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この世界も生きている  作者: 宮ミヤ蝉
第1章 驚異的な適応能力
31/410

第25部分 雨降る日に②

旧:2,671字 ⇒ 新:4,510字(1,839字 up!)

ー・ー・ー

 授業が終わり、大きく伸びをしながら近くの人に聞こえるような声で呟いた。

「ふ〜やっと終わったか、アリッサム先生の授業がな」

「ハル、何そのやりきった!っていう顔」

「おお〜ハル珍しく叱られなかったじゃないか」

「本気出したらざっとこんなもんよ」

 誇らしげに胸を張っていたのもつかの間、普段生徒が廊下を走っていたら叱る側の教師陣が廊下を走っていることに意識が向かう。先生が約束を破っていることを言うよりも走っている理由を皆、気になって無言で廊下を見つめていた。なぜか知らないがやけに隣の教室は盛り上がっている。

《....》

「皆さん、今日の授業はこの時間が最後です」

「帰宅するもいいですがこの雨ですし、落ち着くまで待機することを推奨する!」

「どういうことかわかる?急すぎて理解が追い付かん」

「もう帰れるってことだよ。雨が弱まったら早急に帰るわ」

《うおぉぉぉっ!》

 教室が喜びの声で震える。ついさっき隣のクラスが盛り上がっていたのもこれだろう。

「くれぐれも安全第一で行動するように!」

「返事は!」

《はいっ!》

 しばらくすると、盛り上がっていた隣の教室とは逆側の教室が盛り上がる声が聞こえていた。


―・―・―

 教室に残っている友人と別れを告げ、ハルは図書館がある建物へと移動している。

「ハルは図書館?」

「うわぁっ!びっくりした、なんだシーリンか」

「へへっ、驚かせるの成功!」

 教室がある建物では何人かとすれ違ったが、図書館がある建物に入ると人の気配は無くなった。と思っていた矢先にそれなりに大きな声で肩に手がかけられる。驚かせるのに成功したのがよほど嬉しかったのか満面の笑みだった。

「教室で友達といないの?」

「うん。ハルと過ごしている方が楽しいし、なんか落ち着く」

「部屋に戻っても何もすることがないからね。いつもみたいに図書館で過ごすよ」

「また、パルメキア帝国文献?」

「まぁそんなところかな。それ以外もいろいろな書物があるからね」


 またしばらく歩いて図書室の前に着く。館内の明かりはついているのに、いつもと違い扉が開いていない。

「あれ?入口の扉が閉まってる」

「ハル、鍵は空いているみたいだぞ?」

「のっ、覗くの?」

 普段なら開いていてもおかしくない時間であるはずなのにいつものように扉が開いていない。ただ立ち尽くすハルとは対照的に、シーリンが扉に手をかけてみると開いたので中を覗いていた。

「誰もいない、今日は休館日?おかしい、今日は空いているはずの日だけど」

「紙にも今日は休館日じゃないはずなのに。職員室言って聞いてみる?」

「ここからかなり距離あるもんね。ただ本を見るくらいならいいんじゃないか?」

「一応やめておかない?なんかあったら嫌だし」

 つい最近職員室の奥にある生活ギルドのギルド長室に呼び出されたハルは何か嫌な予感を感じてやめようと口にする。

「そうしよっか。ハルみたいに呼び出されるのはごめんだからね」

「ちょっとそれは酷くない?」

「ふふっ、冗談だってば」

「ふ~ん....そうなんだ」

「ほっ、本当だって!信じてよっ」

 そんなこんなでふざけ合いながら図書室の前を後にする2人がいた。


―・―・―

 バルバを酷使して、強い雨に打たれながらやっとの思いで取水口にたどり着く。

「着いた!急いで行くぞ」

「先行っていてくれ、あとで追いつく」

「わかった、先行ってるぞ」

 足が普通の人よりは悪いのでオーレックの速さには到底ついていけないため先に行くように叫ぶ。その言葉に頷くと、凄まじい速さで階段を駆け上がり瞬く間に彼の姿は見えなくなった。

