第22話 眠れる天使
その後僕らは学院寮の中に入った。外の朽ち果てている外見に反して中はそこそこ綺麗なので驚いた。
そしてズラーっと並ぶ沢山のドア。学院寮というだけあって部屋数が想像以上に多い。
「今日僕はどこの部屋を使えばいいんだい?」
僕の問いかけにマリアは答える。
「奥に空き部屋があるので…そこを使ってください。」
マリアがそう言って左の通路の奥の方を指差した。どうやら入口からかなり離れた場所みたいだ。
「分かったよマリア。」
「今日はもう遅いので私は部屋に戻りますね。アリスタさん部屋でゆっくり…休んでください。」
「そうだね。もしマリアが良ければなんだけれど明日一緒に登校しない?」
「いいですよ。待ち合わせ場所は…どうしましょうか?」
僕は少し悩んで周りを見渡す。この学院寮はこれと言って特徴がないので待ち合わせ場所にするには少し難しい
なので絶対に通る場所…つまり学院寮の入り口なら目印として問題ないのでそうする事にした。
「じゃあ明日、学院寮の入り口で会おう。」
「はい…また明日…です。」
マリアは少し微笑み手をそっと上に上げた。僕もそれに答える様に手を上げ返した。
〜
マリアと別れてから僕はその部屋の前まで来た。これからここが自分の部屋となる場所だと思うと少しワクワクする。
僕がドアノブに手を掛けて扉を開くと中は何故か明るく照明で照らされていた。
そして奥から少し物音がして聞き覚えのある声がする。
「お、どうやら君が新しくこの部屋の同居人になる新米君なのかな?」
同居人という言葉から察するにどうやらこの寮の部屋は二人…もしくは三人で一部屋なのかもしれない。
声の主はこちらに近づき僕を見るなり少し驚いた顔をした。
「って?!アリスタ君じゃないか。なんでこんなところにいるのさ?呪竜を倒した君ならAクラスだろうと思ってたのに!」
とても不思議そうな声で疑問を吐き出しているのは緋色君。前にフラムと会うときのアドバイスとサポートとしてカードをくれた身嗜みのしっかりした青年だ。
「えっと…僕もCランクだったんだよね実をいうと魔法はからっきしなんだ。呪竜も運で倒した様なもんだし。」
緋色君はこちらを気遣う様な仕草をした。
「まぁ、奥に入りなよ。立ち話もなんだしね。俺の方からも色々聞きたいしさ。」
「分かった、じゃ お邪魔します。」
僕は緋色君に連れられて部屋の奥の方まで移動した。質素な二段ベッドとシンプルな椅子が二つ置いてある。
緋色君はその片方のベッドに寝転がり話を始めた。
「いやぁ。大変だったろ?フラムの相手。」
「あはは…まぁね。死ぬかと思ったよ。」
緋色君は軽く笑いながら飄々と語り続ける
「だよな、実は俺も一回殺され掛けたんだ。初めてここに来たときにね。」
「そうなんだ。ちなみに緋色君ってなんでこの学院に来たの?やっぱり魔法が使える様になりたいから?」
緋色君は僕の問いに少し悩んでから口を開いた。
「あー、何というか俺の場合自分で来たくて来たっていうよりも無理やりここに飛ばされたって感じなんだよね。」
「それって?」
緋色君は途端に真面目な顔をして言った。
「いいか?笑わないで聞けよ実は俺この世界の人間じゃないんだ。ある日突然ここに呼び出された転生者って奴で…ってアリスタァ!」
僕はなんだか彼が真面目な顔をした事に反して話した事が浮世離れしていた事が面白おかしくてつい笑ってしまった。
「ご、ごめんよ緋色君。悪気はなかったんだ…ただ話の内容が余りにもぶっ飛んでたからつい。」
僕の弁解を聞いた緋色君は軽く笑って言葉を返した。
「ははは、別に気にしなくてもいいよ。ここに来てから俺がこの事を話しても誰もこの話を信じてくれなかったからな。そんな事よりもアリスタ君はなんでここに来たんだい?」
緋色君からそう言われて今色々思い出すとここに来るまでの全部が懐かしい。
アルテミアさんと笑いながら楽しく過ごしていたあの日々を思い出すと少し寂しさを覚えた。
「僕は自分の恩師が遠くに発生した歪みのある場所に戦いに行っちゃったから帰ってくるまでの間ここで過ごす事になったんだ。」
僕がそういうと何となく励ましてくれる様な喋り方で緋色君は言葉を返した。
「来た理由が何であれ俺たちはCランク同士の仲間だ。これから一緒に頑張ろうぜ。」
「ありがとう緋色君。」
「まぁな。それより今日はもう寝ておいた方がいいぜ?明日の学院の授業はかなり早いからな。」
緋色君は僕よりも長くここにいるいわば先輩の様な存在だ。その彼がそう言うのだから早めに寝る事が一番最善なのだろう。
僕は自分の被っていたとんがり帽子を外して呪符まみれの杖を余っているベッドに置いた。
「俺はもう寝るからアリスタ君も寝る準備ができたら電気を消してくれ。」
「分かったよ緋色君。それと着替えってどうすればいいかな?」
「クローゼットの中にパジャマやら制服やら色々入ってるからそれを着るといいよ。俺もその中に入ってるのを着てるしな。」
「なるほど。教えてくれてありがとう。」
僕はアルテミアさんからもらったローブを脱ぎ柔らかな素材で出来たパジャマを見に纏った。
そして脱いだローブはシワにならない様にクローゼットの中に掛けておいた。
これで準備満タンだ。あとは二段ベッドの上の方に上がって照明を消すだけ。
僕は梯子に手を掛けて二段ベッドの上の方に登って電気の紐に手を掛けた
「じゃあ電気を消すね。」
「おう!」
電気が消えて真っ暗になった部屋。窓から月の光が入り込み今が夜だと言う事を実感させてくる。
僕は紐から手を離して体を楽にした。
今日だけで色んな事があったな。緋色君やフラムやマリア…そしてルイ先生との出会い。
これからまた頑張らなくちゃ。
〜
電気が消えて暗い校長室にいるにいる一人の老人とスーツを着て身なりの整っている男性。
「来たかね…ルイワード君。」
「はい、ダスト校長。今回はどんな御用で?」
「アリスタの事じゃ。彼について君はどう思う?」
「どう…ですか。実に面白い生徒だと思われます。」
「どの点がかね?」
「彼は自身の描いた紋章の一部を魔法以外の何か別の力で打ち消している…点ですかね?今まで見てきた生徒には無かった特徴です。」
「やはりな…あの呪竜を倒すくらいだから何かしらの資質はあると思っていた所じゃ。よいか彼から目を離すなよ?」
「問題ありません、彼自身の資質だけならばBランクに匹敵していますが私の監視下に置ける様に事前に手を打って置きましたので。」
「ふむ…ならばよかろう。下がって良いぞ。」
ルイワードは校長室の扉から出て行った。それを確認したダストは一人不敵な笑みを浮かべていた。
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