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異世界は生きている  作者: 宮原 匠
第1章 驚異的な適応能力
30/409

第24部分 雨降る日に①

4/27:一部を変更しました。


8/8:仕様を変更しました。


2023年10月14日 (土)

旧:3303字 ⇒ 新:6266字 (2,963字 UP!)

 使っている部屋に戻る途中、人影少ない廊下で独り言をつぶやいた。

「少し心配しすぎだったかもしれない」

 退学通知であればこれからは冒険者等で生計を立てていかなければいけないところだった。最悪の事態は考えたくなくても自然と脳裏によぎる。

「意外と面倒なことになった、な。ん?雨の匂いがする」

 身構えていたこともあってか、昨日ほどではないが目に見えて疲れた顔をしていた。まさか、パルメキア帝国の文献のことを言われるとは....確か、ダッチも噂を聞きつけているみたいだから意外と有名になっているのかも知れない。

 雨の匂いがすると思い、薄暗くなってきた外を見てみればしとしとと雨が大地を濡らしている。


ー・ー・ー

 次の日の朝、考え事をしながら窓際でただ大地に降り注ぐ雨を眺めていた。

「久しぶりの雨はうれしいが少し降りすぎな気がする」

 以前雨が降った日は正確に覚えていないが、それくらい久しぶりだというわけだ。だが、普段では考えられないくらいの桶をひっくり返したような土砂降りの雨。外に目をやれば運動場には記憶にないくらい大きな池が出来上がっていた。

「オーレックさんどうかしたんですか?」

「いや、ちょっとした考え事だよ」

「ならいいのですが。もしかして昨日の少年こと?」

「それもあるけどね、雨が心配でね」

 昨日のこと、それはハルがパルメキア語を読解できるという噂が本当だったこと。とんでもないことではあるのだが今は、雨が気になっていた。

「心配性ですねぇ。確かにいつもよりは強いですがいずれ止みますよ」

「止まない雨は無い、だったか?」

「そうですよ、昼までには止むと思いますよ」

 普段は楽観的なオーレックなのだが今回はなぜか心配そうに窓の外を眺めているのはある意味新鮮な姿だった。

「おはよーございまーす!」

「今日も元気だねぇ!」

「いよっ!雨雲も吹き飛ばす元気さっ!」

「オーレックさん!見てくださいよ、びちょびちょです!」

「途中であきらめたのか?風邪ひかないようにな」

「雨が滴るいい女でしょ~」

 普段は場の空気を盛り上げてくれるはずのオーレックが珍しく静かなので彼女の登場で一気に職員室の空気が明るくなった。ただあまりに濡れていたので風邪をひかないか心配している同僚の姿も見られた。

「君を見てると雨脚の強さを心配しているのがばかばかしくなるよ」

「着替えて来いよ、床を拭くのが面倒なんだから」

 自分の机に両手で抱えていた荷物を置いてから、それなりの大きさの手提げ鞄を持って職員室を後にした。あの鞄の中には着替えでも入っているのだろう。


「着替えに行ってくれたな。はい、タオル」

「へ?僕ですか?」

「ああ、床を拭くのを頼んだよ」

「なんで俺が床を拭かないとダメなんだよぉ」

 自分の授業の準備が終わったのか、ウトウトしていた人にタオルを渡して床を拭くのを頼む。頼まれるなんて思ってもいなかったのか困惑しつつも渋々床を拭き始める。

 オーレックはというと彼に床のことは任せ、もう一度見たいと思っていたハルの資料の所在を聞くためにアリッサム先生のもとへ向かった。

「アリッサム先生、ハルの資料ってどこだっけ?」

「私の机に置いてあると思います、勝手に持って行って大丈夫ですよ」

「また見たりするか?見ないなら私が片付けておくが」

「助かります!なんなら後で片付けないと思っていたので」

「わかった。じゃあまたなんかあったら頼むよ」

「いいですよ。私も個人的にハル君のことは気になりますから」

 アリッサム先生とオーレックは手短に会話を交わし、時間も時間だったので授業の開始時刻に間に合うようにアリッサム先生は職員室を出て行く。彼女と同様に1限目の授業を持っているほかの先生方も職員室を出て行ったので職員室はだいぶと静かになった。


