第1話 目覚め
そこは魔法を使う人々が住む不思議な世界。そんな世界にある日突然歪みと呼ばれる穴が何もない場所に突然開きこの世の物とは思えない異形の化け物が現れ人々を襲い始めた。
その化け物に対抗すべく人々の中から魔法に秀でた者が魔法使いとなり歪みから現れる怪物と戦い始めていた…。
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不愉快な浮遊感と共に身体はゆっくり落ちていく。浮遊感と共に身体から何か大切なモノが抜け落ちていくような何とも曖昧な感覚。
空っぽになった身体は行き先も知らぬまま世界へ溶け込んでいく、まるで元々そこに居たかの様に…。
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第一話 新たな目覚め
目が覚めた。僕の瞳に映る生茂る木々とその隙間からうっすらと差し込む木漏れ日。今自分がいるその場所は自然豊かな森だった。
何故この場所に自分がいるのか…それに自分が何者であったかさえ分からない。途方に暮れた僕はただその場で立ち尽くしていた。
その場所でしばらく立っていると風が僕の体を擦り抜ける。不思議で優しい感触、誰かに抱きしめられている様な温かな気分。
「はじめまして、旅人さん。」
そして背後から聞こえる女の人の声。振り返るとそこには背丈に合わない大きなローブに身を包んだとんがり帽子を被った少女がいた。
「あ、えと…はじめまして。」
突然現れた少女に戸惑いながら情けない声を出してしまった。
そんな僕を微笑みながら木漏れ日に反射して煌めく金色の瞳で見つめる少女。風に靡いて赤色の髪がサラサラと流れる様に揺れた。
「私はアルテミア・ローレンス貴方のお名前は?」
「その、僕には記憶が無いんです。だから何でここにいるのか…とか名前が何なのか…とかさっぱり分からないんです。」
「それは残念。じゃあ私が貴方に名前をつけてあげましょう!」
さらっととんでもない事を語った彼女は凄くノリノリだ。何というか金色の瞳がキラキラと輝いていて凄く嬉しそうな声をしている。
「そんな無茶苦茶な。」
「大丈夫、何も本当に名付ける訳じゃないわ。それに名前が無いと色々不便だろうし、記憶が戻るまでのあだ名みたいなものと思ってくれればいいわ。」
今さっきとは打って変わって冷静さの感じられる声色だが…瞳がおもちゃを買ってもらった子供の様にキラキラとしている。
正直初対面の人に名前を勝手に付けられるのはあまり良いとは思えないけれど…。
「…確かに僕に名前が無いのは困る。」
アルテミアさんが言うとおり僕の記憶が戻るまでの僕に名前が無いのは困る。
名前は自分が自分である事の証明であり自分という存在を確立する大事なものという認識が僕にはある。
だから一時的な物だと割り切る事にしよう。
「でしょでしょ!それに立ち話も何だし私の家にでも来る?」
「そうですね…。僕もアルテミアさんに色々話を聞きたいので。」
僕の承諾と共に舞い上がったアルテミアさんはウキウキと左右にゆらゆら揺れている。
初対面なのにどうしてこんなに僕との距離が近いのだろう?
そんな疑問を浮かべているうちに彼女が手に持つ大きな杖を空に掲げ何かの紋章を描きはじめた。
「じゃあ行くよ〜!大丈夫一瞬だから!」
「へ、一体何を?」
「転移魔法陣展開!!」
「うわっ!」
彼女が杖で紋章の中心部をトンと叩くと空間がひび割れどの色とも呼べない不思議な色の光が僕と彼女の周りを包み込む。
眩い光だけの視界はやがて全てが黒色に包まれる。そして生暖かい感覚と体が妙に浮きそうな微妙な浮遊感と不快感が体の中をかけ巡る。
この感覚に近いものを僕は知っている…。それが何であるかは分からないけれど。
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「お〜い!大丈夫?」
「う、うぅ…ここは?」
今さっきいた森とは全く違う場所、そこはどこかの室内でアンティークな絨毯とかソファや机が飾らせている。
「ここが私の家だよ、いらっしゃい。」
「凄い…原理はさっぱり分からないけど凄いや!これなら世界中のどこにでもひとっ飛びじゃないですか!!!」
「まぁね、私ほどの魔法使いともなればこれくらい容易い事なのさ。」
自信満々に胸を張り偉そうな素振りをするアルテミアさん、その仕草一つ一つが何というかその子どもっぽい感じだ。
しかしその仕草に反してここまで瞬間移動させるとんでもない力を持っているみたいだ。
「あの…もし良ければ。僕にその魔法を教えてもらえませんか?」
「いいよ〜。」
軽っ!この人はあんなヤバイ力を教える事に躊躇いがないのか…?
そんな事を考えていたらアルテミアさんがこちらの口を指で押さえて言った。
「ただし私の事を先生…と呼ぶ事!いい?」
自分よりも恐らく歳下の少女に対して先生と言うのは少し躊躇いがあるが…あの力 魔法を知る為ならば仕方あるまい。
それに僕は今 彼女の使った魔法に惹かれたのだから。
「分かりました、先生。」
「よろしい 明日から特訓だ。」
「え、今日は?」
「今日は君に私の家の掃除をしてもらおう。一人暮らしだとかなり散らかってしまうのでね。そろそろ掃除してくれる人を探していたんだ。」
どうやら今日一日はこの家の掃除をしなければならないみたいだ。
初投稿
散歩中にそこそこ壮大な話が思いついたので書いてみたりしました。文章自体書くのが苦手なんですけど頑張って行きたいです。