第42話 侵入
〜 緋色視点
少しだけその場で座っているうちに俺の中から頭痛が完全に過ぎ去った。
そして霧ヶ谷の方を見ると、顔色がだいぶマシになっている。だが外見だけで内面的な体調の判断は出来ないので、面倒だが問いかける。
「体調はどうだ?」
「かなり落ち着いたわ。」
「そうか、じゃあ行こう。」
俺と霧ヶ谷が立ち上がり魔鉱山の入り口へ足を踏み入れようとしたその刹那。背後から物凄い視線が俺を射抜く。
「誰だ!」
能力は使っても見せない様に、ズボンのポケットの中でカードを具現化する。
「あれは王城…ね。」
どうやら厄災が目覚めたらしい、これまでの行いから察するに奴に連携や協調性など無いとみた。
今回のマリア救出作戦に彼は不適合すぎる。
「おい!王城、お前はテレポートを使って学院の方に戻ってろ。また面倒毎を起こす前にな!」
「ン〜?ワタクシは誰からも指図を受けるつもりはありませんよぉ〜?」
コイツのこのネチネチとした喋り方から、鬱陶しい仕草の全部がダルすぎる。
「クソが。」
なんて面倒くさい奴なんだろうか。
「落ち着きなさい二人とも、ここで喧嘩をしても無意味よ。それよりも今はマリアを助ける為に魔鉱山内部に入って情報を集めないと。」
霧ヶ谷はまだこの中ではまだまともな考えを持っているみたいだな。
初対面の時は王城を置き去りにして、俺を酷い目に合わせたかなり嫌味な奴ってイメージだったが、案外話が通じそうだ。
それに使う魔法も名前が表す通り霧らしい。これに関しては実際に見た事も無いし噂で小耳に挟んだ程度なので詳しいことは分からない。
「でもなぁ霧ヶ谷、コイツがいるとまた色々面倒じゃないか。送り返した方がいいだろ?」
「緋色君、彼が簡単に食い下がると思うかしら?」
「…。」
まぁ確かにコイツを送り返す事で手間取ってる内にマリアの身に何かあってからじゃ遅いからな。
「はて?マリアを助けるとはどういう事ですかな?霧ヶ谷様。ワタクシ勢いでゲートに飛び込んだのでさっぱり分かりません。」
コイツに説明すんのは面倒だがしないとそれはそれで面倒だから説明するべきだ。もう時間をかけてられない。
「マリアが拐われたんだよ。そんで今から助けに行く。はい、説明終わり。」
「なるほど!でしたら是非ワタクシも力添えしますぞ!」
腕を上に掲げてガッツポーズをする王城、いちいちオーバーなんだよなぁコイツ。
だがこの限り無く面倒な性格の代わりに彼の能力はこれまで見た感じ、分身を大量に出現させて操作できる最強クラスの物だ。
しかもその分身に魔法を使わせられるんだから、便利でシンプルに強い。改めて考えると腐ってもAランクなだけはあるんだな。
「あーもう分かったよ!この場にいる全員でマリアを助けに行く事でいいから!取り敢えずここで道草を食ってる暇はないんだ行くぞお前ら!」
「ええ。」
「了解ですぞ。」
即答する二人、コイツら返事だけは素直なんだな。
〜
ん〜。いざ入り口に来たもののなんだか思っていたものと違う。
ここに来るまではザ森みたいな場所だったのに反して何なんだここは。
魔法に関する魔道具を作るための材料を取る魔石の鉱山だから魔鉱山。
そんな風な説明を聞いたからか今目の前にあるサイバーで近未来的なセンサー付きドアを見て物凄くギャップがある。
これは俺と同じ異世界から来た奴が作ったのだろうか。
詳しくは分からないが、無数のレーザーが照射されており侵入者を絶対に見逃さないという作った奴の精神が見て取れる。
この魔鉱山にいる奴は相当ネチっこいとみたね、俺は。
「これは一体何なのかしら。魔法とはまた違う原理が使われていそうなのだけれど。」
霧ヶ谷はポカンと頭を捻ってレーザーをジーッと見つめる。
一流の魔法使い様もこの科学的な物は分からないらしい。このまま身体を突っ込まれても困るし説明をするとしよう。
「あれは恐らくレーザー、いわゆる侵入者を感知する仕掛けだな。だから迂闊に近づかない方がいい。」
「そうなのね、なら別の入り口を探すべきかしら。」
ブー! ブー! ブー!
「はへ?」
センサーやレーザーが交差するど真ん中にいつの間にか奴はいた。
王城がやりやがった!アイツ全然俺の話聞いてねぇ!
「こうなったらプランBだ!責任とって道を切り開きやがれ!」
俺はすかさず王城の顔面をぶん殴った。
「うひぃあ!!」
ゴミ屑みたいに吹っ飛んだ王城は勢いよくサイバーなドアへ激突しバキバキに破壊した。
シンニュウシャ! シンニュウシャ! シンニュウシャ!
