第29部分 巡りに巡って
4/28:一部の変更を行ないました。
旧:2,990字 ⇒ 新:2,670字 改稿前と比較し 317字 減少(2025/06/02)。
ー・ー・ー
「ちょっといいかな。君に聞けばいいと言われたんだ」
「ひょっとしてアレか?」
「ええ、アレですよ。ここじゃ人目に付く」
「そうだな、付いて来てくれ。残念なことに今手持ちがなくてね」
手持ちがないことには想定外だったが、ひょっとしたら貯蓄場所が分かるかもしれないと思い多少面倒ではあるが彼の警戒の緩み切った無防備な背中について行く。
「どれくらいほしい?」
「まずは少しでいいかな。続けるかわかんないし....限界突破」
「んぐっ!」
「首を切るのも楽じゃない…思った以上に貯め込んでたな。ありがたい」
しばらく歩いて隠し場所に着いたのか地面を探り出し、物を確認した瞬間騒がれぬよう口を押え一瞬で仕留める。多少暴れられたせいで腕を引っかかれたがこれくらいは痛くも痒くもない。むしろ、白粉をため込んでいたことに気が持ってかれて感謝して帰路に就く。
―・―・―
時は遡り13年前。ベリアムがまだ青年の頃だろうか。
「最近羽振りがいいそうじゃないか、冒険者でうまくやっているのか?」
「なんだよ父さん、家にも金を入れたほうが良いのか?」
「いや、自分で稼いだお金が自分で使うといい」
「父さんだけには言うけど、実は冒険者で稼いでいるわけじゃないんだよね」
「ほう、商才でも開花したか?」
「学校で友達に教えてもらってね。これだよ父さん」
机にそれが入った小さな紙袋を置く。差し出された紙袋の封を取ると中には白い粉が少量だけ入っていた。
「ショーン、これは禁止されている白粉?」
「当たりだよ父さん!警備隊に昔入っていたから詳しいね」
「学校で教えてもらったのか?」
「父さんもこの商売をしてみないか?あっという間に稼げるよ」
「....なんで、なんでこんなことをしている」
「そりゃあ、ちまちま働いてても疲れるだけだし」
「今すぐやめなさい」
「え?聞き間違いかな」
「今すぐやめなさい、弱者を食い物にするのは最低な人間のやることだ」
「嫌だね、お金はお金じゃん!」
一瞬何かと怪訝そうな表情を浮かべるがすぐに険しい顔つきになる。やめるよう説得を試みてみるが息子は聞く耳を持たないことに壁を殴るつもりがすぐそばにあった鏡を叩き割る。
「そんなことを学ばせるために学校に通わせたんじゃない!」
「賢く生きる術を学んで来いって言ったのは父さんじゃないか」
「妻に頼み込んで学校に行かせた自分がいけなかった」
「なんでそんなにきつく言うことはないだろう」
「そうじゃない!まだ機会はあるからその世界から足を洗ってくれ」
「嫌だね!」
ショーンもまさか父が怪我を顧みず鏡を叩き割るとは思いもしなかったのか若干怯みつつも、理解を示さなかった父に見切りをつけ部屋を出ようとする。
「いつか後悔することになっても?」
「我が道を行く」
「ショーン!いつでも帰って来い、何をしようとも俺は味方だ」
どんなに悪事を働こうとも息子であるという事実は変わらない。帰りたくなったら、過ちに気が付いてくれたらいつでも帰ってほしいという願いすら感じさせる言い方だった。
「お兄ちゃん?」
「お兄ちゃんしばらく会えなくなるかも」
「どうして?」
「そうしようと思ったからさ。もう決めたことだ」
「行ってしまわれるのですね?」
「ああ、決心したからな」
「そうですか。ショーン様くれぐれもお体ご自愛下さい」
「ワーダン、また会おう。約束だぞ?」
「約束っ!」
部屋から出るとワーダンといつも良くしてくれている執事が控えていた。ワーダンは幼いゆえに状況を理解していないようだったが執事は違うようだ。
ー・ー・ー
ところは変わり貧民街の一角。みすぼらしい外観だが、建物の中に入ってしまえば異質さ感じさせる豪華な内装の中に3人。
「追い出されたのか?」
「まぁそんなところです」
「そうか、それは災難だったな。寝泊まりするところは?」
「ないですね、これから探す予定です」
「だったらいくつか空きのある隠れ家を使うといい」
「ありがとうございます」
「そのかわりじゃんじゃん働いてもらうぞ。覚悟しとけ」
「はい!」
今日中に目星を付けていた長期で寝泊まりする場所を回る予定を立てていた。だが思いがけず手間が省けてショーンは嬉しそうにしていた。
「荷物持って行ってこい。案内してやれ」
「わかりました。ついて来い、案内する」
「先輩、よろしくお願いします」
「今から外に出るからショーン、いやベリアムを頼んだぞ?」
そう言い残し、レブドルクは部屋を急ぎ足で去って行った。
「ここだったんですね、以前先輩に部屋に入れてもらったことあります」
「あいつはつい最近に亡くなったよ」
「どこか移ったとかではなく?」
「ああ、身元不明の死体安置所でな」
「そんな....いい先輩だったのに」
「推薦者って聞いたことあるか?」
「優秀な冒険者に贈られる称号のようなものですよね?」
「だいたい合ってる。お前も気をつけろ」
「わかりました。推薦者は上部から情報は無いのですか?」
「出回る情報は名前だけだからどうしようもないのが実情だ」
「顔がわかっている奴だけでもまた教えてやるよ」
「ありがとうございます!」
一階には食堂があるのか、お昼時なこともあり人だかりができている。おまけに空腹を引き立たせる香ばしい匂いを辺り一面に漂わせていた。これから使うことになる部屋は3ヶ月前くらいに来たこともあって覚えていた。
「おお、ベリアムじゃないか」
「シェリアムさん!こうやって会って話すのは久しぶりですね」
「じゃあ俺はやることあるから」
「案内ありがとうございました!」
「ああ、またな。それと声は張り上げなくていいぞ」
手を振り、案内してくれた人は去って行く。影はあるがいい人そうだし、名前を聞いておけばよかったとショーンは思うのだった。
「結構な荷物だな、手伝ってやるよ」
「ありがとうございます」
「もちろん、それとお前と俺の仲だ。敬語なんて使わなくていいぞ?」
こうして、偶然居合わせたシェリアムという人に荷物の運び入れを手伝ってもらったことで思っていた以上に時間余裕が出来ていた。
―・―・―
与えられた場所は3階なだけあって景色も悪くない。部屋も広さもあり個室、寝具が固いことに目を瞑れば最高の居住環境だった。
「今日は1階の酒場で、夕食でも食ったらもう寝ようかな」
「いらっしゃいませ〜」
「一番右端の安い夕食を頼む」
「わかりました。カウンター席でもよろしいでしょうか?」
「どこでもいいよ」
「ありがとうございます」
運ばれてきた料理はもっとひどいものを想定していたが思いのほか舌を唸らせてくれる美味しい料理だった。一階で食事をとった後、軽く荷解きをしてその日は眠りに就いた。




