第23話 寝坊
窓から差し込む朝の太陽に照らされて目が覚めた僕は二段ベッドから降りた。
そして二段ベッドの下の方で未だにグッスリと寝ている緋色君。
「緋色君起きて!多分このまま寝てたら遅刻するよ!」
緋色君の体を揺さぶって見るけど全く起きる気配が無い。仕方ないので僕は先にクローゼットに入っているこの学院の制服を着る。
そして鏡の前に立つとそこには身の丈に合わないぶかぶかな制服を着た僕が見える。
「ぶかぶかじゃ無いか。」
そんな事を一人呟きながら鏡を見て袖やズボンの裾を折りたたみ自分の身体のサイズに合わせた。これで少しはマシになったかもしれない。
「ん“ー!!!」
僕の背後から声にもならない呻き声が聞こえて咄嗟に振り返る。するとそこには体を伸ばしている緋色君がいた。
「なんだ緋色君かぁびっくりした。」
「ははは、おはようアリスタ君。それと驚かせてごめんよ。」
「いや、大丈夫だよ。それよりも今日の授業は何時ごろから始まるんだい?」
「あぁ…授業ねぇ。」
緋色君は時計をソーっと眺めて徐々に顔色が悪そうになっていく。
「ヤバイ!このままだと遅刻する!!アリスタ君急いで支度を…ってもう着替えてるじゃん!ヤバイ!急がないと!!」
「その遅刻って本当なの?」
「本当さ。この学院の朝の授業はかなり早いんだよ、昨日自分で言ったのにこんな事になるとはね…。」
僕がアルテミアさんから貰ったとんがり帽子を被り札付きの杖を持って最後の準備を整えている間、隣で忙しそうに準備をする緋色君
服を雑に脱ぎ捨てて学院の制服に手を通してズボンを素早く履く緋色君の動きは目にも止まらぬ速さだもしかしたら光よりも早いかも知れない。
「OK、準備完了!行くぞ」
「これから急いで走っていけば間に合うかな?」
僕の問いかけを振り向き移動しながら答えた緋色君、彼は僕が少し目を逸らした間にもう玄関の方にいた。
「いいかいアリスタ君 間に合うかじゃ無い。間に合わせるんだ。」
やけにかっこいい台詞を吐き捨てて玄関口まで移動した緋色君は靴に足を突っ込んでいる。
僕も急いで玄関に向かって靴を履いた。そして制服のボタンを止めてキチンと着る。
「じゃあ行こうかアリスタ君。」
「うん!行こう!」
僕らは扉を開いてそこから走り出した。
〜
僕らが廊下を走っていると入り口の辺りが見えてきた。そこには昨日待ち合わせをしたマリアが居た。
「おはようマリア!ごめん遅れた。」
「大丈夫…それより急がないと…遅刻しちゃう。」
「アリスタ君は会長と知り合いなのか?」
僕らが話している所に緋色君も言葉を差し込んできた。
「知り合いというよりも友達だよね。」
「うん…友達。」
「いいねぇ、なら俺もアリスタ君の友達な訳だからそのアリスタ君の友達も会長も友達という訳になるな。」
よく分からない理論を得意げに語る緋色君、どうやら僕は気付かない内に彼と友達になっていたみたいだ。
「分かった…なら貴方も友達。正直…名前知らないけど。」
少し可哀想な事を言われた緋色君だがそれも無理はない。出会ってすぐそんな事を言われても困ると思う、僕だって多分そうだ。
だがめげずにニコニコ笑いながら話を繋げる緋色君。
「俺は緋色 蓮。会長やアリスタ君と同じCランクの生徒さ。覚えてないかい?」
自分の髪を指でくるくるしながらそれなりにポーズを決めてそれっぽく振る舞う緋色君をマリアはジーッと見つめる。
「緋色 蓮…?思い出した…この学院に来る時の試験で…山頂の杖を拾わずに店で買った杖を持っていった人だ。」
指をビシィっと指してそういうマリア。これが本当なら緋色君は何とセコい人物なのだろう
