第24話 パニック
砂の波に揺られながら僕らはドンドン学院の方に近づいて行く様な感覚がある。
そしてその速さゆえに前からは強い風が吹き抜けていくのだが僕の被っているとんがり帽子は吹き飛ばされる様な事はなく風に靡くだけだ。
そんな事を不思議に思ったがアルテミアさんから貰った物だから多分魔法か何かが掛かってるのかもしれない。
「ねぇマリア、後どれくらいで着く?」
「…もうすぐで…着きますよ。」
マリアがそう言ってからしばらくして波は動きをピタッと止めた…だが上に乗っている僕にはまだ速さが残っている為体ごと吹き飛ばされそうになる。
「うわぁ!」
足と胴体が空に浮き上がり振り落とされそうになったが僕の両手を包み込む砂がガッチリと指を離さなかったので何とか振り落とされずに済んだ。
マリアが魔法で僕を支えてくれなかったら多分振り落とされて大怪我をしていただろう。
「…大丈夫ですか?…アリスタさん。」
「あはは、マリアが助けてくれたおかげで何とかね。」
僕は落ちそうで凄く怖かった感情を紛らす様に笑いながらお礼をした。
そして砂の波から手を出して地面に降りるとめのまえには昨日見たあの大きな学院の建物が建っていた。
そしてそれを眺める僕に向かって手を差し出してきたマリア。
「…なら…良かったです。…じゃあ行きましょう…私たちのクラスに。」
「うん!」
僕もそれに答えて手を握り返した…その瞬間物凄い音と共に何かがこっちに近づいて来た。
ズゴゴゴゴゴゴゴ!!!
その音の方を見るとなんとそこには波にかろうじて乗っかっている…というよりもしがみ付いている緋色君がいた。
そんな彼だが遠目に見える顔色は青白く生気が全く感じられない…。このままだと彼が死んでしまうかもしれないと思った僕はマリアに伝える。
「マリア急いで波を止めるんだ。このままだと緋色君が危ない!」
「…分かった すぐ止めるね。」
彼女が慌てながらそう言った瞬間波の動きはピタッと止まった。そして急いでその波の方にマリアと僕は駆け寄った。
「大丈夫?緋色君!」
グッタリとその場に倒れている緋色君、相変わらず顔色は悪い上なんだかとても辛そうだ。
「緋色さん…ごめんね。少し波の速さが…速すぎたかも知れない。」
マリアの呼びかけを聞いたのか緋色君は口を少し動かしてこう言った。
「乗り物酔いし…ゔぉろろろろろろろ」
しかしその言葉は最後まで聞く事は出来ず緋色君はその場で口から大量のゲロを吐いた。
「「緋色君!!」」
これは本当に何か大変な事だ!!今のままだと緋色君に命に危険が伴ってしまう。
「急いで緋色君を保健室に運ば無いと!!マリアは足の方を持って!僕は頭の方を持つから!」
少し手がゲロで汚れそうで嫌だけど今はそんな事を言っている場合では無い。汚れと命を天秤にかけたなら絶対に命のが重い。
「…分かった!」
マリアが足の方を掴んだのを確認してから僕は掛け声を掛ける。
「行くよマリア。1…2…3!!」「3!」
少しタイミングがズレたが何とか緋色君を持ち上げる事に成功した。そして僕らは彼を持ち上げながら急いで保健室の方へと向かうのであった。
〜
何とか学院の門を潜り抜けてそこそこのペースで緋色君を運んでいたのだが長い廊下を進み保健室の目の前まで辿り着いた。
行儀が悪い事を反省しつつ足で扉を開き中にいる人に声をかける。
「すいません!友達が倒れてしまったので診て貰えませんか?!」
そこの机に座っていた人はすぐに振り向き僕らの方に顔を見せた。そして僕はその顔を見て驚いた。
そこにいたのは紛れもなくルイ先生だったのだ。
「なんだって?!詳しい事は後で聴こう。それよりもその友達とやらを急いでベットの上に運びたまえ!」
「分かりました!」
僕とマリアがベットに緋色君を降ろした。
そしてルイ先生はそのグッタリとしている緋色君に何かの魔法を掛け始めた。
するとみるみる顔色が良くなり辛そうだった表情が安らかに変わった。
「…これで緋色さんも…大丈夫そう。
「本当にそうだね。」
僕らはお互いホッと一息をついているとルイ先生が話しかけて来た。
「それでどうしてこうなったんだい?少し事情を説明してもらえるかな?」
ルイ先生は少し怒っているような表情で僕らに聞いて来た。そしてしばらく沈黙が続いてからマリアが口を開いた。
「…その…私が遅刻しそうだった…彼を魔法で…運んであげようとしたら…あんな事に。」
マリアは申し訳なさそうに頭を下げながらそう言った。だけどこのままマリアだけ怒られるのは違うと思った僕は更に言葉を挟む。
「マリアに魔法を使うように指示したのは僕です。彼女だけが悪い訳じゃ無いです!」
僕らの話を聞いたルイ先生は少しため息を吐いてから語り始めた。
「はぁ…。取り敢えず悪意があって彼をああした訳じゃ無かったから良しとしよう。」
「本当ですか?!」
ルイ先生は僕の言葉の後に少し付け足した
「ただし、これからはこんな事にならないように普通に登校しなさい。いいね?」
「「はい…。」」
僕らは同時に返事をしたその後しばらくしてからルイ先生は席から立ち上がった。
「そろそろ授業が始まるから教室に移動しようかアリスタ君、マリア君。」
そう言って来たルイ先生に対して僕らは話を返した。
「分かりました、でも緋色君はどうなるんです?」
「緋色君を…置いてなんて…行けません。」
僕らの言葉を聞いたルイ先生は僕らを安心させるように少し笑みを作った。
「彼なら大丈夫さ。後でもう一人の先生がこの保険室を受け持つからね。当番制だからね、ここの保険室は。」
「なるほど、なら大丈夫そうですね。」
そして僕らは緋色君を保険室に残して自分の担任であるルイ先生の後に続き教室に移動するのであった。
今年もこれで最後ですね。
来年も皆様が良いお正月を過ごせますように。