 ここに来たことはあるが、水路橋の取水口の管理室に行くのは初めてだったのかしばらく2人は迷っているようだった。2人の表情が陰り始めた時、やっとの思いで見つけて覗くと一人の男性が気持ちよさそうに眠っている。

「おい!何寝ているんだ」

「うわっ、何なんだお前ら!見たことない顔だな」

「寝ぼけるのもいい加減にしてくれ。出てきてあれを見ろ!」

 最初は訝しげにずぶ濡れの2人を見ていたが、オーレックに強引に連れ出されて外を見るや否やみるみる顔が青ざめていく。

「俺も手伝うから水門を操作する場所に案内してくれ!」

「....はっ、はい!」

 2人で協力し、水門を閉め終えると取水口からほど近い煉瓦造りの物見やぐらから眼下を見下ろす。オーレックの記憶と照らし合わせると取水口は6割以上が流されたのか、美しい煉瓦造りの建造物は見る影もなかった。

「これはひどいな。なんでこのようになっても大丈夫だと思っていたんだこいつは」

「ねっ、寝てしまっていたから仕方が無いだろ?それで街に被害は?」

「今聞いているのは街の中で水路が崩落したらしい」

「そっ、そんな....」

 恐る恐る2人に聞いた管理人だったが、彼が想像した以上の被害だったようで膝から崩れ落ち床にうずくまる。

「これ程取水口が被害を受けているなら少し戻ったところにある水門も閉めたほうがよさそうだな」

「そうしようか、この水量が続けばここも危なそうだ」

「当然だが君も付いて来てもらおうか。でもオーレック、なんで完全に締める?」

「わかっています。逃げることなんて許されませんよ」

「他にもある水路の崩落の恐れが無ければそうしたい。けどほかの水路も同時期に建造されたものだ」

 オーレックは首を振り語りだす。グラーレンに南北の区域にそれぞれ主要水路橋が通っており、それらは同じ時期に竣工されたものだったので危険を孕んでいるのだ。

「....だとしても、ずっと締めておくわけにもいかないだろ?」

「この川の水量が落ち着いたら崩落した水路を除いてまた水を流すよ」

「元を締めるのは今だけってことか」

「ああ、じゃないと深刻な水不足になるだろうからね。さて、じゃあ行こうか」

 落ち着いて普通に考えてみれば確かにその通りだとギランも納得したようで頷いている。雨もいつの間にか止み、管理不足により被害を招いた元凶を連れて街へと戻っていく。


―・―・―


 とりあえず自警団に預けた後、人に現場の場所を尋ねながらやって来た。そこには保護ギルドの職員のほかに見覚えのある後ろ姿の人物が現場を指揮していた。

「久しぶりだなグライン。こんな形で会うとは思いもしなかったぞ」

「オーレック!君も来たか。見ないうちにちょっと痩せたか?」

「お前もそう思うか。生活保護ギルドの激務でね」

「おいおい、倒れないでくれよ?」

「妻にも言われた。気をつけるようにするよ」

「そうしたほうがいい」

「俺とは対照的にお前はちょっと肥えた?」

「やっぱりばれたか。妻の作ってくれるご飯が美味しくてね」

 グラインはお腹を摩りながら気にしてはいるようだが、ただの暴飲暴食ならまだしも理由がそうだったので幸せそうでもあった。

「お互い健康管理は気を付けないとな」

「さて、談笑してる場合じゃないよな。久しぶりの会話は良く弾む」

「今夜あたりどうか?」

「やめておこう、そんなことできる雰囲気じゃないだろ」

 オーレックは飲みに誘うがグラインはきっぱりと断る。水路橋とほど近い住民は普段通りの生活は送れないに等しい被害を被っているのを見ると話は別のようだ。

「律儀だな。相変わらず」

「そうでないと冒険者ギルドの長は務まらんよ」

「元通りに復旧できるのはいつになるだろうな」

「見ての通り滞水の問題と王都みたいに舗装していないから泥濘に苦労しそうだ」

 王都は主要路はすべて砕石舗装がなされており多少の雨ないしくるぶし程度冠水していても馬車はものともせず行き交うがここグラーレンは違う。砕石舗装がなされているところもあるが王都に比べれば10分の1あるかないかのごく狭い範囲のみ。

