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魔法使いの行方  作者: 腐れミカン
学院編
35/75

第35話 のんびりディナー

(マリア視点)





あの後、私は闘技場で魔法を使って砂を出してぐるぐる動かしたりして操作精度を上げられるように特訓した。


一方隣にいる緋色さんは私が特訓してる時からずっと持っているカードを触ったりしかしていない。


彼の方から特訓しようと誘われたのに全く何もする気配が無いので何の為に来たんだろうとさえ思えた。


そんな事を考えていると緋色さんは闘技場の窓際からこちらの方へ顔を向けてこう言った。


「もう外も暗くなったしここら辺で特訓は終わりにしようか。」


何て人なんだろう。


確かにあのAランクの生徒を重力の魔法で圧倒するくらいの実力があるのは分かったけれど基礎鍛錬を全くしないのは怠けだと思う。


だけど彼の言い分も分かる、私も学院修理とかとは違った魔法の使い方をしてかなり疲れたから今日はここら辺で終わるのもいいかもしれない。


「そう…ですね…帰りましょうか。」


「おっとでも帰るのには早いと思わないかい?」


妙にこちらに近づいてきた彼は首を傾げながらそう言った。だけど私はそこそこ特訓して疲れたので部屋に戻りたい。


「でも…疲れたし。」


「だからだよ今回特訓初記念として一緒にディナーでもどうだい?折角だから俺が会長の分も奢るよ。」


駄目だこの人、全く私の言う事を聞いていない…多分ちゃんと話しても聞いてくれない。


もうこの際大人しく言う事を聞いて夜ご飯を奢ってもらう方のが楽かも知れない。


「はぁ…分かりました。」


「よーし、じゃあそうと決まったら俺のお気に入りの店までレッツゴーだな!」


カードを無表情で触ったりしていた時に比べてやけにハイテンションなのがなんか怖い。


だけどもう私に退路は無くなってしまった。覚悟を決めていくしか無い。


「はい…。」


そして私たちは闘技場を後にした。



「ここから出て街に行こうと思うんだけどさ、会長の権限でなんとかならない?」


そして私たちは学院の門の前まで来たのだけどそこで緋色さんが衝撃的な事を言い出した。


「えっ…学院を抜け出す?!」


驚く私にウィンクとピースをしながら自信満々に彼は言葉を続ける。


「前にも何回か出てるし大丈夫だよ。」


なんなんだこの人…私がこの学院の会長だと知っているのだろうか。


「でも…規則には無断外出は…禁止されているから…守らないといけないと…思う。」


「まぁまぁ、そんな堅っ苦しい事言わないでよ。もう門を開けちゃったしさ。」


そう言われて私はハッとなり彼の後ろにある門の方に目を向けると…なんとその錠前は床に落ちていた。


「いつの間に…ってこれは規則違反ですよ!」


勝手に門の鍵をこじ開けるのも勿論規則違反である、一応建前とはいえこの学院の会長なのでヒイロさんにキチンと注意をする。


「おし、じゃあ行くか!」


そう言ってヒイロさんは私の腕をがっしり掴んで門を通り抜けた。それにつられた私も体が門の外に出てしまった。


「もうなんとでもなれー!!!」


規則を破ってしまったはずなのに何故か凄い爽快感が私の中にある。なんか色々吹っ切れたかも知れない。


そんな私に向かって緋色さんは満面の笑みでこう言った。


「今の会長、最高に輝いているぜ!」


相変わらずこの人は訳が分からない事を突拍子も無く言うのだと思いながらも何故か少し嬉しい様な感じもする。


「もう…馬鹿な事言ってないで…早く行きましょう?」


「それもそうだな。じゃあ行こうか!」


そして私は初めての夜の街を体感することになるのだった。



魔法で光る色鮮やかな文字を掲げる店に嫌と言うほど眩しい街頭の立ち並ぶ、そんな私にとって初めて見る様な物ばかりの街に来た。


そんな街を歩く人々も皆テカテカとしたスーツやらドレスを着る人もいれば何かのマスコットキャラクターの着ぐるみを着ている人もいて何とも多種多様だ。


「おいおい会長、さっきから目をキョロキョロさせてるけど大丈夫か?」


「始めて来たので…つい。」