ー・ー・ー


 背伸びをしながら、いつもになく薄暗い窓の外を無心に眺めていた。着替えて学食を食べに行かなければいけないのだが面倒だった。明日を絶望視せず当たり前のように次の日を迎えられることがこれほど尊く、どれほど幸せなことだったこと思い出せた。

「んー!よく寝られたな。今日も雨か」

 しばらくして、突如として部屋の扉が強く叩かれる。

「おーい!起きてるか?」

「この声、なんかいつもと違うけどテルスだな?」

「よくわかったな。声変えて言ったんだけどなぁ」

 鼻をつまんでいつもと声を変えて言ってみたが甘かったようで一瞬で見破られてしまう。だがそこに笑いが生じ楽しかったからその後のことなんてどうでもよくなった。

「少しで着替えが終わるからちょっと待ってて」

「いいよ~」

 2分経つか経たないかという時、ハルが着替え終わり部屋の外に出た。テルスにとって、もう少し時間がかかっても気にすることはなかったのにそういうところに気を使ってくれるのがハルらしいと思っているようだった。

「お待たせ!待っててくれてありがとう」

「もっとゆっくりでも良かったのに。急いでくれるのはうれしいけどさ」

「いいのいいの朝食、食べに行こうよ」

「そうだね、行こうか。今日、ギラン先生の授業があったら模擬戦やらずに済んだのにね」

「まぁ、確かにこの雨だったら中止になるだろうね」

 3階から1階へと降りた後、廊下をしばらく歩くと食堂に着いた。だがそこにはいつもとは違う光景が広がっていた。そう、普段ならにぎわっているはずの食堂にはまばらな人しかいないのだ。

「結構空いているね....いつもと一緒ぐらいの時間なんだけど」

「雨の音でいつもより早く目が覚めたりしたのかな?」

「思えば朝方にかけて雨が激しかったもんね」

「そうなの?寝ていたから全く分かんないや」

「あの雨で寝られているのが信じられない。結構、いやかなり激しかったぞ?」

「なんか恥ずかしい。この話もうやめない?」

「なんかお前の嫌がり方かわいいな」

 嬉しくはあるがここまで閑散としているのは初めてだったので逆に不安に感じる。そんなハルをよそに、あの雨の音の中寝ることが出来ていたと言ったハルに驚いて早口になっているテルスの姿がある。

「なっ、なんでだよ!からかうなら朝食の献立見といてよ」

「わかった。野菜のスープと黒パンとデベロウガのステーキ、か。今日は当たりだね!」

「知らない。なにその食べちゃダメそうな名前の肉?」

 この話を何とか終わらせようと無理やりではあるが今日の朝食の話題を振って、何とかテルスとの話題を変えることに成功する。偶然知らない食材が使われていたことで話題を違うものにする良いきっかけとなった。

「普通に美味しいお肉だよ。結構有名だと思うんだけど知らないんだ」

「初耳だね。個人的には食べてはいけなさそうな名前だと思ったけど」

 グワッハから一般常識を教えてもらったが、生活に関しての知識はまるで役に立っている気がしない。奴に対する不満を心中で吐露しながら料理を受け取った後開いている席へ着いた。

「見た目は普通の肉だし特に代わり映えは無いな。いただきます!」

「やっぱうまいな。パンによく合うし」

「おっ、美味しい。凄い美味しいねこの肉!」

「だろ?買ったら値段は高めの部類に入るけど、旨いからお金を出したくなる」

「くっ、これが最後の一切れ。名残惜しい」

「4切れしかそもそもないからあっという間だね」

「ああ、美味しかった。テルスの言う通り今朝の朝食は当たりだね」

 朝から満腹になるまで食べれて、なおかつ内容も十分すぎるくらい質の高さ。塩、いやグラーレンは内陸部だろうから岩塩が絶妙に肉と調和しており舌鼓したつづみを打つ旨さだった。