「ざっと見積もって、1ヶ月くらいはかかるかな?」

「俺も専門外だからさっぱり。バライト!お前詳しいだろ」

「グライン、どうかしたか?」

 グラインの呼びかけにすぐさま反応し冠水した道路の水をかき分けてやってくる。

「工期だけどどれくらいかかりそう?」

「崩落部分のみの再建でも問題ないと思う。だが長期的な目線で見るとね」

「一時しのぎにしかならないってことか」

「そういうことです。それならすべて取り壊して新しく作ったほうがいいかと」

「だけどその間ずっと水路は使えないのか?」

「えっとですね、これは水路じゃなくて水路橋だよ?」

 バライトは小ばかにしたようににやけたあと、間違いを言ってあげたようだ。指摘されたオーレックはと言うと少し恥ずかしそうに頭を掻く。

「そっ、そうなのか。覚えておく」

「彼の言う通り、長期に渡り使えなのは問題でしょう。ですからまず崩落部分を修復し、建設できそうな場所に新しい水路橋を建設していくのが一番市民に負担を掛けないかと」

「バライト、オーレックは生活ギルド長だぞ?」

「....え?」

バライトの提案をそのまま採用しても良いのではないかという素晴らしい内容。だが親愛なる友人への口調が我慢ならず少し苛立ち気味に話す。バライトの目が点となり、しばらくオーレックを見つめていた。

「よろしくな。自己紹介が遅れたがギルド長をしてるオーレックだ」

「すっ、すみません!知らなかったので」

「いいよいいよ、勉強にもなったし。それはそうとグライン、言わなくてもよかったのに」

「俺が嫌だったの」

「そっ、そうか。どれくらいかかりそう?」

 グラインの気持ちはうれしかった。ただ、若い世代と話すとき最近は敬語ばかりで距離を感じることが多く、これくらいの方がうれしかった。雰囲気が悪くなっていたので慌ててオーレックは話を再び水路橋へと戻す。

「そっ、そうですね!半年以上はかかると思っておいた方がいいと思います」

「「なるほどね」」

「工法とか何かオススメとかあるか?」

「それでしたら、新たに確立されたターイン法はどうでしょうか?」

「渡しの部分をアーチ状に煉瓦を積んでいく方法か」

 バライトは頷いて話を続ける。ターイン法、それは煉瓦の使用量を大幅に削減でき、なおかつ従来の壁面のような水路橋にする必要が無いという画期的な工法である。

「煉瓦の消費量も格段に抑えられて、街を分断する心配もないですからね」

「水の需要が増える夏じゃなくて本当に良かった」

「そうだな。にしても今年の季節の変わり目の雨量は類を見ないな」

「じゃあグライン、俺は向こうを手伝ってくるぞ?」

「わかった、また呼んだときは頼むよ」

「わかりました!ではオーレックさん、失礼します」

「オーレック、あの宿を手配しておいたからそこに泊まるといい」

「あの宿か懐かしいな。それとここまで往復するのも大変だからな」

「昔と違ってあの宿の一番安い部屋じゃなくていい部屋を手配しておいたよ」

「なんか悪いね、何から何まで」

 よく冒険者だった頃に、パーティーメンバーとよく泊まっていた宿屋があった。グラインのがいう宿とはその宿のことだろう。

「いいってことよ、明日から頑張ろうな」

「水が引くまで明日いっぱいはかかりそうな気がするがね」

「作業はできないにしてもやることはある。顔色も悪いし今日は宿にもう行くといい」

「恩に着る。ギラン、待たせて悪かったな」

 宿屋に着いてから、軽く食事を済ませた後。歯磨きや汚れた体を洗うなどしてオーレックとギランはいつもに比べ早々と寝床についた。


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