警報がうるさく鳴り響く。
「こうなったら勢いだ、このまま内部に侵入する!行くぞ霧ヶ谷!」
「え、ええ。」
ドアの方へ一気に走り出す俺たち、かなり困惑している霧ヶ谷、気持ちは分かるが仕方ない。ミスをしたらそいつの責任だ。
「呑気に寝てんじゃねぇ!」
「ぴぎゅ!」
もはや声とも呼べない情け無い音を出した王城の首根っこを掴み引きずる。どんな形であれ俺たちは内部への侵入を成功させた。
〜
「おいおいおいおい!」
走る、スタミナが切れるまでただひたすらに走る。
「緋色君、なんなの!あれは!」
霧ヶ谷が息を切らしながらそう語る。
少し振り向けば後ろにはフルフェイスヘルメットを被りスーツみたいな服を着てる何人もの追手がぞろぞろ居る。
「あんなの俺が知る訳ないだろ!」
そう答えると俺が首根っこを掴んで引きずっている王城が自慢げに言ってきた。
「アレは追手ですなぁ、間違いない。」
「んな事は分かってんだよ、お前はいい加減走れって!」
「むひひ、引きずられるのもまた一つの快楽
故そのままで居るべきだと思いましてね。」
コイツ…なんか身体に色んなアクセサリー付けまくってるから異常に重いし、そろそろ腕が痛くなってきた。
「お前重いんだよ、マジで降りてくれ!」
俺の悲痛な叫びを聞いた霧ヶ谷が諭す様に答えた。
「緋色君、この際もう彼を置き去りにしてもいいのではなくて?」
追われているので冷静に考えられなかったが霧ヶ谷の言葉の通りコイツを運ぶ義理なんか俺には無い訳だ。
そのアイディアに乗っかるとしよう。
「アリよりのアリだな、じゃあな王城。」
俺が首根っこを離した瞬間王城はゴミ屑の様に転がって追手の群れの中に突っ込んでいった。
「ちょ!えっ!ぎゃぁぁぁあああ」
「悪く思うなよ!」
俺がそう奴に言ってみると返事なのか叫びなのかよく分からない声が響いた。
「むひぃぃいい!!!」
何という事でしょう。あの王城は完全に追手の群れの一部となり特徴的な嫌味な顔さえ見えなくなってしまったではありませんか。
冗談じゃない、一体何人いるんだよあの追手は!
改めて振り向くと連中は皆銃の様な物をこちらに向けてきた。
なんでコイツらが銃を持ってんのかは知らんがこの状況は限り無くヤバイ。
「やべぇ奴ら俺たちを攻撃するつもりだ!」
「何ですって!」
バーン バンバン バーン!
ドドドドドドド!
流れてきた弾丸達は俺の制服を破り横を通り過ぎて行く、こんな調子で何発も撃たれたら無事ではいられないだろう。
「畜生!」
正直これは温存しておきたかったが、それで死んでしまったら元も子もない。
「来い!パーフェクトシールドォ!」
俺は最初に出して置いたカード…パーフェクトシールドを後方に展開した。
追手らの銃撃は全部弾き飛ばされて弾丸がその場に転げ落ちる。
「なんとか命拾いしたわね。」
「そうは言ってられない。このシールド展開できる時間が物凄く短いんだ!早くどっかに隠れないとお互い蜂の巣にされちまうぞ!」
俺がそう言うのと同時に前で走っていた霧ヶ谷は歩みを止めた。
「嘘!でももう前は行き止まりよ!」
「なんだって?!」
攻撃の処理に気を取られていて気付かなかったが俺たちは逃げ場を失ってしまったみたいだ。
「大人しく投降しろ!コイツの様になりたくなかったらな!」
追手のうちの一人が身体中を縛られて身動きの取れない状態になった王城を俺らの方へ放り投げた。
「ンー!!ンガー////!!!」
何故か縛られてんのにコイツは物凄く嬉しそうに見える、マジでどうかしてるぜ。
というか投げた追手も困惑してるぞ。なんかすごく嫌そうに見えるよ!
もう駄目だ、この状況を切り上げないと微妙なこの空気にやられる。
「王城は別にどうでもいいが俺たちはここで捕まる訳には行かない、やるってんなら来いよ!相手になってやる。」
「そうよ!王城はどうでもいいけどね!」
俺たちの宣戦布告を聞いた追手は指をこちら
に向けた、そして後ろにいる軍勢も皆銃をこちらに構えた。
「ならば処理するしかあるまい一斉射撃!」
バーン!ドドドドドバババーン!ドーン!
奴らが射撃を開始した。だが今さっきパーフェクトシールドを使ったから一日待たないと次のは使えない。
「クソさっきので盾はしばらく使えねぇ。なんとかしてくれ霧ヶ谷!」
弾丸がもう目の前まで来ているというその刹那、紋章が煌めき目の前を白いモヤが通り過ぎて弾丸を全て受け止めた。
「期待してくれていいわよ。」
そのモヤ…いや、霧は彼女を中心に囲い込む様に現れて今さっきまでの銃撃で放たれた弾丸を全て受け止めている。
「構うな!撃て!撃てーい!」
追手はその様子を見ているもののまだ攻撃を続ける。
ドドドドド!
バーンバーンバババーン!