「ちょっ、覚えてくれてたのは嬉しいけれど何でそこなの!」
すかさずツッコミを入れる緋色君、だが残念な事にその杖を買ったという事は事実みたいだ。
そしてそのツッコミに対して更に追撃を喰らわせるマリア
「それ以外…特に印象に残らなかったから。」
「はは、そこまでハッキリ言われるとしょぼくれちゃうね。」
トホホという感じに落ち込む緋色君とそれを見て少し困惑しているマリア。
だがお互いなんだか楽しそうである。
しかし今は入り口で立ち止まって話をしている場合では無い。ここは僕が心を鬼にして言わねばならないだろう。
「あのー、二人とも。楽しそうに話すのもいいけれどそろそろ時間に間に合わなくならない?」
「んなぁ!!そうだった。完全に忘れてだけれどマズい!」
「だよね!どうするのさ!!」
僕らが嘆いていると外に出たマリアが紋章を描き魔法を使い始めた。
その紋章からは大量の砂の粒が流れ落ちてきて目の前でそれなりの山を作る。
「マリアどうしたの?」
「私の魔法で…早く学院まで…行けるの。アリスタさん、その砂の上に乗って。」
「おぉ。」
僕が砂の上に体を置いたらその砂が波を作る様に動き始めた。
「…よっと。」
マリアもその場から飛び上がり僕の後ろに乗った。彼女の体がとても近くにあるのでなんだか恥ずかしい。
そんな風に考えていた僕の方に緋色君の嘆きの声が聞こえる。
「あのー!俺も乗せてよー!」
そう問いかける緋色君に対してマリアは凄く申し訳なさそうにこう言った。
「今乗っている波は…二人乗りなの。ごめんなさい。代わりにもう一つ波を…置いておくから。」
「うそーん!」
〜
なんとも言えない緋色君のその声を後にして砂の波は凄い速さで動き始めた。僕はその波の中に自分の腕を突っ込んで必死に掴まる。
「速い!凄い速さだ!!」
「大丈夫、私がちゃんと…アリスタさんが…落ちない様に…支えるから。」
腕の辺りにある砂の粒一つ一つがまるで意思を持っている様に包み込む。
すると今さっきまで振り落とされそうだったのが嘘みたいに体のバランスが安定した。
「ありがとうマリア。」
振り向き彼女の方を眺めてそう言った。
「…私もありがとう…誰かと一緒に….登校するのが夢…だったんだ。」
「そっか、僕がその夢を叶える手助けを出来たなら嬉しいよ。」
僕はマリアの事を見つめて少し照れくさいけれど思った事を伝えた。
そして僕の言葉を聞いたマリアはそっと僕に微笑み返したその頬は少し赤い。
「私も…」
「うぉおおおおおおおおお!!!!!ひぃえぁぁぁあああああああああああああああ」
マリアの声を遮る悲鳴を上げながら隣から超高速の砂の波に乗って現れた緋色君。
彼は片手でなんとか波にしがみ付いているがもう既に落ちそうになっている。
「む…いいとこだったのに。」
少し頬を膨らませてムスッとしたマリアは緋色君の方に紋章を描く。
すると残された片手の方に砂が覆いかぶさった。多分今の僕と同じように緋色君の体を固定したのだろう…ただ片手だけである。
まだ緋色君はプラップラ落ちそうで落ちない微妙な状態のままだ。
「いやぁぁ片手だけは無理だってぇええ!」
そのまま緋色君の乗る波は僕らを追い越して先に行ってしまった。
「緋色君!!!」
「多分…大丈夫。」
緋色君を心配する僕にマリアが肩をポンと叩いてそう言った。
果たして緋色君は大丈夫なのだろうか…色々不安ではあるが今はマリアの魔法で作られたこの波での移動を楽しむ事にした。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
少しでも楽しんで頂けたのなら嬉しいです。