第15話 シンクロ
目の前は真っ暗で自分の体の周りに手を伸ばしても何も掴む事が出来ない。
そして確かにある嫌な浮遊感と落下する感覚が混ざった気持ちの悪さ。
嫌な感覚に戸惑っていると突然音も無く目の前に現れた大きな鏡が僕の全身を映し出す。
そこに映るとんがり帽子を被った銀髪碧眼の少年の姿。
間違いなく自分の筈だ…なのに鏡に映る僕は戸惑っている僕とは正反対で嫌に落ち着いた顔をしている。
透き通る硝子の様な瞳と純白に煌めく銀色の髪…そして中性的な顔立ち。
まるで全部が作り物みたいだ。
そう考えていた僕に向かって鏡に映る僕が口を開いてこう言った。
「もう気付いているんだろう?」
冷や汗が止まらずその鏡を必死にみない様に必死に目を逸らす
僕は…何だった?
僕という存在そのものが何なんだ?
「記憶を失って森に倒れていた?違うね…君はもう分かっているだろう?君には元々記憶が」
バリン!
鏡の僕が語っていたその刹那 鏡は音を立てて割れた。勢い良く割れたその鏡は辺りに破片を撒き散らした。
その破片が鏡から目を背けていた僕の方の床へと転がってきた。
僕は恐る恐るその鏡の破片を覗き込んだ。
そこには中身のない人形が写っていた。
〜
「うわぁぁぁあ!!!!」
僕はその場から勢い良く起き上がった。何だか物凄く恐ろしい夢を見た気がする。
なんか頭の中がぐっちゃぐちゃにかき混ぜられた様な変な気分だ。
頭の整理が追いつかないものの僕は本能的に周りを振り向いてあの暗い場所では無い事を確認する。
「よかった…夢か。」
どうやらここは個室の様な場所で僕は今その個室のベットの上にいる。
質素な壁と天井に周りを囲む地味な灰色のカーテンがあるので病院の様な場所なのかも知れない。
「ふぉっふおっふぉっ。中々元気そうで良かったわい。」
カーテン越しから嗄れた老人の声が聞こえた、その声に既視感を覚えた僕はそのカーテンの向こうの人物に問いかける
「貴方は…ダスト校長?」
僕の問いかけに応える様にカーテンが開かれた。その先には僕の予想通りの人物 ダスト校長がいた。
そしてダスト校長の後ろにある扉の所に医務室と書いてあったどうやらここは学院の中みたいだ。
「そうじゃよアリスタ君。体の具合はどうかね?」
僕はそう言われてから腕やら足やら首やら腰やらをガシガシ動かしたけれど全く問題は無かった。
「なんとも無いです。それよりダスト校長、あの竜は試験の一環ですか?」
ダスト校長は額にシワを寄せて厳格な表情を浮かべて声色を低く語り始める。
「アレは完全なイレギュラーじゃ、お主が戦ったあの竜は一体が千人の魔法使いに匹敵する力を持ちうる恐るべき存在…呪竜じゃ。」
どうやら僕はとんでもない奴と戦っていたみたいだ。
「なんでそんな危ない竜があんな場所に居たんです?」
「分からぬ…ただその竜は杖に封じられておったんじゃが、アリスタ君が山を登るのと同時にその封印を解いた者がおった事だけは確かじゃ。」
杖ってあのお札とか色々大量にくっ付いていたいかにも不穏極まりない空気を醸し出しているあの杖の事か。
「そうなんですか…それでその呪竜はどうなったんです?」
「あぁ、その呪竜ならばお主が戦って弱らせてくれたおかげで楽に封印できたわい。ほら見たまえ。」
ダスト校長は徐に杖を取り出してこちらに見せてきた。前見た時よりも更に杖にお札の数が増えて更に気味が悪くなった。
そんな風に考えていた僕にダスト校長は話を続ける。
「この中に封じられている呪竜をほぼ倒したお主にならこの杖を託しても良いと思っておるんじゃがどうかの?」
正気か?その呪竜を倒したと言うよりもその呪竜が自滅して僕はそれに巻き込まれてしまったというのが正確な所だと思うのだが。
「えっ…困りますよ。」
「そうか…なら転入の話は無かった事にさせて貰おうかの?」
「いやいやいや。それは困ります!!」
そういえば竜と戦っていた事ですっかり忘れていたけれど僕はあの山に転入試験の為に行ったんだった。
そしてその山で死にかけたというのに転入を取り消させれたらたまったもんじゃない!
「ならこの杖は頼んだぞい!」
ダスト校長は僕にそのお札塗れのトンデモな杖を手渡してきた。そして返そうか悩んでいる間にダスト校長は紋章を描いていた。
「じゃあアリスタ君 そういうなんでよろしくのぉ。それとこの学院の事はワシの孫娘フラムから聞くと良いぞ!」
「あっ…ちょっと!まだ話したい事が!!」
僕はまだ聞くべき事が沢山ある、この杖に秘められた呪竜の詳細だとかそのダスト校長の孫娘の身体的特徴だとか。
「ほんじゃ、またの〜。」
色々聞くべき事ばかりなのにダスト校長は紋章を潜り抜けてどこかへ行ってしまった。
なんてこった、僕はこれからこの広い学院の中でどんな見た目かも分からないフラムという人を探さないといけないみたいだ。
最後まで読んで頂きありがとうございます。