「さて、俺は授業の準備をしてくるからまた後でね」

「俺も準備しに行かないと。1限目はアリッサム先生の授業かぁ」

「お前、なぜか知らないけど目をつけられてるもんね」

「わざわざ口にで言うのやめよう、ね?」

「へーい。じゃっ、また後で!」

 一応余裕をもって起きている2人ではあったが時間はいくらでもあるわけではないのでそそくさと食べ終え、教室でまた合流する約束を交わして分かれる。テルスの言っている通り、目をつけられているハルにとっては憂鬱な授業ようだ。


ー・ー・ー


 教室ではいつものメンバー、10人程で固まって何気ない会話を交わしていた。その中にハルもいる。

「今日は初っ端からアリッサム先生の授業かよ~」

「ハルに関してはなぜか知らないけど目をつけられているもんね」

「今朝テルスにも同じこと言われたんだけど」

「あれだよあれ、『ハルどこ見ているの!』が一回の授業で必ず聞けるからね」

「エルマンまで同調しないでよ」

 テルスに朝言われたことをもう一度今度はシーリンに言われエルマンにも同調され笑いが生まれる。実際このアリッサム先生の授業で教室内では異常なほど目を着けられていた。

《はははっ!》

「もうすぐ始まるし、席についておこうよ。あの説教は二度とごめんだからね」

「珍しくあの先生はしっかり怒ってくれるよね」

「寝ていたら容赦しないもんね。問答無用で叩き起こされるし」

「シーリンの時もあるぞ?ある意味怒ってくれる先生は貴重だよね」

「ああ、確かにな。でも2時間くらい絞られた時....思い出したくもない」

「シーリンはなぜか知らないけど、遅刻して長時間絞られてたやつね」

「話の矛先が俺に向かっているね。まぁいいけどさ」

 ハルのことを揶揄からかったつもりがいつの間にか自分が対象となってしまっていたが、この会話を始めたのは自分だったので何とも言えないでいた。ハルの時ほど盛り上がらなかったのは彼にとって救いだっただろう。

「あの時はもちろん1対1だった?」

「ああ、1対1だったよ。無駄に真面目で困ったよ本当にね」

「無駄って相当恨んでんだな。お前の口からそんな暴言が出て来るとは」

「ぎゃははっ!腹痛い」

「そこ!先生の悪口を言うならまず自分を見直したらどうなの?」

「やべっ!フローラの説教が始まる!」

「逃げろー!」

 逃げると言っても教室の窓際にいたのをフローラと距離をとるために廊下側に場所を移しただけだった。フローラにとってはなかなか効果覿面こうかてきめん。腹を抱えて笑っていた友人はというと、よたよたと距離をとっていた。

「もう!私がまるで先生みたいじゃないの」

《はははっ!》

「ハルはわかってくれるもんね〜」

 考え事をしていて逃げ遅れたハルにはフローラからの圧を加えられる。彼女の迫力に気をされ、ただ頷くことしかできていなかった。

「え....うっ、うん」

「あなたたちもハルを見習いなさいよ!」

「ハル!君は優しすぎるよ。さっきはわからないって言ったら一人前だったぞ?」

「ちょっと、何ハルに教えてるの!」

「外野はうるさいぞフローラ?」

「むぅ....」

 エルマンから強く言われてしまい、頬っぺたを膨らませ不満げに睨む。言い返そうと思った矢先、エルクレア先生が来たことが教室に瞬く間に広がりそれどころではなくなってしまった。

「先生来たぞ、座れっ!」

「やべっ、急げハル!」

 エルクレア先生が教室入りすると、先ほどの賑やかさが嘘のように静まり返って授業を受ける体勢となっていた。ハルも席から少し離れた場所にいたが無事間に合ったようだ。


ー・ー・ー

 そろそろ昼食時だというのに、まだ雨は強さを保ったまま降り続いていた。

「たっ、大変です!オーレックさん!」

 息を切らし、普段は入り口近くでいる人が教室にずぶ濡れになりながら駆け込んでくる。彼の慌て具合からただ事ではないことを悟って職員室に緊張が走る。が、そんな時でもオーレックはいたって冷静だった。

