第40話 魔鉱山
ゲートが行き先に辿り着いて開いた瞬間同時に謎の浮遊感が起こった。
「うわぁぁぁあ!!!」
どういう事なのか今いる場所が魔鉱山なのに間違いは無いけど何故か少しばかり高い所に出口ができてしまったみたいだ。
前言撤回、落下する中少しだけ視界に入っ魔鉱山は全体が見えてしまった。これは相当高い位置に僕がいるのかも知れない。
このままだと落下して地面と激突する。だけど今の僕が使える魔法は破壊光線や油にしょぼい炎くらいしかない。
もうこうなったらヤケだ。意地でも死ぬもんか!フラムがここに来る為に使っていた転移魔法を再現して生き残ってやる!
「うぉぉぉぉお!!!来い転移魔法ぅう!!!」
辛うじて地面が見えているから移動先のイメージは大体つく、そして背負っていた杖を取り出し紋章を描き終えて光が周りを包み込む。
体の周りを覆う緑の煌めき、なんとかやれたのか?!
身体は浮遊間から解放されて、代わりに水の中に落ちる様な感覚が僕の身体に覆い被さり、なんと無く察した。
多分これ転移魔法じゃない何かだ。
〜緋色視点
頭が痛い、吐きそうだ。気分が最悪の俺は身体を無理矢理起こして今置かれている状態を確認する。
「ッ…どうなってやがる。」
そこは目の前に巨大な魔鉱山が見える場所、いわゆる入り口付近の草むらで俺の周りにいるのは霧ヶ谷と…王城。どちらも意識が無いのかその場に倒れ込んでいる。
なんで王城が居るんだ、陰謀か?
「おい、目を覚ませよ。」
真っ先に霧ヶ谷身体を揺すり意識を戻す事を期待する。正直コイツは気に食わないが、冗談でも王城を起こす気にはなれないので苦渋の決断だ。
「…ん。」
蒼い瞳をゆっくり開き俺を見つめる霧ヶ谷何であれ意識が戻ったのは大きい。今何故周りにフラムとアリスタがいないのとか気になる事は多いがまだ俺の周りに仲間が居たのが救いかもしれない。
「起きたか霧ヶ谷。どうやら魔鉱山自体には転移できたみたいだが、どういう訳か周りにアリスタとフラムが居ねぇんだ。お前はどう考える?」
俺の問いに顔色を青くしながら答える霧ヶ谷、の様子はどこか辛そうに見える。
「…ちょっと待って貰えるかしら、起きたばかりで頭が痛いの。」
「あぁ…、俺も目が覚めた時ヤケに気持ち悪かったしな。分かった、お前が話せる様になったら教えてくれ。」
正直今俺もまだすこし頭が痛いのであまり冷静な思考を持つのは難しい。今は互いに身を寄り添い軽い休息を取る事を優先した。
〜アリスタ視点
「ここは…?」
どうやら僕はなんとか…生き残れたみたいだ。だが今自分が居る周りは木々に覆われなんだか薄暗い場所である。
そしてその木の隙間から魔鉱山の先が少しだけ見えたので安堵した。
「なんとか成功したのかな。」
助かった事を一人で噛み締めるのと同時に僕以外の皆がどこに行ったのかという不安が襲い掛かる。
そもそも今の状況的に最初のフラムの魔法が失敗したという事なのだろうか。
ガサ ガサ
「…!」
草をかき分ける様な音がした。僕はその音の方に身体を向けて一応紋章を描き臨戦態勢に入る。
ガサガサ ガサガサ
そして音がこちらに近づくにつれて何故かこの薄暗い森の中で光が薄らと見えてきた。徐々に近づく未知の存在に怯えながらも杖を強く握りしめて足を踏ん張る。
バッ
そしてそこから現れたのは魔法で炎を灯したフラムだった。
余りの衝撃からその場から勢い良く彼女の近くへ駆け寄る。
「フラム!良かった無事だったんだね。」
一方の彼女も僕の存在に気付いたみたいで返事を返してきた。
「その声ととんがり帽子はアリスタ…?アリスタなの?本物よね!」
「本物も何も正真正銘のアリスタだよ!良かった無事みたいで!」
フラムはホッとしたのか胸を撫で下ろした。僕も一人で不安だったので彼女が居るなら凄く頼もしい。
「アリスタも無事みたいで良かった。少しの間とはいえこの森を歩いている間一人で不安だったのよ。」
「そうだよね。僕も今さっきなんとかこの場所に着地したばかりだから不安だったんだ。」
「着地?」
僕の着地というワードに疑問を持ったのか不思議そうに問いかけるフラム。
「そうそう。理由は分からないんだけど僕が意識を取り戻した時に、この場所からかなり上の空中に居たんだ。もう本当に驚いて、落下して死なない様に死ぬ気で頑張ったんだ。」
「それは大変だったのね。アタシはこの森の中で目を覚ましたのよね。しかしアリスタの話を聞く限り、どうやら転移先がバラバラになっちゃったみたい。他の皆は大丈夫なのかしら…。」
フラムの話を聞いて僕は転移先はバラバラになってしまったけど一応魔鉱山付近に僕とフラムが居たのだし、皆もきっと近くにいるはずだと考えた。
それに彼らは僕よりも魔法な秀でているからきっと無事だろう。
「きっと大丈夫だよ、霧ヶ谷は強いし緋色君はタフだし、皆無事なはずだよ。」
「アタシもそう信じる事にするわ。皆ならきっと大丈夫。それとここで立ち止まって話すのも一旦終わり、前に進んで早いとこ合流しちゃいましょ。」
フラムはその場所から前にまた進み始めた。
「それもそうだね。じゃあ行こうか。」
僕も彼女の後ろについて行ってこの森の出口を目指し始めた。
〜
マリア視点
今この場所に居るのは私だけ、それに拘束も解かれているから逃げようとすれば逃げれるのに足が恐怖のせいで全く動かない。
なんでこんな事になっちゃったんだろう。
私はただ人並みの経験をして普通な日常を送りたかっただけなのに。
今の私はあの時の私と同じだ。
誰かから助けて貰える事を勝手に期待してこの場所から連れ去ってくれる事を祈ってる。
だけどそんな考えじゃダメだ。私は生きる為に変わらなきゃここで死ぬ。
「…頑張る。」
まずは声に出して、体に少しだけ力を入れて今自分が置かれている状況を飲み込む事から始める。
今さっきまでお父様が座っていた椅子、私を覆う牢屋の檻と、その中に転がる誰かの骸骨
、そしてヒイロさんが残したカードが目の前にある。
「…今だけ…少しだけでも…勇気を…。」
緋色さんが私に残したカードを拾って握りしめ、魔法を牢屋の鍵に向けて使った。私の魔法は鉱物を司る魔法。だから鉄を鍵穴の形に合わせた鍵にするのは簡単。
ガチャリ
牢屋の扉は開かれて外に出ることができた。でも昔居た時と中の様子が全く違うから逃げるにしても時間がかかるかもしれない。
それに運が悪ければお父様に出会って殺されてしまうかもしれない。
また皆に会える保証なんてないけど…だけど私は前に進まなきゃならないんだ。
「…逃げる。」
言葉に出して、自分を信じる事。
それが今の私に出来る全力なのだから。
最後までお読みいただきありがとうございます。
この作品もとうとう40話!
ここまで頑張れたのも、読んでくれた皆様のおかげです。
本当にありがとうございます。