第4話 魔法
あの後、この世の物とは思えない悍ましき物を食した僕は凄く気分が悪い状態で彼女に外に連れ出された。
なんでも特訓とやらは外でやる方のが集中できてやりやすいそうだ。
「…ぅぅ。」
外に出た、どうやらここはアルテミアさんの家の庭らしくとても広い。
しかしそんな景色を眺める余裕など僕には無く気分の悪さに吐き気が少し起こり目眩がして今にも倒れそうだ。
目の前にいるアルテミアさんはなぜこんな物を食べているというのに全然顔色一つ変えずにピンピンとしているのだろうか。
「えっと…もっと足りなかったかしら?」
そんな彼女はこちらを気遣う様に目線を合わせて言ってきた。
その人を思いやる精神は素晴らしいと思うけれど決定的に違う!そうじゃない。
「いや…結構です。」
「もしかしてお口に合わなかったかしら?」
またあの表情だ。どうしても断りづらいあの少ししょんぼりした表情。
本当に僕はダメな奴だ…やっぱり悪く言えない。
「いや…それなりに美味しかったです。ただ少し食べすぎちゃって苦しくて…。」
嘘はよくない物だけれど人を気遣う嘘ならば許されてもいいと個人的に思う。
「そうならよかった。じゃあ早速始めましょうか。」
アルテミアさんは平然と何もない空間から杖を取り出してその場に掲げた。
そして僕の方にも杖を一つ渡してきて
「まず魔法の基礎を教えるわ。これさえできればどんな魔法も使えるものよ。」
アルテミアさんは杖を何も無い空間に絵を描く良うに振った。
そしてその杖で描いた通りに空に浮かび上がる円状の紋章、これが基礎とやららしい。
「これからどうするんですか?」
「あとは好きなように思い浮かべるだけだよ。…こうやってね。」
紋章から緑色の光が輝いてポンと何も無い草の中に小さな花が咲いた。どうやらあの紋章から出たみたいだ。
そして花を出し終えた紋章はスッと消えた。
「凄い…。これが魔法」
「魔法っていうのは何でもこの紋章で世界の力を引き出して使う事で、基本的に何でもできるわ。」
「なるほど、でもこういう何でも出来る物にも何かデメリットはあるはず…ですよね?」
「う〜ん、今のところ本当にデメリットというデメリットは無いかなぁ。
強いて言えばこの紋章を描く事が出来ない人は魔法が使えない事くらいかなぁ。じゃあアリスタ君、少しやってみて。」
「やってみます…と言いたいんですけどどんな感じでしたっけ?」
あっという間に消えてしまったあの紋章の形を思い出しながら書くことは難しいのでアルテミアさんに聞いてみた。
すると彼女は地面に杖で今さっきの紋章を書いてくれた。
「えと…これこれ。」
「ありがとうございます、やってみます。」
肩の力を抜いて集中する。空を撫でる様にあの紋章を描く…するとその紋章が空中に現れた。
「で…できました!」
「じゃあ私が今さっきやったみたいに花を出してみるんだ。その辺りに花があるのをイメージしてみて。」
花…
黄色くて小さな花。
思い浮かべてみると僕の前で浮かんでいる紋章は眩いほどの緑色の光を放ち消えた…そしてその場に残ったのは
枯れた一つの大きな花だった。
色は分からないが僕の思い浮かべた小さな花とは似てもつかない別物だ。
「あー、やっぱりかぁ。でも形を作れただけでも上出来ね。」
「えと…それって?」
「本来ならこの私のやり方…無詠唱っていうんだけれど。
これで魔法を使える人は全く居ない。
普通はイメージした形すら保てないのが当たり前なのよ。」
「普通じゃ無いのが無詠唱って事は本来なら魔法を使う時に詠唱をするんですか?」
「そうそう、例えば炎だったらファイヤーとか言ってみたりしてね。
実はその魔法に対する詠唱は特に決まっていないの、詠唱をする理由はイメージをより強くする事だからね。
ファイヤーでも炎は出せるしフレイムでも同じ様に炎を出す事ができるわ。」
「じゃあ僕も詠唱したらできますかね?」
「無詠唱であそこまで出来た君からきっとできるよ。ただ今さっきと同じだとつまらないし水を出してみて。」
「よぉし。」
今さっきの紋章を描きその場に浮かばせる。
水…
自然豊かな流れてる綺麗な水
そして水を強くイメージして唱える。
「ウォーター!」
紋章は緑色の光を放ち辺りに少し濁った液体をばら撒いた。
「あれ…?これは。」
僕の体ににべったりと付いたその液体は僕の思い描いた水ではなくドロっとした油だった。
近くにいる僕がこんな有様なので不安になりながらそっとアルテミアさんの方を向くと僕の出した油塗れになってしまった彼女がそこに居た。
「これは水じゃなくて油だね…。
それに服がぐっしょぐしょになっちゃった。」
「ごめんなさい!」
「いやいや、いいのよ。魔法に失敗はよくある事だから…ただ今日の特訓はここまででいいかな?」
声色の優しさに反して少し顔が怖い…もしあの服が彼女のお気に入りの服だったりしたらそれは絶対に怒りたくなるだろうしたぶん僕なら怒ってる。
本当に僕はとんでも無い事をしてしまった。
「大丈夫です…でもそれよりその服をどうしましょうか?」
「あぁ…。そうね、じゃあ私がお風呂に入っている間洗ってもらおうかしら。」
正直この信じられないくらいに油塗れの服を洗うのは嫌だ…嫌だけどこれに関しては完全に僕が悪いので洗うしか無い。
「分かりました。ほんとごめんなさい!」
その後アルテミアさんが風呂に入っている間に
僕は服を全部手洗いする事となるのであった。