1話_5歳児の施政方針
■リーブル皇国 皇帝謁見の間
-バンッ!
おれは小さな可愛い手で、椅子をたたいた。
目の前の3馬鹿大臣は、不毛な議論をやめて、こちらに眼を向ける。
「陛下、いかがされましたか?」
「あー、結論から言うと摂政は要らぬ。」
「バ、何を仰いますか、幼い陛下に国事を行うことなど出来るはずがございません。」
「確かにな、そうかも知れんが、貴兄らの中から一人選ぶのは難しい。よって、当面は摂政不在で余が執務を行う。」
「そのようなことは・・・」
「黙れ、貴様は余の命令に従わぬと言うのか?」
「決して、そのようなことはございません。が、・・・」
「案ずるな、貴兄らの心配は良くわかる。摂政不在は6ヶ月としよう、その間の貴兄らの働きで誰を摂政にするか決めようではないか。」
3馬鹿大臣は顔を見合わせた。
「そこでじゃ、3日間の貴兄らの話を聞いておると、わが国には大きな問題が二つあるようじゃ。1つは、北の帝国の問題。もう1つは内政での税収の問題じゃな。」
3馬鹿大臣は驚きの表情をうかべる。
「で、あれば内務卿アルベルト シュターナー伯爵、貴兄は1ヶ月以内に税収問題を解決する案を持って来い。」
「外務卿グスタフ トットナム伯爵、貴兄は1ヶ月以内に外交で北の帝国からの侵攻を止める案を持って来い。」
「軍務卿のミハエル エイバッハ男爵、貴兄は1ヶ月以内に軍略で北の帝国を打ち破る案を持って来い。」
「貴兄らの持ってきた案で最も良い案を優先して取り上げよう、そしてその案が6ヶ月以内に上手くいけば、そのものを摂政とする。以上だ。」
あー、だるかった。
俺は玉座から降りて、白虎にまたがって部屋を出て行く。
後ろで3馬鹿がなんか言っているが、聞く耳は無い。
ところで、乗っている白虎の毛ざわりは最高だ。
黒狼も大好きだが、毛ざわりは白虎が圧倒的だな。
とりあえず、執務室へ行って、お菓子と茶をもらおう。
可愛いメイドのマリーが優しくしてくれるはずだ。
マリーは数少ない白玉を頭にうかべている。
生まれた頃から俺の世話をしてくれて、俺のことが大好きらしい。
もう一人の俺は、マリーの胸と腰が最高だといって、触ろうとしやがる。
これ以上俺の品格を落とすのは勘弁して欲しい。
ソファーでマリーを横に座らせて、茶を飲んでいるとノックをして銀髪のハンサム君が入ってきた。
近衛侍従ハンス グリーンヒル子爵だ。
こいつも白玉だ。
こいつの爵位は先王が取り立てたものらしいが、先王が死ぬ前に近衛侍従にして、俺の面倒をみるように言い含めていたそうだ。
もう一人の俺が言うには、良いヤツだがつまらん。
そう言うことらしい。
「陛下、本当によろしいのですか? 摂政を置かれないと言うことで。」
「ああ、構わぬ。貴兄がやりたいならそれでも良いが。」
「いえ、私は近衛侍従の職を全ういたします。」
「それでは、早速執務をお願いいたします。先王崩御により、決裁事項がたまっておりますので。」
そういって、ハンスは大量の書類を部下に持ち込ませた。
俺の机の上に山積みにする。
無駄な会議で疲れたと言うに・・・
「余は文字が読めぬ。順に読み上げろ。」
「承知しました。ではまず西方の河川氾濫の件ですが・・・」
50件ぐらい聞いたが、48件はハンスに任せた。
2件は保留にした。
1件は北の帝国に対する防御を固める徴兵の件。
もう1件は増税の件だ。
いずれも、1ヶ月以内に3馬鹿が案を出せばそれにあわせて考える案件だ。
ハンスは有能だ。任せた案件の事後報告も聞いているが、全く異論は無い。
摂政でよいのだが、本人は先王の命にそむくと言って、やる気が無い。
無能なヤツはやる気があるのに・・・
「案件は以上でございます。しかるに、3大臣への指示ですが、皆様ご指示に従って案をお持ちになるでしょうか?」
「余の命である。持ってくるであろう。来なければ・・・」
「いかがされますか?」
「即座に処断する、勅命違反だからな。貴兄はその可能性があると思っておるのか?」
「高い確率で。」
「で、あれば、次の大臣を考えておけ。」
「かしこまりました。」
ふむ、黒玉が減るのであれば大歓迎だな。
5歳児を舐めるなよ。




