第20話 ランク
僕らは少し話をした後、彼女はその場からそっと立ち上がった。
「では…試験官の先生の…場所まで移動…するのです。」
「分かった、そうしよう。」
僕も座り心地の非常に良いソファから体を起こしてその場から立ち上がる。
試験官か、果たしてどんな見た目をしていてどんな性格の人なのだろうか?
僕らは生徒会室から出て廊下を真っ直ぐ進んで突き当たりを左に曲がり外に出た。
「うわー!広いね。」
「ここは校庭なのです。試験官の先生はその先にある…闘技場にいるのです。」
そう言って彼女の指差した方向にはこの広い校庭の中で大きな存在感を放っている建物があった。
その建物が闘技場らしい、そしてどうやらクラス決めの試験はあそこで受けるみたいだ。
しかし今の僕の魔法がどこまでいけるのか分からないしそもそも自分でもうまくコントロール出来ないし…非常に不安だ。
「なるほど、あそこに着いたら試験かぁ。凄く緊張するなぁ。」
僕の不安を聞いたマリアは励ます様な仕草で語りかけてきた。
「大丈夫です。アリスタさんなら…きっといい結果が出ますよ。」
彼女の励ましを受けて僕は少し自信を取り戻す事ができた。うまく出来ても出来なくてもそれが今の僕の実力なら受け入れて頑張ろうと思った。
「ありがとうマリア。おかげで少し自信が付いたよ。」
「なら…良かったのです。」
そして僕らは闘技場へ向かって行った。
〜
闘技場の前まで来ると目の前にある大きな門が凄い迫力を放っていた。
「えっと、この先だよね。」
「そうそう、でも目の前にある門じゃなくて…隣のドアから中に入るの。」
マリアに言われて僕は門の隣側を見た。するとちっぽけで古臭い扉がちんまりとそこにあった。
やっぱりあの門での移動だと面倒だからこんな扉を付けたんだろう…でもそうなら果たしてあの門に意味はあるのだろうか?
「取り敢えず色々疑問はあるけど進もう。」
僕はそのちんまりした扉を開き中へと進んだ。レンガの壁と石のタイルの床が遠くまで広がっているそこに一人の男性がいた。
「おや、マリア君どうしたんだい?こんな所に来て。」
「先生。ここにいるアリスタさんが…転入してきたので試験をして欲しいのです。」
マリアがそうお願いするとその先生は考え込むような仕草をしながらその場でウロウロした。
「ふーむ、なるほどねぇ。」
まるで僕を見定める様ななんとも言えない感じでこちらを見るその先生。
「よろしくお願いします!」
僕も腹の底から声を振り絞って頭を下げて先生にお願いした。
「いい心意気です。正直少し悩みましたが…良いでしょうアリスタ君。今から試験を開始しますけど問題は無いですか?」
「大丈夫です お願いします。」
マリアは僕のそばから離れて闘技場の席に座った。多分試験の邪魔にならない様にという彼女なりの配慮だろう。
「では…始めます。今アリスタ君の使える魔法全てを見せてください。」
「分かりました。」
僕は緊張を手で抑えながら杖で紋章を描き上げた。現れた紋章はいつもよりもキラキラと緑色の光を放っている。
「行きます。ファイヤー!!」
紋章は更に光を増して中から小さな炎を放った、だけどその炎はやっぱりしょぼい。
「ふむ。炎魔法の適性はあり…と。」
先生は何かを呟いてからまた仕切り直す様に言った。
「次の魔法があれば使ってください。」
「はい。」
僕は新たに紋章を描き下ろした。今度の紋章は少し形が小さくなってしまったけれど気にしないで魔法を使う事だけを集中する。
いつも油ばかり出るけれど今回はちゃんと水が出てくれ…と頭の中で強く念じながら口を開いた。
「ウォーター!!」
紋章は緑色に煌めきを放ち中から大量の水…ではなくドロドロした油をブチ撒けた。
「アレは油?…一体どういう事だ?アリスタ君。もう一度その魔法をやって貰えますか?」
やっぱり駄目だったのかな。少し悲しくなって目線を逸らすと席に座っているマリアが見えた。
マリアはこちらに手を振りグッチョブのジェスチャーをしてくれた。
彼女のおかげでまた少し頑張れそうだ。
「分かりました。もう一度行きます。」
紋章を描き下ろしてまた同じ様に杖を構えて口を開きその自分で定めた呪文を言う。
「ウォーター!!」
紋章は緑色に煌めき中からまた大量の油が現れた。今さっきの油も消えていないので闘技場は油まみれになってしまった。
「うーむ。判断が難しいですがここでは水魔法の適性は無しとしましょう。」
さっきと同様また何かを呟いてからまた仕切り直す様に僕に先生は喋った。
「まだ有ればお願いします。」
僕は紋章を描き下ろして白色に瞬く光を思い浮かべて腹の奥から言葉を振り絞った。
「ライトニング!!」
紋章は物凄い煌めきを放ちその中から極太の極光を放つビームを撃ち放った。
そのビームは闘技場の壁に直撃して大穴を開けた…しかしその討議場に空いた大穴はすぐに自己再生して治った。
「まさか…これほどまでとは。光魔法の適性がとんでもない位にある。これはまた凄い逸材が来た者だな。」
また前みたいに何かを呟いてから先生がこちらに喋りかけてきた。
「まだありますか?」
「いえ…もう無いです。」
「では試験を終了します、お疲れ様でした。」
先生は何やら不敵な笑みを浮かべて話を続ける。
「結果を発表します。貴方の魔法ランクは…Cつまり私の担当するクラスの生徒になる訳ですねぇ。」
どうやら僕はこの目の前にいる人の生徒になるみたいだ。魔法ランクCって事はマリアとも同じクラスなのでなんだか安心。
それにしても魔法ランク….C。まだ魔法が全然駄目だから退学とかじゃなくて本当に良かった。
ほっと胸を撫で下ろしたら先生がこちらに手を差し伸べてきた。
「改めて自己紹介をしましょう。私はルイワード・オプティマス・ナガミナギスと申します。」
長い!
なんて長さなんだ!こんな長いと全然覚えられないよ!
「えっとルイワード・オプティマ…?」
ルイワード先生は僕を諭す様に語りかけてきた。
「覚えられなければルイ先生で構いません。私はそんな気にしないですしね…。」
物凄く鬱々とした表情を浮かべたルイワード先生。どうやら彼は余りにも長すぎる本名が故に誰からもちゃんと呼ばれた事が無いのかもしれない。
「分かりました。こちらこそよろしくお願いします!ルイ先生」
なんか申し訳ないと思いながらも結局覚えられる自信が無いので僕はそのルイ先生と呼ぶ事にしたのであった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
とうとうこの作品も20話を達成致しました!
ここまで読んでくれた皆様に感謝!!