第39話 滅茶苦茶
〜ルイワード視点
一度仕事をしている手を止める。
確かにこの業務は今日中に片付けてそれから授業を行わなければならない。
だがその前に緋色君からは何故この様な怪我を負ったのか、事情を聞いて報告書を作りダスト校長に伝える必要がある。
どうやらいつまでも目を背ける訳には行かないみたいだな…。
私は椅子から重い腰を上げてベットの前に立ち深い深呼吸をする。
どんな事であれ覚悟をして割り切れば何という事はない。
私は手に人の文字を何回か書いて飲み込み緊張を抑え込んで…緋色君と王城君がいるベットのカーテンを勢い良く開いた。
「…。」
呻き声を上げていた今さっきとは違いこの世の終わりの様な表情で俯く緋色君。
「///」
そして何故か縛られているこの状況を楽しんでいる様に見える王城君。
「…取るよ。」
私は先に緋色君の体に纏わり付くガムテープを順々に剥がして行った。
「ぶはぁ…助かりました、先生。」
緋色君の瞳に光が戻り先程の絶望が嘘みたいに安堵からか微笑みを漏らしている。
「取り敢えず服を着たまえ緋色君。それから何故怪我したのかと、この状況について説明してもらおうか。」
「それはですね…。」
緋色君はそこらに散らばった服を丁寧に着直しながらこれまでの経緯を話し始めた…。
〜
彼の説明により大体の事情は分かった。どうやら霧ヶ谷君とアリスタ君はこの学院にいるマリアという生徒について色々調べているらしい事。
それと何故パンツ一丁のままガムテープで拘束されていたのは王城君が緋色君を勝手に巻き込んでやった事らしい。
「王城のは取らないんですか?」
「君の話を聞く限りでは取らない方がいい気がしてな。」
そんな風に私たちが会話をしている間、歩くよりも遥かに早く横回転を加えて床を動き回る王城君。
彼の様子を見ると歩くよりも転がってる方が早いんじゃ無いかとさえ思える。
「その方がいいですよ。」
本当にゲッソリとした顔でそう言う緋色君、普段の明るい彼からは想像も出来ないこの様子を見ると本当に居た堪れない気分になりそうだ。
「王城君の話は一度置いておいてだな。君たちが探しているマリアという生徒を私の方からも探してあげようか?」
「あー、どうでしょう。もしかしたら学校のデータベースからは見つからないかも知れない。」
「それはどういう事なのかね?」
「…カードに反応が?!先生すんません、話はまた今度って事で!」
「ちょ、緋色君待ちたまえ!おーい!!」
勢いよく部屋から飛び出した緋色君、そして後ろを振り返ると腕の力だけで体を浮かせている王城君がいた。
余りにもいきなりの事が多すぎて目の前の事が信じられなくなった私は改めて彼の方を見るとなんと足を器用に使って拘束を解いていた。
「ワタクシもこれにて失礼!」
「ちょ…?!」
そして部屋には私だけが残されてしまったのだった。
〜アリスタ視点
「アリスタじゃない、息をそんなに荒げてどうしたの?」
教室で椅子に座って入りフラムはそう不思議そう言った。
「少し確認したい事があるんだけど、僕らと同じクラスメートのマリアを覚えているかい?」
「どうしてそんな事を聞くの?そんなの当たり前じゃない。」
どうやらフラムもマリアの事を覚えているみたいだ。これなら捜索する手間を人員を増やす事で省けるだろう。
「これで四人か…。」
「ちょっとどうしたの?今日は先生も時間になっても来ないし、いきなり変な事聞くし。」
「簡潔に言うと…マリアが居なくなったんだ。そして彼女の事を覚えている人が僕と君を含めて四人しか居ない。」
「なんでまたそんなことに?」
「分からない、だけどマリアの身に危険があってからじゃ遅いんだ。彼女を探すのに手を貸してくれないかな?」
そう言うとフラムは即答した。
「当たり前じゃない!友達の危機だもの。喜んで力を貸すわ!」
バタン!