「なるほどな、まぁ始めて来たんならその反応も分かるぜ。折角だし飯を食べ終わったら街を見て回るか?」


何とも魅力的な提案なのだろうか。もう規則なんてどうでもいい気がしてきた。


今はそれ以上にこの街に対する興味や好奇心が溢れ出してくる。


「いいんですか…?」


「勿論さ!何たって俺たちはタッグだぜ?楽しい事は共有しなきゃね。」


キラキラした街の光よりも何故か緋色さんが輝いている様な気がした。


「その…ありがとう…ございます。」


「おう!」


そして私たちはこの光る街中の人混みを掻き分けながら奥へ奥へと進んで行った。



「着いたぜここが俺のお気に入りの店だ。何食っても旨い上に何よりも安い最高の店だぜ。」


「おぉー…?」


彼がそう言っている店はこの街の中では何とも地味でひっそりとしている様な雰囲気のある物だった。


だがその店の看板にRYOURI店とアルファベットで書かれており何とも言えない不安感が襲いかかってきた。


しかし緋色さんがその店の扉を開いた瞬間そんな不安は吹き飛んで行った。その隙間から流れる美味しそうな香りが私の食欲を沸き立てる。


私はその香りにつられて店の中に足を踏み入れた。



中はわりと綺麗な作りで木や石をうまく使い分けられていてなんともスッキリしている。


だけどそんな店なのに何故か体格の凄いガッチリしていて目線のすごい悪い人が腕を組んで立っている。


少し怖くなった私はすかさず彼の体をそのおじさんの方に差し出した。


するとその怖そうなおじさんは緋色さんの目の前まで来てヤケに固い営業スマイルを浮かべながら話しかけてきた。


「おっ、いつもの兄ちゃんじゃねぇか?それに後ろのお嬢さんは連れかい?」


この人…お店の人だったんだ。


「まぁそんな所だぜオーナー。今日もいつもの…頼むぜ?」


ヤケに格好付けながらそうおじさんに話しかける緋色さん。それに対しておじさんは合点承知と言わんばかりのグッチョブを彼の方に向けた。


「OK…それとそっちのお嬢さんはどうするんだ?」


どうしよう、私はこの店に来るのは初めてだしどんなメニューがあるのか分からない。


私がそんな感じに悩んでるとヒイロさんがオーナーにこう答えた。


「俺と同じ物を頼む。」


「OK…席はいつもの場所を開けて置いたぜ。」


「サンキューオーナー。」


緋色さんがそう言うとおじさんは店の奥の方に言ってしまった。


このおじさんは強面な見た目に反して緋色さんの変な言葉遣いに乗っかってるから意外とノリがいい人なのかも知れない。


「じゃあ奥に行こうか。」


「分かりました…。」


そして私たちはこのお店の奥へと進むと木の丸テーブルに二つのソファ、アンティークなランタンの照明のある席に着いた。


そして緋色さんは雑にその片方のソファに腰掛けた。


「まぁ会長も座りなよ。」


「そうですね。」


そう言われて私も残った方のソファに腰掛けた。堅そうな鉄の椅子なのに見た目に反して意外と座り心地がいい。


落ち着いて来たのと同時に少しだけ疑問が浮かんだので聞いてみる。


「…どうして私を連れて…来たんですか?」


「それは仲良くなりたいからさ、フラムやにアリスタ君とはよく話すけど会長とはあんま接点が無かったからこの機会に作っておきたいな〜…なんて。」


「そうですか…。」


緋色さんはフラムさんとタッグを組みたく無くて私と組んだのかと思ったけれどそれは違ったみたいで意外だった。


「他に何か聞きたいことがあれば何でも聞いてくれていいぜ?」


軽い口調でそう返して来た緋色さん。


私自身もこの人と初めて会った時より話すのが少し楽になった気がする。


折角なのでどうやって緋色さんが魔法を使ってるのか聞いてみようかと思う。


「じゃあ質問です…。緋色さんは魔法をどうやって使ってるんですか?」


そう言ってみると緋色さんはこれまでに見せた事の無い困った様な表情になっていた。


「えーと、なんだろな。俺のは魔法とは少し違う物なんだよね。」


そう答えた緋色さんは懐から一枚カードを取り出して机の上に置いて話を続ける。


「俺はこのカードに魔法の情報を記録したり似た様な感じに再現する事が出来るんだ。こんな感じにね?」