「どうした、そんなに慌てて。これから昼食を食べに行こうと思ったのに」

「今結構な人が押し寄せていて皆口をそろえて水道橋が崩れたって言うんですよ」

「嘘だろ。恐れていたことが現実になった?」

「老朽化が指摘されていましたからね。この長雨が祟ったのでしょうか」

「静かに!最低限の人員を残して向かってくれ、冒険者ギルドにも報告を頼む」

《....》

 力強い声で叫ぶとざわめいていた職員室に静寂が訪れる。元冒険者だけあり無駄のない的確な指示を出す。

「午後の授業は?」

「もちろんやめだ。街を優先してくれ。皆!働いてもらうぞ!」

《了解っ!》

 バラバラだった職員室が一体となり、互いに協力しながら自分のやるべき仕事を各々が見つけ動き出す。あそこでオーレックが指示を出さなければあのまま暫くぐずっていたことだろう。

「ギラン、悪いが私と一緒に来てくれ」

「わかった。どこに行くんだ?」

「水門を閉めに行くぞ。バルバに乗れるよな?」

「もちろんだとも。急いでくれ!俺に置いて行かれるなよ?」

「お前こそ足悪いんだから振り落とされないようにな」

オーレックとギランの二人が去った後の職員室ではつかの間の静寂が訪れた後、先ほどのように騒がしくはなっていないがまだざわめきは後を引く。

「静かに!生徒たちに午後の授業が無いことをまずは伝えましょう!」

「なんて伝えればいいんでしょうか?」

「諸事情って言えばいいわ!」

「みんな行くぞ!」

《おう!》

 仕事を見つけられずにいた先生たちも職員室から出る。職員室は珍しく誰もいなくなった。

一方、現場での状況は刻一刻と目に見えて悪化しつつある。泥水であっても一定数使い道はあるので普段流れる水量の半分以下に減らされる手筈なのだが普段流れる以上の水量が流れていた。

「これでも雨天の場合の量なのか?多すぎるだろ」

「残された時間は少ない、急いでくれ」

「諦めろよ!もう、きみの友人は....」

「お前が生きているこの事実が何より大切だぞ」

「それ以上言わないでくれ。頼むから言わないで欲しい、気が散る」

 昨日も雨降る中酒を飲みに行く仲で、悩み事も打ち明けられるとても長い付き合いの友人。ほかの友達からは何度も逃げようと言われている。頭では理解しているつもりでも、心は理解することなく体が無我夢中に瓦礫をどけている。

「だったらなんで!」

「また崩れて来るぞ!離れろよ」

 最初に崩れだした場所の周りから徐々に崩れていっている。先程も大きく崩れ、またかなり崩落した。先ほどまで彼らがいた場所には瓦礫が降り注ぐ。

「ただでさえ排水能力が皆無に等しいのに」

「どんどん崩れてくる。水の力は侮ってはいけない」

「元を断たない限り崩れるのは止まらない!」

 ただ一人で作業させるわけにもいかず説得しつつも彼を手伝ってやっていた。だが、彼らが口々に言うように残された時間はわずかだろう。手伝っている1人がいら立ちをあらわにして顔を殴る。

「いい加減にしろよ。もう助からない!」

「もう一度言う、下敷きになったのは俺の親友なんだよ!助けないわけにはいかない」

「だったらなおさら逃げるぞ。知り合いも道連れなんか望んでいない」

「そうだよ!本当に死んじゃうよ」

「くそおぉぉぉっ!」

 殴られたほっぺたがズキズキと痛むし血の味がした。ただ叫ぶ、ぶつけることの出来ない自分の不甲斐なさを少しでも紛らわせるために。

「完全に崩落するのも時間の問題だぞ」

「急いでできる限り遠くに行こう。あれが崩壊したら近くの家屋まで巻き込むだろうから」

「すまない、本当にすまない....不甲斐ない友をどうか許してほしい」

 座り込んでいる奴を半ば無理やり連れだしたが彼らの選択は間違いではなかった。手伝っていた友人達が水路から距離をとれた頃、最初の大崩落と同程度、いやそれ以上の崩壊が聞いたことも無いような音を立て崩落した。

「ここでも危ないんじゃないか?」

「逃げよう、もっと距離を取らないと足を取られる」

「水嵩も先ほどよりも増して膝に迫っているしな」

ここでも危ないと判断しすすり泣く友人の手を取りながら走って逃げることにした。



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