そう言うのと同時に緋色君が勢い良く扉を開いて入ってきた。
「アリスタ君、どうやら話をしてくれたみたいだね。フラム、このカードに映し出されるイメージからテレポートで移動出来ないか?」
慌てながらも丁寧にカードを渡してそう言う緋色君、イメージって何のことなんだろうか。
「イメージって中々難しい事言うじゃない。そもそも私のテレポートは自分が知ってる場所にしか行けないの。それなのにそのよく分かんないイメージだけで移動とか無茶よ!」
「マジか…魔法なら何でもできる訳じゃねえんだな。」
そして沈黙する僕らの静寂を切り裂いて扉が開かれた。
カタン
「話は聞かせて貰ったわ。それならこの魔道具で問題を解消できる。」
霧ヶ谷が地図のような物を持ってこの教室に入ってきた。なんか二人はいいイメージを彼女に持っていないから少しムードが悪い。
ここは僕が緩衝材みたいな役割を果たさねば!
「えっと、ありがとう霧ヶ谷さん。」
僕はそう言ってみたもののあんまり状況は変わらなかった。
「ふーん、アンタが私達に協力するなんてなーんか胡散臭いわね。」
疑いの目を向けるフラム、なんとも嫌そうな顔だ。でも気持ちはわかる。
「俺もそう思う、アリスタをここまで懐柔したのも含めお前は一体何を企んでるんだ?」
何故か緋色君の中では僕が懐柔されていた、一体何故なんだ。
「ちょっと僕は別に懐柔なんてされてないよ。それに裏があろうがなかろうが彼女の力無しではマリアを探す事が出来ないだろう?」
僕がそう言ったのに続けて霧ヶ谷も話をつなげる。
「まぁ貴方達がどう思っても別にいいわ。ただ目的が同じなのだし時として協力が必要な場面もあると私は思うわ。」
「まぁ…そうね。」
そっぽを向きながらも少しだけ認める様な仕草を見せるフラム
「そうかい、どうやらAランク最強の霧ヶ谷様は意外と頭が柔らかいみたいだな。」
少し捻くれたような言い方で答えた緋色君
「なら話は終わり。始めましょう?」
「ちょっと待って、それでその魔道具はどう使えばいいのよ?」
フラムの質問に対して霧ヶ谷は淡々と返事を返す。
「この魔道具、見通しの地図はこの世界のあらゆる場所の情報が詰まった魔道具なの。これを展開して触れるだけでその記録された物を瞬時に理解できる訳、これならテレポートも使えるでしょう?」
「なるほどね…分かった!じゃあ早速やるわよ!」
霧ヶ谷が見通しの地図を展開してそれにフラムが触れた。そして緋色君のカードをもう片方の手で触ったフラムは目をカッと開いて声高々に言った。
「このイメージの発生源は魔鉱山ね!でも何でこんな場所にマリアがいるのよ?」
「それをこれから確かめに行くんだろ?」
「それもそうね。あんなジメジメした場所から理由がなんであれさっさとマリアを連れて帰るわよ!」
「じゃあテレポートの準備を始めて貰えるかしら?」
「ちょっと待ってね。」
フラムが杖を取り出して紋章を描きあげる。緑色の煌めきが辺りを幻想的に包み込みやがて目の前に大きな空間の穴が現れた。
「これで準備OKよ、後は入るだけ。」
「やっぱりフラムは手際がいいね。」
僕がそう言うとフラムは髪を指でくるくるしながら答えた。
「えへへー。そうかな?」
そんな僕らを呆れた様に見る霧ヶ谷と緋色君。そしてこれから足を踏み入れようとしたその瞬間、扉がまた勢い良く開かれた。
バダン!!!
「見つけたァ…緋色クゥゥウン!!!」
目の焦点は乱れ、恍惚とした表情でヨダレを垂れ流しにしている王城君…いや王城が現れた。
「なんなのよ!あれ!」
悲鳴とも取れるフラムの悲痛な声
「うわぁぁあ!!でやがったな!!変態野郎!!急げ皆、襲われる前に移動しないとヤバイぜ!!!」
緋色君は顔を真っ青にしながらそう言って物凄い速さでゲートに飛び込んだ。
「正直アレの相手は私もしたくないから先に行かせてもらうわ。」
あの表情が変わらない霧ヶ谷でさえ少し顔を歪めならゲートに入っていった。
「フラム、僕らも行こう!アレはヤバイ。」
「分かったわ。早く行ってゲートを閉じないと!」
フラムが先に体を通していき僕が最後に体をゲートに通して閉じ始めたその瞬間、その閉じかけのゲートに手を掛けて無理やりこじ開けた王城が入り込んできたのが見えた気がしたが…。
気のせいという事にしよう。
最後までお読みいただきありがとうございます。
次でなんと40話。我ながらここまで続けられたのに驚いています。
これも読んでくださる皆様のおかげです、本当にいつもありがとうございます。