第31話 それぞれの強さ
「じゃあ次はアタシが魔法を使うから何か気になる所があったら言ってもらおうかしら。」
そう言ったフラムは指で紋章を描き始めた。
「紋章って指で描けるものなの?」
「普通の人は空間に紋章を描くことが出来ないけれどアタシは特別だから出来るのよ。」
「特別ってどういう事?」
「アタシがお爺様の孫だから出来る事なの。ただそれだけ。」
淡々と語りながら紋章を描き終えた彼女は声高々に呪文を叫ぶ。
「ボルケニックフレイム!」
紋章は煌めき物凄い熱気の炎を呼び起こし岩の方へ勢いよく吹き飛んで行く。そして着弾したその炎は岩をその高温で簡単に溶かす。
「すごい炎だ。」
率直に思った事を伝えるとフラムは自虐する様に答えた。
「そんな事無いわ いくら炎の威力が強くてもアタシはお爺様の孫でありながら炎しか使えないポンコツだし。」
何故フラムはそこまでダスト校長と自分を比べてしまうのだろうか。
「無理に比べる事は無いと思うよ。人それぞれなんだからさ。」
僕はフラムの負担が軽くなればと思って言葉を伝えたら想定外の反応が彼女から返ってきた。
そしてフラムは少し目を下げて不機嫌そうに呟いた。
「何よ偉そうに…アンタにアタシの何が分かるの?」
「フラムがどんな悩みを抱えているかは僕には分からない、だけどその悩みを誰かに話すだけでも少しは楽になれるんじゃないかな。何なら今ここにいる僕が話を聞くよ。」
僕は彼女の目を見据えて心の底から問いかける。誰だって弱い部分はあるんだからずっと強がったまま人は生きていけない。
だったらそれぞれの人同士でその弱い部分を補えたならどれだけいいだろう。
そしてフラムは下げて赤い瞳をゆっくりと僕の方へ合わせた。その奥には不安が入り混じっている。
「本当に聞いてくれるの?」
「うん。ちゃんとフラムの話を聞くよ。」
「笑わない?」
「笑わないよ。今から話す事が君の本当の悩みなら絶対笑ったりしない。」
深い深呼吸をしたフラムは改まった様に姿勢を正してきた。それにつられて僕も背筋が伸びる。
「アタシは実はお爺様と血が繋がっていないの。」
「…本当?」
「うん、身寄りのなかったアタシを引き取ってくれたのが今のダスト校長…つまりお爺様なの。」
「そうだったのか。」
「それでお爺様は邪龍を倒したりこの学院を創立して色んな人を助けた凄い立派で強い人だからアタシもそんなお爺様みたいに強い人になりたいって思ったの。」
「ダスト校長みたいに…ね。」
「だけどその資格はアタシには無かった。お爺様はほぼ全ての属性魔法を使えるのにアタシはこの炎だけ。だから周りの才能がある人の事を嫉妬して恨んで…。日に日に自分の事がある嫌になっていったんだ。」
そしてフラムは自分の思いを語り続ける。
「アタシはちっとも強く無い。お爺様みたいに強くなりたいのにその資質が無い…ねぇアリスタ、アタシはどうすればいいと思う?」
薄らと涙ぐんだ瞳をこちらに向けるフラム。彼女はずっと良くも悪くもダスト校長という存在からプレッシャーを受けていた。
そして誰よりも憧れに追いつけない自分を嫌っている…これは僕と同じだ。
だけど彼女と僕の追い求める強さは違う。
フラムのいう魔法の強さと僕の求める人の中にある優しさという強さ。
僕の中で彼女に伝えたい言葉が浮かび上がった。それが正しいか間違ってるかは分からないけれどそれを伝えてあげるのが今僕に出来る事の一つだ。
「ダスト校長も確かに偉大で強い魔法使いかも知れない。だけどそれだけが強さじゃ無いと思うんだ。」
「どういう事?」
僕に疑問を投げかける彼女は普段からは想像出来ない程その背中が小さい。
「悲しんでる誰かに寄り添ってあげたり、困ってる時に助けてあげれるのもまた一つの強さなんじゃ無いかな。」
それでも彼女は自分の事を否定してしまう。
フラムの誰にでも強く当たってしまう行動の奥には不安があったのかも知れない。
誰かと繋がりたいのにその手を弾いてしまうそれがフラムという不器用な少女なのだろう。
「そうだったとしても…アタシにはその強さだって無いに決まってるわ。」
だけどそんな彼女でも僕が困っている時にすかさずペンやノートの切れ端を貸してくれた。彼女のその小さな優しさだって立派な強さの一つだ。
「そんな事無いよ。フラムは僕が困っている時にペンとノートの切れ端を貸してくれたじゃ無いか。だから僕は分かる、君だってその強い人の一人なんだよ。」
「そうかな…。」
「そうさ、だからダスト校長とは違ったフラム自身の強さを見つけて伸ばして行こう。そうすればいつか憧れだって追い越せるよ!」
僕の言葉を聞いたフラムの瞳からは不安や迷いが少し薄れている様に思えた。
そしてこちらへ振り返り僕に話しかけてくるフラム。金色の髪は風にさらさらと靡いていてその赤い瞳は輝きを取り戻している。
「アリスタ、そのありがとう。アンタが話を聞いてくれたおかげで自分の中の迷いが振り切れたわ!これからアタシまた頑張ってみる!」
どうやらフラムの中にあったモヤモヤが晴れたみたいだ。少しだけ…僕もアルテミアさんみたいに誰かを助けれる人になれたのかもしれない。
「お役に立てたなら嬉しいよ。」
「よーし!じゃあまた一緒に特訓しよう?」
元気を取り戻したフラムはこちらに手を差し出してきた。
「そうだね。」
僕はその手を掴みまたフラムと共に魔法を鍛える為の特訓を始めるのであった。
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