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魔法使いの行方  作者: 腐れミカン
学院編
38/75

第38話 黒い影









目を開けば薄暗い牢獄、私は四肢を固いの鎖で拘束されて身動きが取れない。


私は何でここにいるんだろうか…分からない


そんな私の後ろから男の声が聞こえる。


「久しぶりだねマリア。」


その声を聞いただけで私の体の震える。


今すぐにでも逃げたいのに体を動かせない。


そして視界に入り込んでくるその男の顔を見て嫌でも分かってしまった。


白髪まじりでサングラスと白衣を見に纏うその姿はあの時から一度も変わっていない。


「なんで……お父様が…?」


私は恐怖を抑えその問いかける。


するとお父様はサングラスを外して一欠片も光の無い黒い瞳でこちらを見ながら微笑む。


「そりゃあ、散々血眼になって探したさぁ。君が逃げてから他の個体で何回か試していたんだがやっぱり完全な再現は出来なくてね。」


再現…。この人は昔、私にやらせた魔法で価値の高い鉱石を作らせる様な事をまだしているのだろうか。


今すぐにでも逃げたい…。折角全部やり直せると思ったのに…またこの暗い鉱山の根本に縛られたく無い。


そして私はこの鎖とあの男ごと魔法で吹き飛ばそうとする。


だけど思う様に魔法を出せない。


「その鎖はマリアの魔法を打ち消す物なんだ。だかは無理に抵抗しない方がいいと思うんだけどなぁ。」


おもむろに目の前で椅子に座ったお父様は足を組み話を続ける。


「前は君を見縊っていたからねぇ。もう逃げられない様に今回は徹底して管理させてもらうよ。」


管理…やっぱりこの人は全く変わっていない。昔に私を利用した時のままだ。


「やれやれ、感動の再会だと言うのに君は黙ってばかりだなぁ?まぁいいさ。おいイービル、アレを持ってこい。」


壁に向かってそう言うと後ろの影から黒いモヤの様な物が人の形を作り現れた。


そして口元を大きく歪めたイービルと呼ばれた黒いモヤが私の方に何かを軽く放り投げてきた。


「…!!」


ゴロゴロと鈍い音を立ててころがってきた。


視界に入ったソレは私の頭部に似た物。無残に目をくり抜かれて首元からは鮮血が滴る。


「君が逃げなければこの子は体を散々滅茶苦茶にらされて野垂れ死ぬ事は無かったんだがなぁ。」


そう言ったお父様は無抵抗な生首を力強く踏み潰した。辺りに肉片が飛び散りそこには原型を留めていない頭だった物があった。


「そんな…私のせいで…人が…死ん…。」


私の体を恐怖と罪悪感がごちゃごちゃにかき混ぜられた様な最悪な気分が支配する。


踠いても動けない。抵抗する事さえ叶わない私はただその場で涙を流すしか無かった。


そしてお父様はこちらに近づいて指で私の目の辺りに優しく触れて涙を拭き取った。


そして淡々とこちらに諭す様に話しかけてくる。


「君もそうはなりたくないだろう?ただ実験に手を貸せばいいんだ。」


私は縛られた四肢をまた必死に動かす。


意味が無いと分かっていても目を背けたい。


今すぐにでもこの暗闇から逃げたい。


でも動けない、そしてお父様は椅子から腰を上げ近くに寄り始める。


そして私の前に来てそっと肩から下までを撫で下ろした。


「…特別なんだ君の身体は。」


そう言った瞬間あの黒いモヤが私の身体に覆いかぶさり目や耳、口と鼻。あらゆる入り口から勢い良く入り込んできた。


「うぅ…。」


息が出来ず身体がガクガクと震え、涙が目から逆流する。


底無しの沼に溺れる様な感覚と私の身体の中に異物が入り込む嫌な感覚。


全部入り終わったのかようやく口は呼吸を開始した。


指をパラパラと動かして目を閉じたり開いたりし始める私の身体。


でもこれは私の意思で動かしているわけじゃない、なのに勝手に動いている。


「ひとまず成功か…。」


そう言って私の身体を縛る鎖を次々と解除していく。


鎖の封印が解かれその場に崩れ落ちる身体、それに嬉々として私に向かって問いかけるお父様。


「イービルよ、その身体の具合はどうだ?」


イービル…今さっきの黒いモヤの事?何も分からない私と勝手に動いて返事をする口元。


「あの気持ち悪い男子生徒の身体よりも使い心地は良いな。ただ俺様が扱う物にしては少々プリティーすぎるぜ…。」


勝手に身体を起こしてそう提言するイービル


そして同時に理解する、この身体は…もう私は私じゃなくなってしまった。


「今は我慢しろ、この実験が終わったらお前に合う器を用意してやるからな。」


「分かったぜ、そんでまずは何からするんだ?マスター。」


その問いにこれまでで一番薄気味悪い笑みを浮かべ答える。


「彼女の中から全ての記憶を消せ。この被験体に余計な記憶は必要無い。」


「こりゃまた酷な事をするもんだ。アンタこのレディの父親じゃねぇのか?」


「父親だからさ。全てを管理する権限がこのヨアキムにはあるのだよ。」


「へいへい。じゃあ始めるとしますかね。」


その言葉のままなら辛うじて意識だけある私が消えてしまう。


嫌だ…そんなのあんまりだよ。


私はまだ外に出てアリスタさん達と友達になれたばかりなのに。


まだお洒落だって買い物だって遊んだりだって…やりたい事が沢山あったのに…。


こんなのって…。


泣きたいのに私の瞳は涙を流さない。

もうじきに全てが私じゃなくなってしまう。


黒いモヤが私と絡み合いドロドロに溶け始めたその時、心の奥底にある何かが私を引き戻す。


「ありゃ…?」


「どうしたイービル。」


「この娘の記憶が誰かに守られてやがる…今までこんな事無かったのに!?」


「どういう事だ、説明しろ!」


「カードだ。一枚のカードが俺様が記憶に干渉しようとすると阻んでくるんだ!」


私の目の前で光わ放つそのカード…緋色さんが持っていた物だ。


もしかして緋色さんが私を助けてくれたの…?


「クソ…この実験は失敗できないのだ。イービルよその身体から出ろ。一度その身体を調べて原因を探究する。何が起こるか分からん不確定要素を残したくは無いからなぁ!!」


声を荒げて慌ただしくこの部屋から出ようするお父様。それに酷く落胆した様に返すイービル。


「でもよ、それじゃ俺様の器は?!」


「そんなの後回しだ!早く出ろ!」


「チェッ…。」


絡みついた黒いモヤは勢い良く離れて外に出始めた。溺れるような感覚とは反対で何かを吐き出す様な嘔吐感。


そしてその場に倒れた身体。


「クソ…ダストめ…マリアに紋章で何かを仕込んだのか…?いや…それとも別の誰かが…分からない。分からないぃい!!!」


何かをぼやきながら勢い良くドアを蹴飛ばして部屋から出て行ったお父様。


「ちょっと…どこ行くんだよ!待ってくれよマスター!!!」


それを追いかけて行くイービル。


…この部屋に残っているのは私だけになってしまった。

最後までお読みいただきありがとうございます。


少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。


後2話で40話となります、ここまで頑張れたのは皆様のおかげです。本当にありがとうございます。

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