Ⅱ-13 初めてのお泊り
■旧シュターナー伯爵居館 来客寝所
夕食はケイジやペーター達と一緒に取った。
宮殿ほどではないが充分に美味しいものだった。
美味いがゆえに、村で食べた麦粥の匂いと味が思い出される。
最近はハンスと食事をして独りの食事からは解放されている。
だが、一緒に食事をしても大して楽しくは無い。
ハンスは黙っているか、国事の話しかせん。
今日はケイジたちと一緒で何か聞けるかと期待したが・・・
誰も、何も、話さん。
俺が質問をすれば返事は返ってくるが、ただそれだけだ。
まったくもって、つまらん。
親友たちは返事が出来ぬから、それよりはましだが、会話にはなっておらん気がする。
しかし、俺自身も何の話をすれば良いのか、実はわかってはおらん。
そもそも、国事以外で何の話を皆はしておるのだろうか?
ふむ、これは宿題じゃな。
明日の馬車の中でキースやペーターに聞いてみることにしよう。
ん? ペーターは独り身だったか・・・
「ところで、お前たちも宮殿の外で一緒に泊まるのは初めてじゃ。この館の居心地はどうじゃ?」
「・・・」
二人とも床で寝そべっている。
当然返事は無い。
いつものように、黒狼はこちらを見つめているが、白虎は目も開けん。
まあ、良いのだ。
今日ははじめてのお泊りだ、宮殿と違う場所で少しは気が晴れた気がする。
今日は一人でベッドに入ってみよう。
うむ、何事も試してみねばな。
■皇帝専用馬車
俺の乗る馬車は、ほどほどの速度で宮殿への道を走っている。
昼前には到着するらしい。
昨晩はやはり寝付けなかった。
途中であきらめて布団をベッドから引き摺り下ろした。
親友達は喜んで・・・、多分だが、喜んで俺の横に来てくれた。
二人に挟まれていると安心できる。
自分が、いや、誰も死なないような気がする。
朝、部屋に来たメイドは床で寝ている俺を見ても何も言わなかった。
単に寝相が悪いと思ったのなら良いのだが・・・
朝食で出されたパンは、俺が宮殿で食べるものよりも随分と固かった。
ケイジが言うには、宮殿のパンは特別な粉で焼いているので、同じものは無いと言う。
同じものを食べているとも思っていなかったが・・・、実際のところ俺は宮殿以外の領主や民の生活を全く知らないと言うことだ。
それがはっきりしただけでも、ここに来た意味はあったと思う。
昨日のうちに、料理長に焼けるだけのパンを焼くように頼んで途中の村へ運ばせた。
麦粥よりは美味いはずだ、村の民も喜んでくれたであろう。
あいつらの黒玉が白玉に変ったことを祈ろう。
「キースよ、宮殿では食事を何処で取っておるのだ?」
「私は宮殿の食堂でいただいております。近衛兵や他の使用人達が使う場所でございます」
「ペーターも同じであるのか?」
「はい、陛下。私も同じ食堂でいただいております」
「ふむ、そなたたちは食事の時にどのような話をしておるのだ?」
「・・・」
「何も話はせんのか? 咎めておる訳ではないぞ。 単に知りたいだけじゃ。ならば、ケイジは家で食事をする時はどのような話をするのだ?」
「さようでございますね、例えば今日なら、行って来た領地の話や、陛下がパンを民に配った話などでしょうか・・・」
-どれも、仕事の話のような気がするが。
「そうであるか、キースよ。何も話さぬ訳ではないであろう?」
「恐れながら、私も陛下と民や館の者たちとの話でございましょうか。いずれも感動いたしましたので」
-嘘ではないのだろうが、聞きたいこととは違う。
「ならば、何処にも行かず、宮殿におった日は何の話をしておるのだ?」
「・・・、やはり陛下のご様子について等でしょうか?」
「ペーターはどうなのじゃ?」
「私はそもそも、人と話すのが好きではございませんので、ほとんど話はいたしません」
-聞く相手が間違っておったか・・・
「時にペーターよ、そなたには新しい仕事を頼む予定にしておるのじゃ」
「ありがたき幸せでございます。どのような仕事でございましょうか?」
「うむ、この国で優秀な人材を育てる仕事じゃ。今回もウラールから来ている王子に相談して、わが国に合った仕組みを作って欲しいのじゃ」
「人材を育てる? 仕事でございますか・・・」
「まだ、わからんでも良い。少しずつ考えていけばよいのじゃ。上手くいかぬとも、責めたりはせぬから安心せよ」
そうだ、決して責めはせぬ。
領地を見てきたがウラールと同じ仕組みは無理であろう。
領地単位で推挙するとしても、わが国では、使える人材は貴族達の中にしかおらんのだろう。
民自体を育てることが必要なのであろうな・・・