「どれだけやっても意味は無いわ、大人しく諦めて攻撃をやめなさい。これは忠告よ。」
バーンバーンバーンバーン!
「気にしたら駄目だ!撃つんだ!これはマスターから頂いたアーティファクトなのだ!負けるはずがないぃ!!!」
銃がアーティファクト…ねぇ。
追手は自分が持っているものが攻撃できる便利な物って事以外は何なのかはよく分かってないみたいだな。
だがコイツらを武力提供してる連中はこの状況から見るにどっかから銃を持って使い方を教えてる訳だ。
きっと裏には厄介な奴がいるだろうな。
「私は忠告したわ、死ぬとしても貴方達が悪いの、だから消えなさい。」
今さっきまで弾丸を抑えていた霧が形を変えて追手の持っている銃に似た形状へ変化した。
「一斉射撃。」
その言葉と同時に霧ヶ谷は溜め込まれた弾丸をそのまま勢いよく全部送り返した。
「なっ!うわぁぁああああ!!!」
次々銃弾を受けバタバタと倒れて行く追手。
彼女の攻撃はかなり長い間、王城も巻き込みながら続いた。
〜
「中々酷い有り様だな。」
そこにあるのは無数に転がる身体と銃。そして服をズタズタにされた王城は運がいいのか悪いのか一つも直撃していない。
「私の使った魔法はカウンター系統の物。攻撃を辞めたならここまで酷い事にならなかったし、続けた彼らが悪いのよ。」
「まぁ、それもそうだな。」
改めて見返すと何故か彼らは一人も血を流している様子も無い。近づいてよく見てみると露出した皮膚の内側からスライムの様な物が垂れている。
そしてその場に転がる拳銃も何かに使えるかも知れないのでシレーっと拝借した。
「コイツら…一体何なんだ。」
隣に来て同じように彼らの残骸を見ている霧ヶ谷は何かに気付いたのか衝撃的な表情を浮かべている。
「緋色君、彼らの顔をよく見て。」
俺はその言葉通りフルフェイスヘルメットを外した…すると中から現れたのはマリアと良く似た特徴を持つ青年の顔。
それも何人も皆、完全に同じ様なブロンドに青い瞳を持っていた。
「コレって一体何なんだ…?」
「ンガガガガ!!!」
この見た目…そして銃。想定していたよりもマリアの身に起こっている事は大きいと確信せざるを得ない。
「連中の狙いは一体何なんだ。本当にここは魔石を取るための施設なのか?」
「分からないわ。ただ言えるのは彼女を早く助けないといけない事。今は事実確認を後回しにしてマリアを探すべきね。」
冷静な顔立ちでそう言った霧ヶ谷、そしてさっきからその場でゴロゴロと周りを転がっていた王城は感極まって暴れ出した!
「ンガガガガ!!!ムキー!」
「あぁ!もうなんだよ!」
「アウエ!」
外せってか?…ったく。
なんかいつにも無く真剣な顔をしている王城を見て俺は悩みながらも縄を解いてやる事にした。
「はぁ〜いやー、何とかなりましたな。これも一重に霧ヶ谷様の活躍あってこそ。」
「貴方が罠に掛からなければ私が活躍する必要も無かったのだけれど?」
嫌味そうにそう王城の方をみる霧ヶ谷、だが普段と打って変わって彼の表情は真剣そのもの。一体どうしたってんだ。
「それは大変申し訳ありませんでした。ワタクシ、すーごく状況を舐めておりました。まさかここまでの大事だとは思わず。」
俺たちに頭を下げる王城、コイツ人に謝れたんだな。なんだか普段と違いすぎて凄く衝撃的だ。
「まぁ、分かればいいんだよ。お前がただこの先でもう面倒事は起こさないでくれればそれでいいから。」
「その面倒事についてですが。一つワタクシに妙案がありましてね。」
そう言った王城は転がる追手の身体からスーツとフルフェイスヘルメットをもぎ取り、なんと目の前で服を脱ぎ捨てそのスーツへ着替え始めた。
「霧ヶ谷、見ない方がいいかもしれん。」
「そんな気がしたから最初から目を閉じてたの、気にしないで。」
準備がいいのか悪いのか彼女はギュッと目を瞑っていた。
「これで完成ですぞ!」
そして最後にネクタイをキュッと締めた王城はさっきの追手と一寸違わない見た目に変わった。
もう言いたい事は分かった。だが彼がそれを言いたそうにウズウズしてるので言わせてあげよう。
「そう、今のワタクシの様に連中の姿に変装してこの中を索敵するのです!そうすれば面倒事に遭遇する事も限り無く低いでしょう。」
自慢げに腕をブンブン振り回して見せる王城、見た目が追手なのもあり大変シュールな事になっている。
だが同時にそれだけ追手に見えるって事でもあり、これなら周りの警備も分からないだろう。
「アリだな。霧ヶ谷、もう少し目を閉じていてくれ。俺も着替える事にするわ。」
俺も王城の作戦に乗っかる事にした。今までの奴とは思えないベストアイディアだからな。
「もう…。早く着替える事ね。」
そんな俺たちに霧ヶ谷は呆れた様な声でそう言った。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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