第26話 バトル?
勢い良く扉を開き中に入ってきた緋色君はズケズケと僕とフラムの間に入り込んで来た。
「いやー死ぬかと思ったわ。」
マリアもそれを見てこちらに数歩だけ探る様に近づいてきた。
「大丈夫…?」
マリアの問いかけに対して緋色君は胸をドンと戦いで自身ありげに答えた。
「おう!思ったよりも大丈夫みたいだ。」
想像以上に元気そうに体を動かしている緋色君。僕はそんな彼を見て安心した。
「そうなんだ、緋色君が死ななくて良かったよ。」
僕がそう投げかけると緋色君は冗談っぽく言葉を返してきた。
「おいおい、悪い冗談はよしてくれよ。流石に乗り物酔いだけで俺は死なないぜ?」
「…それなら…良かったです。」
マリアもホッとしたのか少し落ち着いた様に胸を撫で下ろした。
そんな彼女の様子を見た緋色君は更に調子に乗ってヒートアップしていく。
「ははは、大丈夫さ。フラムみたいな奴に魔法で燃やされでもしない限り俺は死なないぜ?」
得意げに手をヒラヒラとしながら語る彼だがまだ自分が過ちを犯した事に気づいていない様だ。
だが僕の方をソッと見て目線を合わせてきたマリアは事の重大さが分かっているらしい。
そして僕とマリアはお互いでジェスチャーして少しずつ移動しながらこの教室から外に出ようという意図を伝え合う。
そしてソーっと僕らがその場から移動を始めた瞬間フラムは炎が燃えがる様に怒り狂いながら緋色君に向かって言葉を投げ飛ばした。
「何?もしかしてアンタはアタシの魔法で燃やされたいって事なのかしら?」
不味い、緋色君はこのままだと完全に死ぬ。
そして近くにいるマリアは切羽詰まった様に僕に伝えてきた。
「私達でルイ先生を呼ばなきゃ…教室が燃えて大変な事になっちゃう。」
「そうだね。だけどこのままにしてたら先生が来るまでに絶対に教室が悲惨な事になりそう…。」
「確かに…うーん…どうしよう。」
僕らが悩んでいると緋色君はようやく事の危うさに気付いたみたいで必死に弁論を始めていた。
「いや…えっとだな?その。例えで上げただけでフラムにそんな事は…あんまり思ってないというかそのだな」
そんな風に弁論する緋色君の言葉に割り込みながらフラムは煽る様に緋色君に言葉をぶつけた。
「フン!もっと強気になったら?意気地無しのへっぽこ。」
なんとも低レベルな罵倒なのだろうか、こんな子供でも乗らないレベルの挑発に緋色君が乗る訳なんて…な
「なんだと〜?言ってくれたなこのジジイコンプレックスめ!」
なんだろう、言葉を少し包んで言うのなら
どうやら緋色君は少し子供っぽいみたいだ。
そしてそれはフラムも同じみたいで緋色君の言葉を聞いた瞬間席から思い切り立ち上がり机をバンと叩いた。
「言ってくれるじゃない?なら今からアタシとアホの緋色のどっちの魔法が上か決めるわよ!!最もアンタは魔法が使えないからアタシに勝つことなんて出来ないけど?」
最後の最後に煽りを入れる事を忘れない辺り相当ジジイコンプレックスと言われた事が腹に立ったのかもしれない。
「なんだとこのバカ女!やってやるぜ!お前をコテンパンに倒して泣きべそかかせてやるからな!!!」
そんなフラムに対して緋色君も懐から赤いカードを何枚か取り出して声高々と勝負する事を宣言してしまった。
ここまで来てしまったらもう僕とマリアの手に負えるレベルではない。
お互いが臨戦態勢に入っておりフラムは巨大な紋章を描いていて緋色君はカードを彼女の方に向けて構えている。
「…あぁ助けて神様……。」
「マリア?嘘でしょマリアぁ!!」
隣で一緒に一部始終を見届けていたマリアは教室が燃えるという悪夢に一気に近づいた為精神的負荷が掛かってしまったのかその場に倒れてしまった。
僕はそんな彼女を抱えて戦線を離脱した。このままこの場所にいたら巻き添えを喰らう事は間違い無いからだ。
そして僕らが出て行く事なんか全く眼中に無いあの二人組は机を蹴飛ばしてお互いが間合いを保っていた。
「行くぜ!フラムお前のその偉そうな態度をブン殴って直してやるぜ!!」
緋色君がカードを握っていない方の腕で握り拳を強く突き上げながら叫んだ
「来なさいアホの緋色。この教室ごとアンタを燃やし尽くしてあげるわ!!」
そんな緋色君に対してフラムも物凄い剣幕で緋色君の方に紋章を向けた。
「うぉぉお!!俺は!!アホじゃねぇええ!!!!」
かくして突然戦いの火蓋は切られてしまった。僕はその戦火を背にしてマリアを抱えてなるべくこの戦場から離れ始めた。
そして同時に僕は心の中で願う、どうか神様この戦いが僕とマリアの方に飛び火しませんように…と。