そう言った後緋色さんはカードに触れた、するとそのカードに小さな光が灯りその光から銀色のフォークが出てきた。


「これが緋色さんの魔法じゃない力…なんですか?」


「あぁ、これは異能って言う魔法とは違った別の力なんだ。普段はあんまり使う事は無いんだけどね。」


どういう条件でこの力が使えるのかは分からないけどこれがもし事実なら彼がCランクにいるのはおかしい。


「ならなんで凄い力があるのにヒイロさんはCランクにいるんです?」


「それは多分俺自身の魔法の才能自体は大した事が無いからだと思うぜ?だから魔法が基準のこの学校だとCランクって扱いなんじゃないかな。」


「なるほど…。」


そんな感じに雑談をしていると隣から今さっきのおじさんが料理を持って運んできてくれた。


「お取り込みの所悪いね、注文の品を持って来たから置かせてくれ。」


「分かったぜオーナー。」


おじさんは私達の席に料理と食器を置いてまた奥の方に戻って行った。


そして並べられた料理、プレートの上に色鮮やかな山菜や小さなトマトパスタそして卵とお肉が載っているチキンライスが盛り付けられた凄く美味しそうな感じ。


近くにジューシーなお肉の香りが私の食欲を揺さぶってくる。


「凄く美味しそう…。」


「だろ?俺はコイツが一番大好きなんだよね。」


緋色さんはそう言いながらモシャモシャとランチを食べ始めた。少し意地汚い感じがするけどそれも分かってしまうくらいに美味しそう。


「いただきます。」


手を合わせてからスプーンに手を掛けチキンライスを救い上げて口に運ぶ。


中で絡み合うお肉と卵の甘味、そしてスパイシーなチキンがお互いをバランス良く主張していてそれぞれの個性をうまく引き出していて絶品だ。


「すっごく美味しい!」


思わず言葉になってしまう程この料理は美味しい。普段から寮で出されるランチとは比べ物にならない美味しさだ。


「だろ?それに旨いのはチキンライスだけじゃ無いぜ?その山菜サラダやパスタも上手いんだ。」


そう言われて私は名残惜しくもチキンライスから離れてサラダをフォークで刺して口に勢いよく放り込む。


瑞々しい山菜にぱっと見だとあまり気付かない無透明なドレッシングが混ざり合って奏でる最高なハーモニーとでも言うべきだろうか。


そして更に私はパスタをフォークに絡めて口の中に入れた。このパスタもトマトの風味をそのままに残した王道な味がして美味しい。


ほっぺたがとろけると言う言葉はこの為にあるに違いないとさえ思える。


きっと今私は凄く顔がとろけてる。


「会長がそうなるのも無理は無いさ、この店の料理そのランチはNo.1だからな。」


緋色さんが何か言っている様な気がしたがそんな事も気にならないレベルで美味しい。


だけど食事にもやがて終わりは訪れる。



緋色さんが会計をしている間私は今さっき食べたランチの余韻に浸っていた。


多分あれば最高級の五つ星ランチか何かに違い無いと思う。それくらいに美味しかった。


「お子様ランチ2点で300になります。」


何かお子様ランチって聞こえたような気がしたけと多分気のせいだ。緋色さんが小銭をジャラジャラ出してたけどきっと気のせい。


「ありがとうございました。」


会計を終えた私達は夜でも明るく賑やかな外に出た。


「すっごく美味しかったです…。誘ってくれてありがとうございました。」


お腹も心も満たされて私は今凄く幸せだ。隣にいる緋色さんもなんだか凄く満足そう。


「礼なんて要らないさ。それと街を見て回る件はどうする?」


私は今凄い満腹感と昼からの特訓の疲れが一気に出て来て凄く眠い。街に興味は凄くあるんだけど今日はここら辺にして部屋に戻りたい気持ちがある。


「何だか眠くなってきちゃったので…また今度でお願いします。」


「おう、じゃあ今日はもう戻るか。」


そして私達は帰る為、学院を目指してゆっくりと歩み始めた。

最後までお読み頂きありがとうございます。


少しでも楽しんで頂けたなら嬉しいです。

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