第10話 新たなる旅立ち
なんとか修理を終えた僕はアルテミアさんに呼ばれて部屋に移動した。
そしてお互い椅子に座り向き合った。
「アリスタ君、少し真面目な話をしてもいいかな?」
そういうアルテミアさんの声は真剣そのものだ。僕も気を引き締めて背筋を正した。
「はい。大丈夫です!」
少し間を置いてからアルテミアさんは口を開いた。
「魔法学院に行く気はないか?」
「魔法学院…?」
「あぁ、魔法学院は魔法の性質から使用方法まで教える学校の事だ。君の魔法使いになりたいっていう夢の支えとなるだろう。」
「それは凄いですね!でもなんで突然そんな事を?」
「それはだな。実をいうと私はしばらくこの家から離れて遠くに行かなきゃならないんだ。」
「歪み…関連ですか?」
「うん…そうなんだよ。新たに現れたその歪みが余りにも強大なので各国の指折りの魔法使いがそこに集結する事となったんだ…勿論私もね。」
「そうですか…。」
「私は遠くからしか応援出来ないが君が魔法使いになれる事を祈っているよ。」
「…でも僕はアルテミアさんと別れたくないです。貴方は僕に魔法、魔法使いとしての誇り生き方…全部を教えてくれた 先生です。」
僕は必死にアルテミアさんを止めようとした。本当は離れた方が彼女の為になる事は分かっている…だけれど僕の中の感情が理性を押し潰した。
「そう言ってくれると…照れるな。じゃあしばらくの間だけでいい、私が帰ってくるまで魔法学院に居てくれ。必ず迎えに行くよ。」
アルテミアさんは優しく微笑んで僕の頭を優しく撫でた。
「アルテミアさん…分かりました。僕も学院に行きます。でも必ず迎えに来てくださいね?」
「わかった、約束する。」
彼女と指を重ねて約束を交わした。
そして僕はこの約束で心の中で決心を固めた。
「それと…これを持っていくといい。いずれ君の役に立つ時が来るだろう。」
そう言ってアルテミアさんは頭に被った中折れのとんがり帽子を僕に渡した。
「はい…。」
帽子を受け取った僕はそれを被った。魔法使いとしての象徴を受け取ったのだから頑張らなきゃならない。
寂しさを心の奥に押し込む。アルテミアさんだってきっと寂しいはずなのに…なんであんなに優しく笑えるのだろう。
やっぱり僕はまだまだ未熟だ。この学院に行ってまたアルテミアさんに会う時にはもっと自分を磨いてから自信を持って会えるようになりたいと願う。
アルテミアさんは杖で転移魔法を描いた。
初めて僕が体験した魔法なのでどこか懐かしくも思える。
「この紋章を潜った先には学院がある。校長とは先に話をしてあるから最初に会いにいくといい…。」
「分かりました。僕も学院で頑張ってまた会う時までにアルテミアさんを超えられるような立派な魔法使いになります!だから…アルテミアさんも頑張って…くだ…さい。」
頬から涙が流れ落ちて声が詰まってしまった。寂しさを抑えようとしたけれど…ダメだったやっぱり僕は弱いや
「大丈夫、涙を拭いて…。アリスタ君ならきっと私を超える凄い魔法使いになれるさ。だから胸を張って行きなさい。」
涙を腕で拭って自分にできる精一杯の笑顔を作って少しでもアルテミアさんを安心させようとする。
アルテミアさんもそんな僕に優しく微笑み返してくれた。
「はい…じゃあ。行ってきます!今までありがとうございました!」
「うん、応援しているよアリスタ君!頑張れ!!」
僕の視界は緑色の煌めきに包まれて行った。この光に懐かしさと優しさそして寂しさがあるような気がした。
〜
「あぁ…行っちゃった…かぁ。」
一人になってしまった私はそっと呟き床に落ちた三人の魔法使いという本を見つめた。
三人の魔法使いのお話でも怠け者の魔法使いのアリスタは一番最初に旅に出てしまうという事を思い出してなんだか感慨深く思う。
私の住む森で出会った少年は行ってしまった、時間で言えば本当に少しの間でしかないかもしれない。
だけれどアリスタ君と過ごしていたその少しが何よりも充実していて暖かかったのだとすごく実感して寂しくなった。
いけない、少しナイーブになってしまった。
アリスタ君も一歩踏み出したのだし、私も最大級の大きさを誇る新しく現れた歪みの魔物と戦わなきゃならないんだから頑張らないと!