葉が本当でもしアリスタさん達が助けに来てくれなら…。
「ん…?妙だな。おいお前らこんな所に壁なんてあったか?」
見回りの一人に気付かれてしまった!
…嘘! 完璧に偽装したはずなのになんで!
足音は徐々にこちらへ近づいてくる。
どうしようどうしようどうしよう。
「なーに馬鹿な事言ってんだ。そんな事言ってないで早く行くぞ!」
「それもそうだな、今は壁なんかよりも仲間の事を考えた方がいいだろう。」
…良かった〜。
バレなかった安堵から肩から力が抜けてその場に体が崩れ落ちた。
足音が遠ざかるのを確認してから私が魔法を解いたその時。
目の前にはフルフェイスのヘルメットを被っていてスーツを着ている見回りの人が一人いた。
「やっぱりか。君が足音だと思ったのはフェイク、ただここで待っていただけ。代わりに仲間には先に行ってもらう事で勘違いを誘ったのさ。」
男はスーツから銃を取り出してフルフェイスのヘルメットに手をかける。
「…こ、来ないで!」
私は後ろに逃げようとするものの壁があるから逃げられない。
「君の事はよく知ってるよ、嫌になるくらいにね。」
「貴方は…なんなの?」
そのフルフェイスのヘルメットが外され、下にあった顔は私そっくりの顔立ち。
そして私の目の前まで来て銃のトリガーに指を掛ける
「俺はしがない君のコピー、使い捨てられる為の雑用品。」
銃をこちらに構える彼、恐ろしい程澄んだ青い瞳には怯えた自分の姿が映る。
「嫌ぁぁあ!!!!」
「俺はこれでやっと!自由になれ」
バァン!
銃声がこの廊下に響き渡る。目を閉じた自分の頭が撃ち抜かれたと思っていた。
だけど目を開くと目の前にいる見回りの頭が撃ち抜かれていた。
「な…何?!何故だ!お前らは先行した部隊の連中だと!」
撃ち抜かれたはずの頭からは血では無く緑色の液体が流れ落ちている。
私は怖くてその場から動けずにいると彼を打ち抜いた別の見回りの人がもう何発か撃ち込み、目の前に体が崩れ落ちた。
「…!」
「助けに来たぜ?お姫様。」
いや、見回りの人じゃない。
聞き間違えるはずがない。
その声は間違いなく私が知っている彼のもの。
「意外とキザなのね貴方って。」
後ろから続いて出て来たのは私と同じ生徒会で唯一の友達である彼女。
「お姫様って…ぶふぉお!面白い冗談でありますねぇ!!」
そして誰だかよく知らない変な人。
「やかましぃわ!俺がカッコよく決めたのが台無しじゃねぇか!」
何か目の前で彼が変な人をボコボコに殴ってる。人の知らない一面を見てしまった気分だ。
そんな彼らの事を背にして彼女はこちらに近づいて来た。
「立てるかしらマリアさん。」
彼女から渡された手を取って私はなんとか立ち上がった。
「ありがとう…霧ヶ谷さん。」
私が感謝を伝えるとその表情に薄らと笑みが見えた。
「お礼なんていらないわ、貴方が無事なら私はそれでいいのだから。」
霧ヶ谷さんにはいつも迷惑ばかりかけてしまっている。
普段もAランクで最強なのにCランクで弱い私と友達でいてくれる素敵な人だ。
「あっ…おい!いい所だけど持って来やがったな霧ヶ谷ァ!」
知らない人と取っ組み合いをしている緋色さん、彼は相変わらず何考えてるのかよく分からない。
「先に行かなかった緋色殿が悪いですぞ。」
後ろにいた彼を煽る知らない人。なんだか分からないけれど少し鬱陶しい感じがする。
「誰のせいで行けなかったと思ってんだよこのスカポンタンめ!」
「うひー!」
知らない人の頭を再びブン殴る緋色さん、あの殴り方だとヘルメットを被っていてもきっと痛いはず。
「遊びはそこまでにして、今は確保した彼女を連れ出すのが先よ。」
「何がともあれ作戦は成功した訳だ。そうするとしますかね。」
そう話し合っていた時、私が逃げ出して来た檻の方の扉が勢いよく開いた。
そこから出て来たのは白衣を着た私がよく知るあの人…恐怖で体が震えて動けない。
「大丈夫?マリアさん。」
霧ヶ谷さんが倒れそうになる私の体を支えてくれた。だけどそれでも震えは止まらない。
お父様はこちらの方を見てニタリと口角を上げて笑った。
「駄目じゃないかマリア、そんな悪い子達と遊んだりしたら。」
「お、お父様!」
「おいおい、アンタがマリアの父親だと?」
緋色さんは咄嗟に身構えてカードを取り出した。だがそんな様子も気にする事なくお父様はこちらへ歩み続ける
「そうさ。それにこれは家族の話でしてね。他所の者には関係ない事なので、さっさとお家に帰るといい。」
こちらに近づいてくるお父様に対して動けない私の代わりに目の前に立ってくれた霧ヶ谷さん。
「貴方みたいなゲスに彼女を渡す訳にはいかない…私の前から消えなさい!」
彼女がそう言った瞬間辺りが霧に包まれていき視界が白く濁ってゆく。
「ほぉう?君が噂の最強か。」
「名前が知れている様で嬉しいわ。」
霧ヶ谷さんがそう言った次の瞬間集まった霧が一斉に剣の形を作り出してお父様の方へ降りかかった。
「ぐはぁ!!」
一気に飛んできた霧の刃に逃げる事はままならずその場体を貫く音が静かに響いた。
「案外呆気なかったわね。行きましょうかマリアさん。」
彼女が私の手を引いて前に進もうとしたその時
「逃げろ霧ヶ谷!別の奴がお前を狙っているぞ!」
遠くにいる緋色さんの叫びが聞こえた時…私は思い出した。体を乗っ取り精神を支配するあの存在を
「緋色君…?それは一体!」
本当に一瞬だった。
その一瞬、私の目の前を通り過ぎた黒いモヤが霧ヶ谷さんの目や耳、そして口から一斉に体へ入り込んでいった。
「…という割に隙だらけだなぁこの女。」
そしてあの存在に支配された霧ヶ谷さんは私の身体をお父様の方へ投げ飛ばした。
「いやぁぁあ!!!」
私が体を地面に打ち付けて動けなくなっていると、隣で起き上がったお父様が私の腕を力強く掴んだ。
「簡単な仕事だったろ?イービル。」
そう言われた霧ヶ谷さん…いやイービルは彼女の体で呆れた様な仕草をして受け応えた。
「まぁな、このボディが女って事以外は完璧って感じだぜマスター。」
「今からお前にもう一つの仕事を与える。その体で奴らの妨害をしろ、報酬はボディだ。」
「了解したぜ。」
不敵な笑みを浮かべたイービルは緋色さん達の方へ歩み近づき始めた。
「逃げて緋色さん!!それは彼女じゃ…。」
「クソ!霧が濃くて何が起こっているのか見えない!」
緋色さんにその事を伝えようとするもののお父様が私の腕に何かを注射した。
その何かが意識をゆっくりと奪っていく。
「うるさい子だ、少し静かにしていなさい。」
意識が消えようとするその最後、私の目が捉えたのはお父様の笑顔だった。
〜
アリスタ視点
森を抜けた僕らはなんとか入り口に辿り着く事に成功した。
だけどそこには何個にも張り巡らされた光の網があって触っていい物なのか悩んでいた。
「これって触ってもいい物なのかな?」
「そんな事考えても面倒だしもうこの際アリスタとアタシの魔法で全部吹き飛ばせばいいんじゃない?」
「それもそうだね。」
二人で杖で紋章を描き上げた後何かを思いついたのかフラムが嬉しそうに語りかけてきた。
「合体技みたいな感じでやりたいわね。名前はアリスタがよく使うライトニングとアタシのフレイムを合わせて〜エクスプロキオンにしましょ!」
「どこ合わせたのさ、でも気に入ったよ。」
魔法の名前の共通点は全くもって皆無だけどそれがなんとも彼女らしい。
「じゃあ行くわよ!せーのっ!」
どんな感じに魔法を使えばいいのか聞くのを忘れていたがもうこうなったら勢いだ。
いつも見たいにライトニングを使う事をイメージして集中する。
「「エクスプロキオン」」
どういう原理なのか二つあった紋章が絡み合って更に大きなものになった。
その紋章は僕らの体の3倍か4倍くらいのレベルで凄く大きい。
「あれ?」
「失敗か〜。まぁ仕方ないわよね、今回使うのが初め」
フラムが紋章を背にしてこちらを向いて話しているその時に紋章から出る緑色の煌めきが周り全部に降りかかった。
「え。」
フラムがそう呟いた次の瞬間。
轟音が響き渡り僕とフラムは耳を塞いだ。
そして眩しい中めをうっすらと開けるとその紋章から現れた巨大な炎とそれを包み込む極太の光線が勢い良く一気に魔鉱山の入り口の方へ飛んでいった。
「これ…やりすぎだよね。」
そこに残ったのは入口どころかその奥全てを貫いた大穴。もしマリアに当たっていたらと思うと震えが止まらない。
隣で青い顔をしたフラムの方を見ると焦りながらこう言った。
「まぁ、誰がやったのか問い詰められても知らんぷりしましょ。それより早く行かないと!」
フラムはそう言って足早に大穴の奥へ進んでいってしまった。
話が大きくそれた気がするが今はそっちのが都合がいいので僕も彼女の後に続いて魔鉱山内部へ入っていった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。